第212話 ぶれないセージ
大豆、醤油、味噌は使ってもいい。ハイエルフ三人にも味見してもらったが好評だった。
パンには山羊の乳が使われているから作り直さないといけないな。
美味しいパン作りのために果物を発酵させて作っていた酵母と、バターの代わりにマーガリンを使おう。
キノコの出汁も今朝作っておいた分が残っているからスープのベースはこれでいいな。いや、やっぱり味噌汁にするか。
「セージ様、メインは何にしますか?」
「んー、おからハンバーグかな」
「おからハンバーグ?」
「うん。豆乳を作ったときに残ったものをオカラって言うんだよ。それを使って肉もどきの料理を作るんだ」
材料は、おからにオート麦を混ぜたものをベースにして、キノコの出汁に味噌。さらに塩コショウとナツメグも加える。
トマトソースも作って。
スープは味噌汁でいいかな? 前みたいにキノコ出汁でっと。
パンがいい具合に発酵してきたので、ティオに焼いてもらう。
さらに、ポテトを植物油で揚げてフライドポテトにして、ハンバーグに添えよう。
デザートはわらび餅にした。
ただし、今までのわらび餅ではない。
今までは蜂蜜で食べていたが、今回は大豆が手に入ったから、きな粉が使えるのだ。
乾燥した大豆を炒って、すり潰してもらう。
ペッパーミルでつぶせばいいと思ったが、ティオに大豆は硬いから刃が駄目になると言われた。
そのため、パンを発酵させている間にティオが大豆を持ち出して、タイタンに石臼で粉砕してもらうことになった。小麦より殻が硬いので力がいると思ったらしい。
ただ、タイタンが持ってきてくれたきな粉は、市販されているきな粉に比べていい香りがする。できたてのきな粉って、こんなにいいものだったのか。
タイタンもヴィーガン料理に興味があるらしく、ここからは三人で料理をする。
「これがおからハンバーグか。大豆ってこんな風になるんだな。師匠の知識にはいつも驚かされる」
「セージ様、慣れてますね。普通、急にやってきた客人に肉も魚も乳も卵も使っていない料理のコースを出すとなると困ってしまうものですが」
「エルフとの付き合い方の勉強をしてたからね。それに使える食材も増えたから」
僕はそう言って、完成した料理を見た。
身体が小さいので、ティオやタイタンに手伝ってもらわないと作れないものも多いし、レシピが曖昧なものはゼロに聞いたりして再確認しないと作れないものも多かったけれど、最近はレパートリーも増えてきた。
……あれ? やっぱり僕、もはや料理人じゃないかな?
「セージ、ロジェ父さんが呼んでるわよ。食堂に来てって」
「うん。じゃあ、ティオ、あとはよろしくね」
「かしこまりました」
「おう、任せろ」
僕は二人に任せて食堂に向かう。
エイラ母さんとロジェ父さんとリエラさん。
あと、バズに内政官のクリトスもいた。
「戻りました」
「座りなさい」
「はい」
短く返事をして席に座る。
話し合い、どうなったのかな?
「リエラさんはこの国と友好な関係を築きたいそうだ。エルフの代表者ではないが、大きな権限を持っているそうでね」
ハイエルフだからね。
きっと、どのエルフよりも年長者で、一部のエルフは彼女が普通のエルフではないことは気付いているだろうし。
そうなると、彼女に逆らおうと思うエルフは少ないだろう。
「そのきっかけは、セージ、君にあるそうだね?」
「はい? え……と、そのようなことは記憶にありませんが」
「セージの豆乳プリン」
豆乳プリン?
確かに作った。
美味しい物が食べられるから人間と仲良くなりたいと?
「乳も卵も食べられないエルフのための菓子を、エルフの森の向こう、西の海で取れる海藻。敵対関係にある帝国が名産の大豆。そしてそれを作った王国の料理人セージ。本来なら簡単に作れない料理をセージは私にくれた。人と人、人とエルフが協力すればだれでも食べることができる。そう言われた気持ちだった」
そんな意図はない。
単純に、あの時はプリンを作った直後だったから豆乳プリンを作ろうと、ゼロから天草は西の海から採れるって言われたから問題ないと思ってしまっただけだ。
僕の表情を見てか、ロジェ父さんもエイラ母さんも僕にその気がなかったことに気付いたのか、呆れたように首を横に振っている。
「一度、セージにもエルフの森に来てほしい。私が案内する」
「ロジェ父さんも?」
「悪いけど、僕はいけないんだ。これから収穫や納税で忙しくなるし、エイラを放ってはおけないからね」
「私の心配はいらないって言ってるのに」
エイラ母さんは身重だから動けないよね?
となると、子供ひとりで?
はさすがに無理か。
「最初はクリトスとバズのところの商会の人間に行ってもらうことになる。状況を見てから、セージもエルフの森に行くと思うけど、来年以降だね」
「そっか。じゃあ、バズーー」
「はい、セージ様。私は森へは同行しませんが、優秀な人材を――」
「エルフの森の向こうの港にいって、米の買い付け頼んでね」
客人の前なので丁寧な口調で話すバズに対して、僕は米の注文を行った。
小声で「セージ様、ぶれないっすね」と呟いていた。
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