【400万PV突破】たしかに成長チートはいらないって言いましたけどスローライフ過ぎやしませんかっ!? ~異世界通販の対価は経験値です~
草徒ゼン
第一部
第1話 神に呼び出された
【アクトのレベルが上がった】
【アクトのレベルが上がった】
【アクトのレベルが上がった】
電車の車内で閉じている扉にもたれながら動画サイトでゲームの実況動画を検索していると、こういう動画があった。
なんでも『DLCで高額販売されていた経験値五倍パッチと経験値爆稼ぎの裏技を併用してみた』というもので、興味本位で動画を覗いてみたところ、十分程度でレベル42からレベル99になってカンスト状態になっていた。
俺の知っているRPGだと、何時間も何十時間もかけてレベルアップするのがそのゲームの醍醐味の一つなのに、それが全て抜け落ちたような動画だった。
だが、アニメや映画ですら倍速で見る時代だ。ゲームですら時短が求められているのだろう。
コメント欄にも、
「これはいい時短テクニック」
「私もやってみたい」
等のコメントが寄せられている。
それを見て俺は条件反射的に――
「気持ち悪い」
そんな言葉をコメント欄に入力していた。
ゲームなんていうものは、そもそも達成感を味わうためのツールだ。RPGだって、苦労してレベルを上げ、お金を貯めて強い武器を揃え、倒せなかった敵を倒す。
そうしたときの達成感を味わってこそ楽しいのだ。
しかし、この動画のゲームのやり方は、その過程を無視している。
登山で例えると、エスカレーターで山を登って「登頂しました!」と宣言しているみたいなものだ。そこに本当に達成感はあるのだろうか? いや、仮にその人が山にエスカレーターを作るプロジェクトのリーダーで、周辺住民への説明から銀行への融資のお願い、そして工事にも直接携わり、長年かけてエスカレーターの設置を遂げたとするのなら、その達成感は半端ないだろうが。
俺はため息をついてスマホの文字を消した。
本気で投稿者を侮辱したいわけではない。
そういうゲームの楽しみ方をしている人間がいることくらい理解している。
人間の時間というものは有限だ。
限られた時間の中で、多くのコンテンツを楽しもうと思えば、彼らのいうところの時短テクニックは必須なのかもしれない。
そもそも、大学からの帰り道、本来なら歩いて移動できる距離を、こうして電車に乗って移動しているのも、言うなればその時短テクニックの一つなのだから。
もたれかかっていた扉が開く。
目的の駅に着いた――はずだった。
だが、扉が開いた先は、
「――は?」
何もなかった。
駅のホームに何もないという意味ではない。
駅がないという意味でもない。
世界がなかった。
ただ、闇が広がっていた。
さっきまで地上を走っていたはずだし、そもそもこの電車は地下を走らない。
それに今は真昼間だ。
いくら曇っているといっても扉の外が真っ暗なんてことはありえない。
そもそも、何故、誰も騒がない?
こんな異常事態に、俺以外誰一人反応していない。
その時、背中が押された気がした。
俺は前のめりになって闇へと放り投げられる。
落ちていく中、俺が見ていたのは、走り去っていく電車だった。
手を伸ばすも、電車との距離は広がっていき、あっという間に見えなくなった。
なんだよ、これ。
恐怖で声すら出ない。
今の状況が夢ではないことくらい、いろんな方法で確認している。
次第に、自分が本当に落ちているのかどうかすらわからなくなってきたとき、光が見えてきた。
太陽の光やLEDの光とは何か違う、ぼんやりとした光だ。
そして、それはだんだんと大きくなってきて、そこにナニカがいた。
ナニカが何なのかは俺にはわからない。
「やぁ、はじめまして、
「……はじめまして」
なんで俺の名前を知っているのだろうとか、ここは一体なんなのかとか、そもそもあんたは一体なんなのかとか、いろいろと聞きたいことがあるのだが、俺はとりあえずそう言って頭を下げた。
「僕は神になる予定の存在――いわば、神様の卵のようなものだ。そして、これから作る世界について相談したくて君を呼んだ。ここはその世界の核となる場所だよ」
質問をせずに頭を下げた意味があったのか、自称神様の卵は俺が気になったことを二つ教えてくれた。
なんで俺の名前を知っているのかという疑問が残ったが、些細な疑問だ。
それより、なんで俺を呼んだのかが気になる。
「君を選んだ理由は特にないね。たまたま選んだ君達の世界の乗り物を適当に選んで、一番落としやすそうな人間をここに落としただけだから」
え? ただの偶然?
もっとちゃんとした理由――それこそ納得できる理由はないのだろうか?
