第211話 エルフの窓口
米は近隣国ではオルートル公国で栽培されていることがわかったが、そのオルートル公国と交易をしているのが、バズに対して圧力をかけていたヒマン商会だった。
「バズは新たに販路開けないの?」
「無理っすよ。さすがに国境を越えての取引は経験もないっすからね。隣国ならまだしも、さらに遠い国となると」
「じゃあ、他にオルートル公国と取引してる商会はないの?」
「ないっすよ……あ、でもあそこなら」
「あそこ?」
「エルフの森の向こうに、どの国とも属していない自治都市があるんっすよ。その港は、オルートル公国とも取引をしているって噂っす」
もしかして、港町でもあるのかな?
エルフの森を抜ければ、海産物だけでなく、米も手に入ると?
なに、その天国みたいなところ。
「よし、行こうっ! 直ぐに行こう! 森を抜けよう!」
「いやいや、無理っすからね! エルフの住む森に行くなんて自殺行為っすよ」
「エルフの森に行きたいの?」
「だから、自殺行為――すみません。お客さんっすか?」
入口のところにフードを目深にかぶった女性が立っていた。
あれ? この声、もしかして――
彼女も僕に気付いたみたいだ。
フードを外して僕の顔を見る。
「……ん? セージ?」
「やっぱりリエラさんだ」
前に王都で会ったリエラさんがいた。
でも、なんで彼女が?
ド・ルジエールさんが僕のことを話したのかな?
僕のことは黙っていてくれると言ったけれど、口を割らせたのかも。
「セージ様、知り合いっすか?」
「うん、王都でお世話になったエルフのリエラさんだよ。リエラさんは何でここに来たの?」
バズの質問に答えながら、僕はリエラさんに尋ねた。
「ここの領主のロジェ・スローディッシュに用事がある。今後、エルフにとって人間側の窓口となる貴族になるってロドシュ侯爵に聞いたから。ロドシュ侯爵が支援をしているこの商会に口利きをしてもらって、そのロジェ・スローディッシュに会うつもり。セージはなんでここに?」
「僕、そのロジェ・スローディッシュの息子だから」
「……びっくり。でも納得した」
石細工を売ったのが僕だと気付かれたわけではないみたいだ。
全然驚いていない感じがするが、驚いたらしい。
何を納得したのかはわからない。
あぁ、僕がエルフの歴史について調べていたことかな?
エルフと関わる機会が多くなるロジェ父さんの息子だから、エルフについて調べていたと思ったのだろう。
実際のところ、あの時はまだロジェ父さんの陞爵も領地の拡大も決まっていなかったんだけど、訂正すると、「じゃあなんで調べていたの?」となるので、誤解したままでいいか。
「よかったら、父のところまで案内しましょうか? バズより役に立つと思いますよ」
「セージ様、酷いっすよ。まぁ、事実っすけどね」
バズが苦笑して言う。
米の入手先について聞いておいてなんだけど、バズは忙しいからね。
あんまり邪魔できない。
ロジェ父さんやエイラ母さんとエルフについて話したことは何度かあるが、特に差別意識や嫌悪感のようなものは感じたことがないし、リエラさんなら案内しても大丈夫だろう。
「お願い」
「お願いされるよ。バズ、これ、ミントへの手紙書いてきたから王都に行く人に渡して届けて。費用は僕の口座からお願い」
「ちゃんとした用事があったんっすね。かしこまりましたっす」
失礼な。
米の仕入れだってちゃんとした用事だぞ。
とリエラさんの前で文句を言えず、僕は笑顔で引き下がる。
リエラさんと話をしながら移動。
「前にいた女の子は?」
「女の子って気付いてたんですね。ミントは王都に住んでるからここにはいません。手紙でやり取りをして、元気に魔道具の開発をしています」
「そうなんだ」
「リエラさんは、探しているエルフさん見つかったんですか?」
「見つかってない。けど、三年前にやったという人を見つけた。ここ十数年で一番の発見」
「それはよかったですね」
どうやら、リリアーヌさんの痕跡が少しあったらしい。
「会った」じゃなくて「やった」なのか。
なにをやったのかは聞かないでおこう。
「ところで、セージはエルフの森に行きたいの?」
「はい。正確には森の向こうにあるっていう町が目的ですけど。海産物も欲しいし、お米も取引してるらしいんです。米があれば、料理の幅が増えますからね」
「セージは料理人なんだ。豆乳プリン美味しかったし。また食べたい」
「料理は趣味ですよ。あぁ、豆乳プリンですが、天草がもうないので作れないんです」
「だったら、森の向こうまで案内する。そしたら作って」
「え?」
確かにハイエルフのリエラさんが一緒なら、安全に森を抜けられる。
ただ、ロジェ父さんが僕だけの同行を許してくれるとは思わない。
んー、なんとかいい方法を考えないと。
リエラさんに買ってきてもらうのはどうだろう?
いや、米をトン単位で買うには、マジックポーチが必須だ。
彼女にマジックポーチを預けるのはロジェ父さんも許可してくれないだろう。
国王陛下から賜った品だし。
「父が許可をしてくれたらお願いします」
僕はそう返事をするにとどめた。
屋敷に戻った僕は、ちょうど屋敷の前の庭の手入れをしていたアメリアに客人だからとロジェ父さんを呼びにいってもらった。
アメリアは即座に対応してくれた。
やってきたロジェ父さんは、リエラさんを快く歓迎してもてなした。
食事については、僕に一任された。
「リエラさん、肉、魚介類、卵、乳製品以外で食べられないものはありますか?」
「特にないし、それらも食べられないことはない。無理なら多少なら使ってもらっても――」
「大丈夫です。夕食まで時間がありますからいろいろ準備しますね」
さて、本格ヴィーガン料理の開始だ。
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今日は久々にコメント付きレビューいただきました。
ありがとうございます。
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