第208話 味噌と醤油と和食
エルダードワーフのことは少し気になるけれど、僕が何かできるわけではない。
ゼロと呼び出し中のフォースに任せることにして、僕は3Dプリンターを持って帰り厨房に向かった。
味噌と醤油を使った料理作りをするためだ。
本当は昨日の夕食にしたかったんだけど、既にティオが料理の準備をしていたので、今日の夕食に使うことになった。
さて、醤油と味噌を使った料理。
まず、味噌汁は絶対に必要。出汁は干したキノコを使う。本当はワカメが欲しいんだけど、海が近くにないから、どこで手に入れたのか聞かれると困ってしまう。
次に、豚肉の味噌炒め。正確には、オーク肉の味噌炒めなんだけど。
そして、ほうれん草のお浸しを作ることにした。
基本、村で採れる物だ。
「ミソトショーユ、どちらも独特な香りですね。味も濃いのでもやしともよく合いそうです」
「さすがティオ、よくわかってるね。味噌汁の具材に入れるつもりなんだ。豚肉の味噌炒めにはもやしを使おう」
ティオの手伝いもあって、味噌と醤油を使った料理ができていく。
旨味が凝縮された干しキノコと味噌、そしてその味噌の中の麹の匂いがまじりあい、熱々の汁が喉を潤わせるような優しい香りが広がっている。その香りに包まれると、心がほっとして、疲れも癒されるような気がする。
和食を作っているって感じがするな。
「変わった匂いがするんだけど、何なの?」
ラナ姉さんが匂いにつられて厨房にやってきた。
「味噌汁の香りだよ」
「ミソシル? ミソって、セージが昨日騒いでた調味料? 見た目は悪かったけど、こんな変な匂いになるのね」
変な匂いとは、僕のソウルフードに対して失礼な。
まぁ、慣れてない人にとってはそうなのかもしれないな。
「はいはい、もうできてるから。あ、そうだ。ソーカを呼んできてよ。さっきまで打ち合い稽古してもらってたんでしょ?」
「セージも打ち合い稽古したいの?」
「醤油も味噌もソーカの故郷の調味料だからね。味見してほしいんだよ。ソーカも味噌と醤油の料理を食べたがってたし」
「ふぅん。まぁ、ソーカにはお世話になったし、そういうことなら呼んできてあげるわ」
ラナ姉さんがそう言って厨房から出ていこうとする。
僕は料理の続きっと。
あぁ、やっぱりこのおかずだとご飯が欲しいな。
ミッドラン伯爵の領地にお米もないだろうか?
手紙で聞いてもらって、もしもあるのならバズに仕入れてもらって。
でも、東からの交易品だとすると、かなり高くなりそうだ。
「セージ殿。お呼びで……む、この香りは――まさか味噌でござるか?」
「ははは、この匂いならサプライズにもならないね。醤油もあるよ」
「なんとっ!? いったいどこで手に入れたでござるか?」
「国王陛下から褒美として貰ったんだよ。ミッドラン伯爵が持ってたらしいよ」
「ミッドラン伯爵領でござるか? 行ったことはあるでござるが、その時には見なかったでござるな」
「ミッドラン伯爵が個人的にヤマトの国から仕入れてるんじゃないかな? だったら、店では売ってないよ」
「それは仕方ないでござるな」
と話している間に、ティオがソーカの分の料理の配膳をする。
「じゃあ、味見をしてよ。」
「かたじけない」
ソーカはそう言って、懐から使い古された、でも綺麗な箸を取り出す。
そして、それを持って手を合わせた。
「いただきもうす」
そう言って、最初に味噌汁を口に含んだ。
本当に一口だけだ。
それで、僕はソーカが何を思ったのかわかる。
だって、彼は泣いていたから。
ソーカはショーグン家をクビになり、旅に出たと言っていた。
でも、それだけが理由とは僕思っていない。
きっと、他人には言えない理由や思いがあったのだろう。
「ティオ、僕の分の味噌汁も頂戴」
「そう仰ると思って、いま入れてますよ」
ティオはそう言って味噌汁を入れてくれた。
別に僕は日本にいた頃、毎日味噌汁を飲んでいたわけじゃない。むしろ、コーヒーの方が飲んでいたくらいだ。
それでも、これを一口飲むと、故郷の味って感じがするんだよな。
ソーカは豚肉の味噌炒めを食べている。
「これはもしや生姜も入れているでござるか?」
「うん、ちょっとだけね。ドルンのスパイス店で購入したのがあったから」
本当は異世界通販で買ったチューブの土生姜を入れたんだけどね。
「セージ様は本当に贅沢ですよね。ジンジャーなんて胡椒に並ぶ高級スパイスで、中瓶一つで羊一匹くらいの値段がするんですよ」
「なんと――それほど贅沢な品であったか。ヤマトの国では生姜は普通に栽培されていたので気付かなかったでござるが、大量に持って来れば路銀の足しになったでござるな」
「大量に持ってくるのが大変だから高いんだと思うよ」
ほうれん草のお浸しもソーカには好評だった。
「たいへん美味でござった。故郷を出て長き間、これほどまでに満足できる食事を味わったことはござらん。拙者は誠に良い主人に恵まれたようでござる」
「味の評価は?」
「うむ。たいへん美味でござる。強いて言うのなら、拙者としては味噌汁にはキノコの出汁より煮干しか昆布の出汁が欲しいでござるな。それと、豚肉はやはり味噌を入れるのではなく、味噌に漬けこむとさらに味がよくなるかと。ほうれん草のお浸しには鰹節を入れるとなおよくなると思うでござる」
「おぉっ! 言うね、ソーカ。僕も本で読んだ知識があったから、同じことを思ってたんだよ」
やっぱりソーカに味見してもらってよかった。
純粋にべた褒めされるより、こういう改善点を出してもらえる方が嬉しいよね。
「煮干しに昆布に鰹節、海のないこの国だと手に入らないからね。あぁ、海がなんでないかなぁ。海があれば烏賊を醤油で焼いたりしたいし。それに、刺し身も食べてみたいし」
「おぉ、刺し身でござるか? セージ殿、あれは確かに美味でござるが、しかし、川魚や新鮮ではない魚で試してはダメでござるよ」
「わかってるよ。お腹壊したくないし。他に何か意見はある?」
「うむ、米が欲しいでござるな」
「やっぱりか。ほしいよね、米」
「うむ。拙者もそろそろ心許なくなってきたでござるからな。纏まった休暇があれば買いに行かないといけないでござるな」
「うん、その時は僕の分も買ってきて……って、え?」
いま、ソーカなんて言った?
「ソーカ、お米を買いに行くっていったの? 纏まった休みがあれば?」
「うむ。この辺りでは見かけないでござるが、王都の薬店に行けば取り扱ってるでござるよ?」
薬屋に米が売ってるの?
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