「世の中、全てが必然なんてことはない。むしろ世の中全て偶然で成り立っているんだよ?」
そう言う神様だけど、俺の疑問に次々に答えてくれるのは偶然ではないのだろう。
神様の卵は俺の心を読むことができるらしい。
「それで、俺――私は何をすればいいのでしょうか」
「だから、軽く聞き取りだよ。世界を創る予定なんだけど、ベースを構築するのも面倒なので、君達の世界のRPGというゲームを元に世界を構築しようって思ってるんだよ。RPGを遊んだことがあるのは君が選ばれた理由の一つだから、そこだけは偶然ではないね」
そう言って神様の卵は笑った。
顔は見えないけれど。
もしかしたら、顔なんてないのかもしれない。
「でも、RPGってゲームですから、現実に作るとなると辻褄のあわないところとか出てきませんか? それなら地球をコピーして創るとかそういう感じにした方がいいのではないでしょうか?」
「あぁ、そういう辻褄は世界を創るときに適当に合っちゃうから問題ないよ。神としての感覚でね。こればかりは言葉では説明できないかな? 君だって自転車に乗ってるとき、どういう物理法則で自転車に乗れているかって、言葉では説明しにくいでしょ? それと同じだよ」
「そうですか。なら、私に答えられることなら」
そう言って、俺は神様の卵からRPGについていろいろと質問され、答えていった。
心を読まれるのであれば口に出して答える必要もないと思うのだけれども、全て答えた。
神様の卵は気の合う友人みたいな話し方をしてきて、次第に俺も警戒心が薄れていった。
「レベル、経験値、スキル、魔法、魔物。いやぁ、タメになったし、世界が完成したよ。神に仕えていた天使が謀反を起こして魔王になったとか、現実味がない話も面白いね」
「お役に立てて光栄です……?」
いま、さらっと世界が完成したって言わなかったか?
俺の今のやり取りだけで、世界が完成した?
設計図みたいなものができたってことか?
「いやいや、本当に世界――いや、宇宙ができあがった。君達の住んでいた世界とは別の次元の別の宇宙がね。これで晴れて僕も神様の卵から神様の仲間入りだ。ありがとう、誠二くん」
「どういたしまして。あの、それでは私をそろそろ元の場所に戻してもらえませんか?」
「無理だよ?」
「……え?」
「言っただろ。君をこの世界に落としたって。次元の壁ってのはね、落とすことはできても上げることはできないんだ。だから、君を地球に戻すことはできないよ」
つまり、俺はもう日本に戻れない?
家族の元に戻れない?
まだ、別れも言えていないのに?
「そんな、勝手に呼んでおいて戻せないなんて! なんとかしてくれよ! 神様だろ!」
俺は怒鳴りつけていた。
相手が神様であることを忘れて、下手したら電車から落ちたとき以上にパニックになりながら。
「神様なんだから元の世界に戻すくら――」
俺が叫んだ途中で、声が出なくなった。
呼吸すらできず、ただ、口がパクパクしている。
《黙れ、人間》
それは魂に直接響いてきた。
声や文字ではない。
怒りの概念として魂に響いたのだ。
そして、その概念が俺の中で勝手に文章として置き換えられた。
顔から冷や汗を流れるであろう恐怖を肌で感じているのに、汗を流すことすら許されない。
「誠二くん、君には感謝している。だが、思いあがるなよ。僕は神で君はただの人間だ。生殺与奪の権利はあっても、君の願いをかなえる義務はない。理解できるかい? 理解できたのなら――あぁ、うん、理解できたみたいだね。恩人を殺さずに済んでよかったよ」
こんなの理解するなと言われた方が無理な相談だ。
気の合う友人みたいだと思った過去の自分をぶん殴ってやりたい。
この神様が俺に優しく接するのは、それこそお手をする犬に対して頭を撫でてやるくらいの感覚でしかないのだと悟った。
「そうだ、誠二くんには僕が今作った世界に転生してもらおう。君と二人三脚で作った世界だ! 君に体験してもらわないなんてもったいない」
「え?」
「そうだね、えっと、DLCって言うんだっけ? 入手経験値十倍くらいにして――」
え? 経験値十倍?
本当にゲームみたいなことを言い出した。
これは神様なりのお詫びという意味ではないことくらいわかっている。本当に僕にこの世界を体験してもらいたいと思っているだけなんだろう。
もしくは、入手できる経験値が十倍という人間がいたらどうなるのかテストするみたいな感じかも。
そんな状態で転生できたら、きっと俺はその世界で英雄になるだろうな。
何の苦労もなく、達成感もなく、ただ虚無感の中で生きる英雄に。
そんなの……つまらないよな。
でも、神様に逆らうことはできないし、素直に従って――
「やっぱりヤメた」
突然、神様はそんなことを言った。
「君にはさっき暴言を吐かれたからね。むしろ入手できる経験値を十分の一にしよう。でも、それだと簡単に死んじゃうから、無限に修行できる場所くらいは提供してあげる。せいぜい、他人の百倍努力をして、達成感とやらを味わってみなよ」
神様がそう言った直後、俺の視界は暗転する。
最後の言葉は俺の心を読んだ神様なりのお礼だったのか、それともただの気まぐれだったのかは最後までわからずに。
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