第221話 村の将来を担う子供たち(その2)

 ハントとテル、どちらが強いかはわからないが、まぁいい勝負をしているのだろう。

 二人が言い争っているのを無視して、アムに質問をする。


「アムは将来何になりたいの?」

「私は馬に乗る仕事がしたいな」

「馬に?」


 御者――は直接馬に乗っているわけじゃないから、騎士だろうか?

 ラナ姉さんやテルと同じと考えると意外性は感じない。

 でも、騎士と言わずに馬に乗る仕事という表現は、騎士というより、馬に乗れるのならなんでもいいという感じがする。


「そうだ。馬はいい。彼らに乗るだけで世界は広がる。人の足ではいけない場所に行かせてくれるのではないかと思えてくるんだ。正直に言うと、私は騎馬民族の娘として生まれたかった」

「姉上っ! それは言ってはいけません! あの蛮族共は我々の敵です!」

「もう何十年も戦端を開いていないのに敵もなにもないだろう? そうだな、まぁテルも煩いから、脚を鍛えてスローディッシュ家の伝達係メッセンジャーとなり、必要なときには馬に乗せてもらう仕事――というのが理想だろうが、女には難しい仕事だからな」


 女性の一人旅は盗賊にとって格好の標的となる。

 盗賊に襲われる人を伝達係メッセンジャーとして雇うのは難しい。

 アムが言っているのはそういうことなのだろう。

 この世界に、男女雇用機会均等法はない。


「カリンはどうなんだ? 同じ女性の意見として聞いてみたい」

「私は……一度、ド・ルジエールさんという人に会って話を聞いてみたいです。私が本当に芸術家になれるのか」

「決意できたんだ」

「うん。お父さんがこの前に帰ってきて話したら、お父さんがバズさんに相談してくれて。そうしたら、バズさんが絵の学校に行くための資金援助をしてくれるかもしれないって」


 へぇ、バズの奴、結構いいところあるじゃないか。

 カリンは才能があるんだから、それを伸ばしてほしいな。


「みんな、色々考えてるんだ」

「そりゃな。セージみたいに領主になるのが決まってるわけじゃないからよ」

「いやいや、僕だって領主になるって決まってるわけじゃないよ。エイラ母さんも妊娠してるし、生まれてくるのが弟だったら、その子に家督を譲って冒険者になるのもありだと思ってる。領主って面倒そうだし」

「「「「え?」」」」


 四人が、「何言ってんだ、こいつ?」という目で僕を見た。

 そんなにおかしいこと言ってるかな?

 将来、勇者をサポートして魔王退治をするとなると、領主という肩書きはどこかで邪魔になるかもしれない。

 伯爵家のお嬢さんと結婚しているのに家督を継がないとなると、本来だったらメディス伯爵から圧力がかかるかもしれないが、その弟だってメディス伯爵の孫になるんだ。小さい時から一緒に王都にいってメディス伯爵に引き合わせれば、きっと目に入れても痛くないと思えるほどに可愛がってくれるはず。

 そうなったら、その弟が家督を継ぐのも嫌とは言うまい。

 ミントはどういうかだけど、彼女だって冒険者に強いあこがれを持っている。

 今のまま成長したら、僕の夢を応援してくれると思っている。

 幸い、お金はあるのだから、その辺の貴族よりも贅沢な暮らしはさせてあげられるし。


「あくまで将来の可能性の一つってだけで、実際のところは領主を継ぐことになるんだろうけれどね」

「びっくりしたな。村の大人たちは、お前と領主様、二人がいたらこの村は安泰だって喜んでるんだぞ? お前がいなくなるってなったら大騒ぎになる」

「え? そんなことになってるの?」

「うん。領主様はとても強い人だから魔物の被害は減ったし、エイラ様は凄い魔法使いだから村は何度も干ばつから救われたけど、でも貧乏なままだったからね。でも、セージさんが村に来るようになってから、いろんな遊びが増えて、料理が増えて、村の税金も減ったし。みんなセージさんに期待してるの」


 カリンは僕が村の人にどう思われているか説明してくれた。

 そんな風に思われていたのか。

 僕からしてみれば、ロジェ父さんやエイラ母さんにはまだまだ敵わないと思っているんだけど。


「セージ様はずっとこの村にいたのではないのですか?」

「いや? セージはずっと屋敷にいたからな。村に来るようになったのは春くらいだよ。今考えると、それまでは、本当になんもない村だったよな」


 ハントがテルに、ここ半年間に起こった出来事を全部説明していく。

 ジャガイモの栽培推奨、食堂の料理改革、スカイスライムやスライムポンチョ、リバーシや竹とんぼ等の発明、大金を稼いだことにより減税、子爵への陞爵内定、、盆祭りの発案、領地に新たに雇われた騎士と内政官、魔石の鉱脈の発見に町への発展、バズ商会の設立。

 テルやアムが来てからの出来事も結構含まれているが……確かにやり過ぎたわ。

 五歳になるまでの僕の自重はどこにいった? あぁ、そうか。それまではダンジョン探索を我慢するという大きな枷にはめられていたが、五歳で解禁になったのを皮切りに、他の自重も全部吹っ飛んじゃったんだな。

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