第207話 エルダードワーフ

「スリーディープリンターですか。セージ様のいる世界にはそんなものがあるんですね」


 ミントから貰った3Dプリンターをハイエルフに見せたところ、彼女たちの知識にもないものだったらしい。

 実際に使ってみせたらさらに驚かれた。

 そもそも、土操作の魔法が最近開発された術式らしく、それ自体、彼女たちにとっては初耳だった。


「セージ様、これってなんでも作れるんですか?」

「うん、見た目だけならね」

「だったら、これをもう一つ作ってもらっていいですか? 私の最高傑作です」


 リーゼロッテが出したそれを見て、僕の脳は拒絶反応を起こした。

 さっきまで騒いでいたリアーナもリディアも黙ってしまう。

 それは、形容しがたい石細工だった。


「リーゼロッテ、それは?」

「以前聞いた啓示を再現しました」

「だよね……うん、わかってた」


 以前も似たような石細工を作っていたことがあったが、さらに磨きがかかっている。

 これを複製だって?

 技術の無駄遣いだ。


「リーゼロッテ、セージ様にあまり無理を言ったらダメですよ」

「そうですよ。それに、天使様からの啓示を複製するなんて、ファースト様に対して不敬ですよ」


 リアーナとリディアが言う。

 なんで不敬かはわからないが、どうにかしてリーゼロッテを止めようとしているのだろう。


「そうですか? リディア、さてはゴブリンの彫像を複製してゴブリン軍団を作ろうとしているんじゃないでしょうね」

「そんなことしません!」


 リディアが否定する。


「スリーディープリンターに頼らなくても既に百人以上の石細工を作ってるからゴブリン軍団になってます」

「「「え?」」」


 僕たちは思わず聞き返してしまった。

 耳がおかしくなってなければ、リディアの奴、たった数カ月の間に百人のゴブリン石細工を作ってたのか?

 この世界に来たときは一つしか持ってなかったはずだし、自由時間があるとはいえ、畑作業や魚と鶏の世話、術式の研究などいろいろとしていたはずなのに。一体いつの間に?

 リアーナは困った顔をしながら、話題を変えようとする。


「セージ様は本当にいろいろな発明をしていますが、世界のバランス的には大丈夫なのでしょうか? あまり常軌を逸した発明品ばかり作っていたら神様に注意されるのでは」

「それは大丈夫だよ。ゼロに聞いたんだけど、神は僕が自由に生きることを望んでいるらしいから」

「よかったです。過去に世界のバランスを崩しかねない発明を行った結果、天罰をくらった種族がいたそうなので」

「へぇ、そんな種族がいたんだ」

「はい、エルダードワーフっていう種族なんですよ」


 おぉ、エルダードワーフか。

 エルフとハイエルフの関係と同じように、ドワーフの始祖、上位のドワーフって感じの種族だよね。

 ドワーフによくにたおじさんは王都の武器屋にいたけれど、本物のドワーフは見たことがないな。

 ゲームをベースに、その他ライトノベルや漫画などの知識を元に作られたこの世界のドワーフは、つまりはオーソドックスなドワーフだ。

 酒と鍛冶が好き。小柄な体格。

 あと、ゲームやライトノベルによってはドワーフの女性はロリっ子ってものが多いが、この世界のドワーフの女性も髭が生えている。それも立派な髭だ。

 髭が立派であればあるほど、女性として魅力的と言われている。

 そのため、人間族の間でドワーフの女性は人気がなかったりする。

 ただし、エルダードワーフという言葉は本でも読んだことがないし、話を聞いたこともない。

 ……ってあれ?


「リアーナ、質問。エルダードワーフは天罰を食らったんだよね」

「はい、天罰を食らいました」

「それで死んだんだよね?」

「はい。古代ドワーフ王国の滅亡ですね。私たちが死ぬ五百年くらい前にありました。後から、ファースト様にあれは天罰だったと聞かされました」

「……その死んだエルダードワーフたちはどうしてるの?」

「どうしてるとは? 死んだらそれで終わりじゃないですか」

「いやいや、リアーナたちも天罰食らってから転生してファーストのところにいたんでしょ? なら、エルダードワーフだって転生してるんじゃないの?」


 僕が尋ねると、リアーナだけでなく、リディア、リーゼロッテの三人が固まった。

 まるで、さも今気付きました――と言わんばかりの表情だ。

 だが、そんなことがあるはずがない。

 何故なら、彼女たちは長い時間ファーストのところで仕事をしていて、さらに何百年も第三階層でサバイバルをしていた。

 考える時間は山ほどある。

 当然、気付いたはずだろう。

 エルダードワーフが転生していないのはおかしいと。


「そういえば……何か思い出せそうな」

「えっと……確かエルダードワーフは」

「なんでしょう……この違和感は」


 三人の様子がおかしい。

 黙って見ていると、ゼロがやってきた。

 そして、僕たちの話を聞いていなかったはずなのに、まるで最初からこの場にいたように自然にハイエルフ三人の現状を僕に伝える。


「記憶を消されていますね」

「そんな魔法もあるんだ」


 人間、誰しも忘れたい記憶というものはある。

 それを消すためなら大金を払ってもいいという人もいるだろう。

 僕も、最初に感じた神への恐怖――あれはいまでも悪夢に見て夜中に飛び起きることがある。

 忘れたいとは思うが、忘れてはいけないとも思う。

 あれを覚えているからこそ、僕は神を恐れ、そして一応敬うことができる。

 もしもあれがなかったら、いまでも神への恨み節を口にしていたことだろう。

 世の中知らなくていいこともあるし、そういことを知ってしまったときに記憶を消してもらう分にはいい使い道かもしれないな。


「ゼロ、エルダードワーフってファーストのところにいないの?」

「いえ、おかしいですね。彼らはファーストの警告を無視して世界のバランスを崩す発明をしていたので、天罰を食らって転生し、彼女の管理下に組み込まれているはずですが……リアーナたちが覚えていないとなると。少し、調べてみる必要があるかもしれませんね」


 そう言って、ゼロはフォースを呼び出した。


――――――――――――――――――――――

今日もギフトいただきました。

これで累計10個になりました。

ありがとうございます。

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