第40話 セージに生み出されし者
「ウインドカッター」
魔法を唱えると風の刃が飛んでいき、ゴブリンの胴体に致命傷の傷を作る。
胴体を真っ二つにするつもりだったが、そこまでの威力は無いが、エイラ母さんが作った岩に対して魔法を使ったときに比べれば、ちゃんと成果が出ている。
エイラ母さんが、ゴブリンには有効だが、それ以上の魔物にはまだ使えないと言った理由がよくわかる。
実物のある弓矢と違い、相手には見えていないので、避けられることがないのは便利だ。さらに、射程も弓矢より長いので、いままで届かない距離にいる相手にも攻撃できる。
それに、矢のようにいちいち回収しなくていいのも嬉しい。
「セージ、魔法強いね!」
「まだまだだよ。あまり使いすぎると倒れるし、発動まで少し時間がかかるしね」
アウラに僕の魔法の弱点を伝える。
構築魔法は、その術式を頭でなぞる必要があり、術式が長い魔法ほど発動に時間がかかる。
読み上げるのと違い、頭の中で文字をなぞるだけだが、一回の発動に約五秒も必要になるのだ。連射はできない。
発動が早くなるスキルや、連射可能なスキルもあるが、覚えるのに多くのポイントが必要になるのでいまは覚えられない。連射したところで、早々に魔力が尽きるだけだし。
それに、威力についても、たぶんアウラの蔦を切ることもできないだろう。
「セージ、そろそろレベルアップするんじゃない?」
「そうだと嬉しいかな」
鳥たちがゴブリンの死骸を片付けていくので、そっと目を背けた。
そして、その時が多分来た。
今日十五匹目のゴブリンを倒したとき。
「レベルアップしたかな?」
「セージ、本当に?」
「うん、多分ね。レベル5になってると思う」
アナウンスが流れるわけでも、ファンファーレがなるわけでもないので、あくまで体感の話だ。
ステータスカードがあればはっきりするんだけどね。
「セージ、一度戻る?」
「そうだね。この辺りのゴブリンを鳥たちが掃除してくれるまで、休憩しようか」
ここから一番近い出口から、零階層――修行空間の最初の部屋のこと、最近名付けた――に戻った。
ゼロがいつも通り出迎えて、そして言ってくれる。
「セージ様、レベルアップおめでとうございます」
その一言、それだけで僕は――
「はぁぁぁぁ、よかった」
とまずは安堵する。
ゼロが言ったなら、レベルアップは間違いない。
早速、異世界通販本で、現在のポイントから、余剰経験値を確認する。
前に残ってた経験値は368ポイントで、いまは7046ポイントになってる。そこから導きだされる余剰経験値は6678ポイントか。レベル4になったときの余剰経験値は2500ポイントくらいだったから、今回のレベルアップに倍以上苦労させられたんだな。
「達成感っ!」
僕はそう言って腕を上に伸ばす。
これだよ、これ。
ゴブリン狩りは本当に命のやり取りが顕著になったから、苦労させられたな。これで魔力が上がれば、少しは楽になるのだろうか?
ステータスカードがあれば、もっとわかりやすく喜べるんだけどな。
6678ポイント……200ポイントでトンカツソースと交換したい気持ちになるが、ここはぐっと我慢だ。それを言い出したら、胡椒も欲しいし、醤油や米も欲しくなる。
人間、欲をかいたら沼にはまってしまい抜け出せなくなる。
ステータスを偽造するスキルは5万ポイントだから、まだまだこれからだな。
そう思ったときだ。
突然、目の前のゼロが吹き飛ばされた。
まるで、巨大スライムを零階層に連れ帰ったとき、ゼロが目の前にいた巨大スライムを吹き飛ばしたときの逆パターンを見ているみたいだ。
「……ゼ……ロっ!」
「セージっ! あぶな――」
アウラが叫んだ直後、その姿が石へと変わる。
アウラの石像? 石化? なんだこれ?
いったい、何が起こってるんだ?
僕は恐怖で声が出ない。
だが、誰がやったのかは想像がついた。
「どうも、セージ様」
背中に黒い翼の生えた褐色の肌に白い短髪の男が僕の目の前に立っていたからだ。
「ん? なんだ、セージ様ってこんなチビだったのか? まぁ、そんなのはどうでもいいや。はじめまして、俺の名前はフォースだ――魔王をやってる。よろしくな!」
そう言って、魔王を名乗る男は僕に握手を求めてきた。
どうしたらいい?
手を握ったらいいのか?
無視すればいいのか?
どっちが正しい?
どっちを選べば、僕の命は助かる?
ゼロが吹き飛ばされたというのに、アウラが石に変えられたというのに、僕は恐怖で考えが纏まらない。
「あぁ、なんだ、ビビってるのか? 別にセージ様を食ったりしねぇよ。なにしろ、セージ様は俺の恩人みたいなものだからな!」
「恩人……どういうこと……」
「セージ様が神の奴に言ったんだろ? 魔王は闇に堕ちた天使だって。えっと、セージ様の世界じゃ、ラファエルっていうんだっけ? それともサタンだったか? まぁ、セージ様がそんなことを言ってくれたおかげで、俺は天使なんていう退屈な仕事をせずに、こうして自由に動けるってわけだ。そりゃ感謝もするだろ?」
「その辺にしてもらえますか? フォース」
ゼロが僕とフォースの間に割って入った。
それを見て、フォースが舌打ちをする。
「なんだ、生きてたのかよ」
「当たり前です。私とあなた、いえ、五人の天使の力は同等に作られています。不意を突かれたとはいえ、簡単に消滅する道理はありません。私とあなたが本気で戦えば、どちらかが消滅するのではなく、どちらも消滅する定めにあるのですから」
「ちっ、消滅は嫌だからな。わかった、大人しく引きさがる――」
フォースはそう言うと、僕たちに背を向け、どこかに飛び去った。
かに思えた。
「なんてな!」
突然、背後に転移したフォースは、僕の肩を掴むと、
「ちょっと楽しませてもらうぜ、セージ様!」
と言って、ゼロの見ている目の前から一瞬のうちに消え去ったのだった。
僕と共に。
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祝・10万字
本一冊分お付き合いありがとうございます。
また20万字でお会いしましょう
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