第213話 エルフ向け料理とロドシュ侯爵からの手紙

「リエラさん、是非当家の食事を楽しんでいってください。王都のものほど華やかではありませんが」

「気遣いありがとう」


 最初にパンとスープが運ばれてくる。


「これは味噌汁?」

「リエラさん、味噌を知ってるんですか?」

「うん。極東の国で飲んだ」


 さすが永遠を生きるハイエルフ。

 世界中を回っているんだな。


「私が飲んだ味噌汁は、魚で出汁を取ってるらしくて美味しくなかったけど」

「これはキノコで出汁を取ってるので大丈夫のはずですよ」

「そうなの? …………うん、美味しい。」


 僅かに口角を上げて頷く。

 お気に召したみたいだ。

 僕はパンを手に持つ。焼けたばかりなのでまだ温かい。

 パンからはふんわりとした優しい香りが漂っている。二つに割ると、表面からサクサクとした音が聞こえ、中からもちもちした生地が現れた。

 食べてみると、葡萄酵母の特有の風味がほんのりと感じられ、甘味もあるため食べる人を優しく包み込むようだ。


「このパン、いつもより美味しいわね」


 ラナ姉さんも僕のパンの魅力に気付いたようだ。


「僕の研究の成果だよ」


 と自慢げにいうが、味噌汁にはやっぱりご飯が欲しいんだよなぁ。

 と思っていたら、サラダが運ばれて来た。

 これはいつものサラダだ。

 そして、おからハンバーグとフライドポテトも。


「セージ、これはお肉……じゃないの?」

「材料は大豆とオート麦です。隠し味にナツメグを入れていますが、肉は一切入ってませんよ」

「そうなの?」


 不思議そうな顔をして、リエラさんはおからハンバーグを食べた。


「不思議。肉に似てるのに嫌悪感が一切ない。美味しい」


 エルフやハイエルフが肉を食べないのは、肉の味が嫌いというより、肉を食べることで嫌悪感を抱くことが原因らしい。

 その原因は彼女たち自身にもわかっていないそうだが、たぶん、神がそういう設定にしたのだろう。

 だから、肉と味が同じでも肉そのものを使っていなかったら、それは美味しい料理となる

 僕も安心しておからハンバーグを食べる。

 肉に近付けてはいるけれど、やっぱり肉がないから少し物足りなさを感じる。

 しかし、おからとオート麦の触感や風味が十分に美味しさを補っている。

 原価もこちらの方がはるかに安い……と言いたいけど、ナツメグのせいで普通に肉を買ってハンバーグを作った方が安いのは難点だ。

 

「これは、芋?」

「リエラさん、これを知ってるの?」

「東の国で食べた、これくらいの小さな芋に似ている。でも、だいぶ違う感じがする」


 あぁ、たぶん、サトイモのことかな?

 どうやら、ジャガイモは知らないらしい。


「これはジャガイモっていう芋なんです」

「初めて見た」


 最後のデザートはわらび餅だ。

 運ばれてきた後に、アメリアとキルケがそれぞれきな粉を塗す。


「あれ? 今日は蜂蜜じゃないのかい?」

「なにかしら? 砂……じゃないわよね」

「これはきな粉」


 説明したのはリエラさんだった。


「大豆から作る粉。極東の国では、このきな粉を使った菓子がいっぱい作られている。まさか、この国で食べられるとは思っていなかった」


 さすが、リエラさん。わらび餅もきな粉も知っていたんだ。 

 ていうか、ヤマトの国にもやっぱりわらび餅あったんだ。

 ソーカがわらび餅を見たとき特に何も言わなかったからないのかもしれないと思っていた。


「なるほど、極東風のお菓子なのね」

「蜂蜜もいいけど、これも美味しいわね」


 ラナ姉さんも満足そうに食べる。

 そして、食事の後、リエラさんは客室へと案内され、僕とラナ姉さんが残された。


「セージ、今日の食事はどれも美味しかったよ。リエラさんも満足そうだった」

「リエラさんから貰った本のお陰だよ。エルフの好みの味とかいろいろと知ってたから」

「美味しかったけど、私はおからハンバーグより、本当のお肉の方がいいわね」

「あら、私はあのおからハンバーグも好きよ。体に良さそうだもの」


 エイラ母さんは健康志向なのか。

 だったら、甘いものは控えた方がいいと思うんだけど。


「さてと。リエラさんが今回来たのは、エルフの森の話だけじゃなく、ロドシュ侯爵から手紙を預かってきてくれたんだ」

「手紙? バズの商会のこと?」

「違うっすよ」


 僕がテーブルの端にいるバズを見ると、いつもの口調で否定した。

 バズのことじゃないのなら、アニスさんがお世話になったお礼とか?

 それとも、ラナ姉さんの騎士学校編入のお話?


「冒険者ギルドの支部ができるらしい」

「本当にっ!? やった!」


 ラナ姉さんが喜ぶ。

 冒険者ギルドができるのって、そんなに嬉しいことなのだろうか?

 ロドシュ侯爵は騎士学院の責任者でもあるらしいから、冒険者ギルドとの繋がりもあって、この町を発展させるためにも必要と思ったのだろう。


「大丈夫なの? 治安の問題とか。そもそも、この村で冒険者に仕事ってあるの?」

「治安は直ぐに悪化するわけじゃないよ。ちゃんと対策をしておくから心配ないさ。主な仕事は、北の鉱山町から王都への馬車の護衛と、北の山にいる魔物退治。それと街道の工事が行われるからそれの手伝いもあるかな?」

「最後のって、ほぼ雑用じゃない?」

「新人の冒険者なんてほとんど雑用係みたいなものよね」


 エイラ母さんがぶっちゃけた。

 ラノベの中でも、新人冒険者の仕事は薬草採取とドブ掃除って相場が決まってるからね。


「ねぇ、父さん! 私も冒険者登録していいの?」

「十二歳になったらね」

「えーあと五年も待てないわよ!」


 ラナ姉さんとロジェ父さんがやり取りする中、僕は考える。

 冒険者ギルドか。

 修行空間の倉庫に眠ってる、大量の魔物の素材をなんとかして売却できないだろうか?

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