第65話 スカイスライム大会(その1)

 村の中心にある広場に、スカイスライム大会の受付所が設置された。

 といっても、既に参加するこの村に住んでる人の受付は済んでいる。

 いま行ってるのは、外部からの参加者だ。

 その受付も、さっき来た団体客――たぶん隣の村から一緒に歩いてきたのだろう――の受付を済ませてしまったので、とりあえずひと段落といったところか。


「あぁ、受付って面倒だな」


 本当は、この受付はバズがする手筈になっていたのに、あいつ、まだ来てないんだよな。

 さすがに領主自ら受付をするわけにはいかない。エイラ母さんも同様。

 そして、村人の中でも文字を書くことができる人間は限られていて、そういう人はだいたい仕事をしているか、スカイスライムの最後の仕上げをしている。

 そのため、消去法で僕が受付席に座る事になったのだ。


「おう、坊主。スカイスライム大会の受付はここでいいのか?」


 また参加者がやってきた。

 ロジェ父さんくらいの年齢の男性が二人。

 一人は古い革の鎧を着ている。

 冒険者だろうか?

 さすがに盗賊ってことはないと思う。

 もう一人は黒いローブを着ていた。

 もしかして魔術師?


「はい。どの部門に参加なさいますか?」

「高さ部門だ」

「私は芸術部門でお願いします」

「名前をお願いします」

「ジョンだ!」

「ジョニーです」

「ジョンさんとジョニーさんですね」


 ジョンにジョニー、この世界の定番の偽名だ。

 といっても犯罪者が使うような偽名ではなく、どちらかといえば、匿名希望という意味合いが強い。


「これは皆様に伝えている注意事項になります。名前は偽名でもかまいませんが、入賞なさったとき、賞状にもその名前が書かれることになります。入賞が決まった時点で書き始めますので、表彰式前に実名を名乗られても変更はできません」

「ああ、構わない」

「え? ……はい」


 ジョンは即答したが、ジョニーの方は少し躊躇った。

 少なくともジョニーさんは偽物――いや、構わないと返事してるのだから、ジョンも偽名か。

 実は有名な冒険者とかかな?


「はい、受付を終了しました。ジョンさんの番号は92番、ジョニーさんの番号は352番になります。この札は腕の見えるところにつけてください」


 そう言って、僕は番号が書かれた木札を二人に渡す。

 高さ部門の参加者は1~200番、技術部門は201~300番、芸術部門は301~400番と割り振っている。

 いまのところ、高さ部門の参加者は92人、技術部門の参加者は13人、芸術部門の参加者は52人となっている。

 技術部門の参加者がやけに少ないのは、昨日ラナ姉さんが調子にのって二本糸スライムを飛ばしまくったせいで、あんなのに勝てるわけがないと思った技術部門に参加予定の村人たちがこぞって高さ部門にエントリーし直したからだ。


「なぁ、坊主。やけにしっかりしてるが、もしかしてセージ・スローディッシュってお前か?」

「はい、そうです」

「そうか! バズの奴から話を聞いてるぞ。なんでも、凄腕の料理人らしいじゃないか!」


 バズの奴、僕のことをなんと紹介して回ったんだ?


「料理人と名乗ったことはないよ」

「違うのか?」

「はい、僕は料理を作るより食べる方が好きですから。でも、食べたいものがあるのに、作ってくれる人がいないと困るから、料理のレシピを提供しているんです。それに――」


 と僕は不敵な笑みを浮かべて言う。


「新しい料理のレシピを作ると、お金になるって教わりまして」


 と親指と人差し指でお金のマークを作る。

 すると、ジョンも僕と同じように不敵な笑みを浮かべて――いかついおっさんがそんな風に笑うと怖い――言う。


「なるほど、坊主は子供なのに金の重みを理解しているんだな。どうだ? 俺にレシピを売る気はないか? 高く買うぜ」

「断るよ。そもそも、僕がどんな料理のレシピを提供するかも決めてないのに、高く買うなんて言う人が信用できないからね」


 僕がそう言うと、ジョンは不快に顔をゆがめることもなく、僕の肩をバンバン叩いて――痛い――言う。


「お前、本当に賢いな! どうやったらお前みたいな賢いガキができるんだ?」

「子供を賢くする前に、あなたは結婚しないといけないでしょ」

「そうだったな!」


 今度はジョニーの肩を叩く。

 この二人、性格は正反対っぽいんだけど、馬が合っている感じがする。

 仲がいいんだろうな。


「そうだ、料理でいえば、あっちの方でポテトチップスっていうお菓子が売られてるよ。美味しいから買ってきたら?」

「本当か? そうだ、坊主の分も買ってきてやろうか?」

「僕は昨日食べ過ぎたからいらないよ」

「食べ過ぎちまうくらい美味いのか! おい、行くぞ」

「はい――それでは、セージくん、失礼します」


 二人はそう言ってタイタンの出している屋台の方に向かった。

 さらに別の団体客が来て受付を済ませる。

 さて、そろそろ受付時間が終わるって頃に、バズがやってきた。


「セージ様、お久しぶりっす!」

「バズ、何今頃やってきてるの。もう受付時間終わりなのに」

「俺にもいろいろあるんっすよ」

「唇に塩ついてる。ポテトチップス食べてきたでしょ」

「うっ、そりゃ新しい料理があるって聞いたら食べたくもなるっすよ。ただ、あれは放っておいたら湿気るから、行商の品には難しいっすね」


 この世界に袋の中に窒素を入れて保存する技術なんてないからね。

 でも、ポテトチップスが広まれば、ジャガイモに付加価値が生まれるだろうから、是非レシピは広めてほしい。

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