第105話 冒険者ギルドSOS
ロジェ父さんがいなくなり、一人残された僕は途端に不安になってきた。
いま、冒険者に囲まれたらどうなる?
確か、僕の読んだラノベでは、冒険者ギルドの職員が止めに入るんだけど、
「おっと、嬢ちゃん。冒険者同士の揉め事はギルドは介入しないもんだろ?」
とか言われて誰も止めに入らなかった。
僕は冒険者じゃないけれど、そんなローカルルールで誰も助けてくれないんじゃないだろうか?
普通はあり得ない話だが、あの神が創った世界だ。
注意した方がいいだろう。
「大丈夫ですか?」
「すみません、ちょっと警戒していて――いつ襲われてもいいように」
怪我をしたら、即座に修行空間に戻ればどんな怪我でもゼロが治してくれる。
即死の攻撃を受けないことが重要だ。
「お父さんがいなくて不安になってしまったんですね。大丈夫ですよ、冒険者ギルドの中は安全ですから」
「え? 安全なんですか?」
「はい。怖い人が来ても、冒険者の皆さんが追い払ってくれますから」
「その冒険者に因縁をつけられて殴られることは?」
「それもありません。冒険者ギルド内の揉め事は全て記録されて、下手すれば冒険者の資格をはく奪するどころか、そのまま留置所送りですし、それを見かけたら他の冒険者の皆さんが止めにはいってくれます。お酒を提供していないので、酔って暴れる人もいませんから、平和なものですよ」
周囲の僕たちの話を聞いていた冒険者が「うんうん」と頷く。
「よかった」
「あ、でも王都の冒険者ギルドがそうってだけで、地方の冒険者ギルドになると結構厄介事もありますけどね。あちらでは、酒場と併設している冒険者ギルドも多いですから」
と受付嬢さんが最後に怖いことを言った。
よし、僕は地方の冒険者ギルドには行かないようにしよう。
でも、そう言われてみれば、確かにテーブルで飲み物を飲みながら話をしている人たちも落ち着いた様子だ。
心配し過ぎたかな?
と思っていると、僕くらいの年齢の帽子をかぶっている男の子が依頼ボードを見ていた。
「あの子も冒険者なの?」
「いいえ。でも、冒険者が好きなので、よく来ているんですよ」
「へぇ、そうなんだ。ちょっと話してくるね」
「はい」
僕はその子供のところに行く。
「こんにちは」
「ひゃっ」
可愛らしい声を上げて、男の子がビクッとなった。
「ごめん、驚かすつもりはなかったんだ。面白い依頼はある?」
「えっと、ビッグトードが繁殖期を迎えているから、討伐依頼が増えているかな?」
男の子はそう言って、依頼書を指差す。
【ビッグトードの討伐依頼、一匹につき銅貨5枚、別途肉の買い取りあり】
「げっ、ビッグトードの繁殖期、こっちにもあるのか」
繁殖期のせいでジャイアントクラブがなかなか倒せなかったときのことを思い出して、僕は思わずうめき声を上げた。
「ビッグトードを知ってるの? 王都の中にいたら見ること無いと思うよ?」
「あ、ええと、王都に来る途中にね。父さんと一緒に倒した。僕は一匹だけ」
これは事実だ。
修行空間では数えきれないくらい倒しているけれど、
「倒したのっ!? 子供なのに!?」
「小さいのは君も一緒じゃないか」
「ごめん。魔法を使えるんだ」
「うん、風の刃をね」
と僕は手刀で風の刃を作り出す真似事をした。
「って言ったら信じてくれる?」
「うん、信じる。魔力の流れが綺麗だもん」
そう言って男の子は僕を見る。
あれ? この子の瞳の色って、金色だったっけ?
さっきは違う色だったような気がしたけれど。
「ねぇ、君の――」
と僕が言いかけたとき、入り口の扉が吹っ飛んだ。
え、何事!?
さっきまで揉め事はないって言っていたのに。
「誰かっ! 回復魔法を使える奴はいないかっ!? 仲間が魔物にやられて動かないんだっ!」
どうやら、怪我人のようだ。
大柄の男が小柄の男を背負って駆け込んで来たのだが、両手が使えないので扉を蹴破ったらしい。
出血は見たところ少なそうだけれども、顔色は悪い。
「回復魔法なら冒険者ギルドじゃなくて教会に行け! 術師ならあっちの方が多い! うちにはいないぞ!」
「教会に行ったら、手に負えないから冒険者ギルドに行けって言われたんだ! 頼む、誰か見てくれ」
手に負えない……傷じゃないのか?
それほど出血しているようにも見えない。
ということは毒?
「何て魔物にやられたのっ!?」
「なんだ、坊主っ! 邪魔をするな――」
「いいから答えてっ!」
僕が叫ぶと、冒険者の男は、
「トールスネークだ」
と言った。そして、僕は近くの冒険者に言う。
「トールスネークって、毒はあるのっ!?」
僕は近くにいた別の冒険者に尋ねた。
「トールスネークに毒はな……、まさかポイズントールスネークにやられたのかっ!?」
いかにも毒がありそうな名前の蛇だ。
でも、蛇の毒か……厄介だな。
解毒魔法については、僕も覚えたいと思ったことがあるんだけど。
「誰か、解毒魔法を――」
男の子が言ったが――
「そんなの使える奴がいるかっ! それより血清だっ! 血清を持ってこいっ!」
「それこそねぇよっ! この前騎士隊が全部持って行っただろうがっ!」
怒号が飛び交うなか、聞こえてきた情報を纏める。
王都近くの森で、毒を持つトールスネークの亜種、ポイズンスネークが大量発生し、それを駆除するために騎士が部隊を編成。
現在、森に討伐に向かったとのこと。
そのため、教会や冒険者ギルド、薬師ギルドにあった血清は全て騎士が徴発して持って行ってしまった。
残っているとすれば、個人で保有する血清になるだろうけれど、それを今から探すとなると――
患者の容態は優れない。
このままじゃ――
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