第198話 白と黒の召喚獣
「もう一度よ!」
召喚魔法はそれほど魔力を使わないらしく、ラナ姉さんは二度目の召喚
とラナ姉さんが召喚する。
なんか、一気に緊張感が無くなったな。
さっきと変わらずに興奮して見ていたのはイセリアくらいだったが、さっき訓練の時間だからとソウカに連れられていった。
最初は厄介な魔物が出てくるんじゃないかと思っていたけれど、この様子だと心配する必要はないかな?
と思って出てきたのは――
「今度は良さそうね! 変わった色だし、なんか小さいけど、大きくなるかしら?」
「熊か。大人しそうな魔物だね」
「でも、見たことのない種類ね。いったい、なんて熊なのかしら」
ラナ姉さん、ロジェ父さん、エイラ母さんが落ち着いた様子で言うが、これはどうなんだ?
僕の動揺に気付かず、ラナ姉さんは召喚獣となにやら意思疎通を取っている。
「……え? そんなの食べるの?」
「ラナ、どうしたんだい?」
「この熊、肉とか魚は食べないんだって」
ロジェ父さんの問いに、ラナ姉さんはとても驚いたように言うが、僕からしてみれば、それはそうだよね。
肉も魚も食べないに決まってる。いや、お腹が空いたら食べるかもしれないけれど、それでも果物や野菜の方を選んで食べそうだ。だって――
「この子、毎日竹の葉っぱを三キロ程食べたいみたいなの」
これ、小さいけどどう見てもパンダだもん。
耳と目の周りと身体上半分、脚が黒い。
体長は六十センチくらいかな?
「竹の葉っぱか。森には竹も多いしそのくらいなら何とかなると思うけど、草食の熊って珍しいね」
「危ない魔物じゃなさそうね。でも、大きくなるんじゃないかしら?」
ロジェ父さんが言う。
これ、契約する流れかな?
とりあえず、修行空間に移動して、どういう魔物なのかゼロに確認してみることにした。
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
「コパンダという名前の大人しい魔物です。リザードマンの剣くらいならダメージを受けないくらい頑丈ですが、攻撃は苦手ですね。好物は笹ですが、竹の葉でも構いません」
一応魔物の一種らしい。
「コパンダ! ハイエルフの村にもいました。ハイエルフ唯一の召喚術士のリクシルに召喚されたとてもかわいい魔物でした。もう一度会いたいですね」
「村では人気者でしたね。笹を食べる姿がとてもいとおしくて。笹以外にも果物とかも食べるんですよ」
「寿命は百五十年程だったので、短い間しか交流できなかったけれど、それでもよく覚えています」
さすが八百年放置されても耐えられたハイエルフ。
百五十年は短い間だったのか。
皆に聞いたところコパンダはあれでも大人のサイズで、これ以上大きくなることはないそうで、ラナ姉さんの作ったゲートが中国に繋がったわけではないそうだ。中国ならまだしも、上野公園に繋がって無理やりパンダを連れてきていたら東京大パニックになってただろうな。
「異世界からの召喚といっても、この世界の同位相の世界で、神が創った召喚獣用の世界ですから、地球のものは召喚できませんよ。それこそ、そのようなことをできるのは神のみです」
「逆に言えば、神の悪ふざけがあれば異世界人が迷いこむ可能性はあるということか」
「神の心は我々には見極められません」
文字通り、神のみぞ知るってことか。
日本食の名物をスローディッシュ村から開発していけば、日本人が集まって来るんじゃ……あ、でも、極東の国は日本みたいな文化のある国らしいし、そっちに行くかな。
僕もいつか行ってみたいって思うし。
それに、転生者の場合、いくら知識チートがあるとしても僕のような領主の息子としてある程度権力がある人間でなければ、よほどの才覚がない限り成り上がるのは難しいだろう。
下手すれば、異世界人なのに一生農作業で終わったり、それどころか生まれて直ぐに死んでしまうかもしれない。
んー、そう考えると、貧乏とはいえ、男爵領の次期領主として生まれたときは幸運だよな。
神がそのあたりは調整してくれたんだろうけれど。
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
「種族の名前はコパンダ。大人しい魔物で、主食は笹と竹の葉っぱだけど、果物とかも食べるみたい。寿命は百五十年程。とても頑丈でリザードマンの刃だったらダメージを受けない。寒さには強いけど暑いのは苦手だから、夏の間は長時間召喚できないよ」
僕は王都で読んだ本の知識として、三人にそう説明した。
「攻撃はしないの?」
「自分から攻撃はあんまりしないみたい。でも、命令されたらゴブリンくらいなら倒せるって」
「んー、あんまり強くないのね。私は前衛だから、壁役も必要ないんだけど」
ラナ姉さんはそう言ってもう一度コパンダを見る。
「契約するわ」
どうやら、契約することにしたらしい。
別に召喚獣との契約は一体限りということではないし、双方合意すれば契約の解除も可能だ。
最初はこの程度でいいと思ったのだろうか?
いや、単純にコパンダがかわいく思えたんだな。
契約方法として、最初に食事を与えれば成立するそうだ。
ちょうど、竹ひごを作るときに、ゴミとして出た竹の葉っぱが家の中に残っていたので、ラナ姉さんがそれを与える。
コパンダがそれを食べて契約成立。
契約内容は以下の通り。
召喚すれば召喚する時間に限らず、竹の葉っぱを三キロ与える。
食事については双方の合意があれば、食事の一部を野菜や果物に変更も可能。
食事の後払いは可能。ただし、十日以上遅れた場合は、十日につき一割、食事の量を増やす。
後払いの量が竹の葉っぱ換算で三十キロを超えた場合はコパンダから一方的に契約の解除が可能。
契約期間中はラナの命令は聞く。
人を傷つけてはいけない。しかし、ラナの命令を優先する。
食事、排せつはラナに言われた場所で行う。
当然、ラナ姉さん一人で考えたものではなく、僕や、ロジェ父さん、エイラ母さんと四人で考えた契約だ。
「名前はどうするの?」
「ラインハルトよ」
「似合わないね」
怒られるかもと思ったけれど、ラナ姉さんは反論しなかった。
自分でも似合わないと思っているのだろう。
たぶん、コパンダを召喚する前から決めていたに違いない。
「よろしくね、ラインハルト」
「メー」
ラインハルトが前足を挙げて、山羊のような鳴き声で返事をした。
こうして、我が家に召喚獣という名前のペットができた。
―――――――――――――――――――――
サブタイ、
くま? クマ? 熊? パンダ!
にしようかと思ったけど、流石にやめた。
二期、応援してます。
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