第56話 飛べない人はただの人だ
スカイスライム作りを修行空間で行う。
こっちの世界では時間の流れを気にする必要はないので、内職には最適だ。
さらに、ここには材料となるスライム布を大量に用意できる。
一階層はスライムの宝庫で、肥料にするために倉庫に死骸を大量に収納していたからだ。
竹ひごは、特別なスカイスライムを作りたいとロジェ父さんに頼んだら、一本の竹から十分過ぎるほどの竹ひごを作ってくれた。
「セージ様、本当に私は手伝わなくてもよろしいのでしょうか?」
「うん、ゼロにばっかり頼ったら悪いからね」
「アウラは一緒にする」
「うん、助かるよ」
ゼロに手伝ってもらったら一瞬で終わりそうだけど、完成度が高すぎて、「誰が作ったんだ! この見事なスカイスライムは! 君か! 実際に作っているところを見せてくれ!」とか言われたら困る。
あくまで、僕が作れる範囲のスカイスライムで作りたい。
「んー、もっと丈夫な糸があればいいんだけど」
「それでしたら、綿の糸の方がいいのではないでしょうか?」
「綿か……綿ならまだ誤魔化せるかな」
ポリエステルや巨大蜘蛛の糸を用意しましょう! なんて言われたら困っていたが。
そういえば、ローストビーフやチャーシューを縛るときに使うタコ糸も綿でできていた気がする。
「よし、じゃあちょっと揚げてみようか――ウインドカーテン!」
僕が魔法を唱える。
一定の範囲に場所に風を生み出す魔法だ。
スカイスライムが揚がる。
よし、いい具合だ。このまま揚がれば――ってあれ?
「落ちた?」
スカイスライムがゆらゆらと落ちていき、そのまま地面に落ちた。
うん、大丈夫。壊れてない。
風を読み間違えたかな?
「申し訳ありません、失念しておりました。ここは必要のない時には風が吹いていません」
ゼロがそう言うと指をパチンと鳴らした。
すると、先ほどまで無風だったこの部屋に穏やかな風が吹き始めた。
近くの木から木の葉が一枚舞い、空の彼方へと飛んでいく。
「凄いな。修行空間にこんな機能があったのか」
「いえ、こちらはセージ様が使ったウインドカーテンと同じ魔法です。ただ、範囲が違うだけで」
「範囲が違うって?」
「この部屋全体を指定しています」
部屋全体って……あれ?
この部屋って――というか、もはや部屋っていうのもおかしく感じる程にバカらしいくらい広いはずだよな?
その部屋全体に風を吹かせてるのか?
「ゼロ、その魔法って僕も使える?」
「はい、セージ様のレベルがあと40程上がり、魔力節約や魔力量増強系のスキルをいくつか獲得すれば可能でしょう」
「レベル40か……折り返し地点手前ってところだな。まぁ、いつかは辿り着きたいが」
「折り返し地点ではありませんよ?」
「え……この世界のレベルって最高99じゃないの? もしかして、レベル9999まで上げられるとか?」
「いえ、レベルに限界はございません」
マジか……確か、僕たちの世界で確認されている最高レベルって78くらいだったはずだ。
だから、てっきりレベル99が最高だと思っていたが、まさかの最高レベルが∞だった。
「セージ、スライム飛ばそ!」
「うん、そうだな」
僕とアウラはさっそく、スカイスライムを飛ばす。
ってあれ?
「アウラ?」
「なに? セージ」
「その凧紐、おかしくない?」
「なにが?」
「蔦だよね?」
「ダメ?」
「ダメじゃないけど」
……空に延びる、蔦に巻きつかれたスカイスライム。
シュールだ。
でも、アウラが楽しそうだから、これ以上指摘しにくい。
「楽しいね、スカイスライム揚げ」
「うん、楽しい……かな?」
「スカイスライムって、あれみたいだね?」
「あれって?」
「マント配管工」
「……あ、確かに」
最近はスーパーファミコムで一緒にスーパー配管工ワールドを遊ぶこともある。
そこに出てくる、マントを使ってムササビの術のように空を飛ぶ配管工のことをアウラは言っている。
「……スカイスライムがあれば空を飛べるのかな?」
「飛べないよ。ゲームと現実を一緒にしないでね。空は簡単に飛べないから」
「じゃあ、ゼロは?」
アウラが指を差す方向で、ゼロが剪定をしていた。
当たり前のように空を飛んで。
「うん、ゼロは人間じゃないから」
「アウラも人間じゃないよ?」
「そうだった」
うん、知ってる。人間は身体から蔦を出すことはできない。
あぁ、なんて説明すればいいのかな?
「スライムだって空を飛べないし」
「飛んでるよ?」
「そうだった」
例えが悪すぎた。
いま、目の前でスカイスライムが空に浮いていた。
待てよ?
アウラの知っている生物(出会った順)。
・スライム――飛べる(?)。
・魚――飛べない。
・僕――飛べない。
・ゼロ――飛べる。
・鳥――飛べる
・ゴブリン――飛べない。
・フォース――飛べる。
あれ? この世界って、飛べる方が標準だっけ?
4/7で空飛んでるんだけど?
「いやいや、待て! 鶏は空を飛べない! これ常識――」
「飛んでるよ?」
「マジでっ!?」
見上げると、フォースから貰った二羽の鶏が空を飛んでいた。
なんで――?
そういえば、鶏って野生の頃は空を飛んでいたけれど、人間に飼われるようになり退化して飛べなくなった。でも飛べる種類の鶏もまだ存在する――って聞いたことがある。
4/7、変わらず。
「ゼロ……人間って飛べるのかな?」
「異世界通販本で飛翔のスキルも買うことはできます」
剪定を終えたゼロに尋ねたところ、希望のある答えを貰えた。
ポイントを聞いたが、とてもではないが買える数ではなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます