第199話 王の悩み ※別視点

 儂、国王なんだけど――が口癖になってしまうのではないだろうか?

 最近、自分が奴隷なんじゃないかというくらい、マーキラルに監視されて仕事をしている気がする。

 その忙しさも、すべては炭酸水の販売により、金をため込んでいた貴族たちから金を毟り取って得た収入と、それを見越して始まった公共事業によるものなので、儂が賢王と呼ばれる器であれば、嬉しい忙しさであろうが。

 王の器は、自分で動くことではなく、優秀な人材を動かすことにある――と言われたら、儂は王として優秀なのだろうが、そのせいで大好きな晩酌の時間が削られるというのはどうにも納得がいかない。


「陛下、お耳に入れたいことが」


 さて、そろそろ仕事が終わりというときにマーキラルがやってくる。

 ここで問答したところで、結局報告されるのだから儂は素直に話を聞く。


「なんだ、申してみよ」

「新たな魔石の鉱脈が発掘されました」

「そうか……うむ、そうか!」


 また仕事が増えるという思いはあるが、しかし、それは良い報せだと儂は割り切った。

 この国の魔石の鉱山は一カ所しかない。

 当然、それでは魔石を賄うことができず、他国からの輸入で足りない分を補っている。だが、輸入先との関係が変われば途切れてしまう危ない橋。できることなら、輸入に頼らずに魔石を確保したいと思っていた矢先のこの出来事だ。

 まぁ、急に輸入を止めれば、国際的に問題があるだろうから、徐々に減らしていくことになるだろうが、そのあたりは部下に任せよう。


「それで、場所はどこだ?」

「スローディッシュ領北部の山です」

「あの騎馬民族との境界線か……………………いま、スローディッシュ領って言わなかったか?」

「はい。詳細な報告書によりますと、発見したのはセージ・スローディッシュだそうです」

「またあの子供か……」


 スローディッシュ領といえば、あのタージマルト戦役の英雄であり、ヴィンス伯爵の息子であるロジェ・スローディッシュを思い浮かべるが、儂をいま悩ませているのは、その息子の方だ。

 彼もまた、ロジェ・スローディッシュとは別の意味で優秀だった。

 彼の才覚が明らかになったのは、ロジェ・スローディッシュがダンジョンからご先祖様の遺骨を持ち帰ったという報せを受けたときだった。

 その中で、セージ・スローディッシュという子供が開発したという話が上がった。

 グルーシアがその術式を見たところ、子供らしい発想ながら、その技術は確かなもので、彼は間違いなく傑物である――という結論が出た。

 状況からみて、炭酸水を作るための術式を考えたのも彼であると見て間違いないだろう。

 その少年は王宮に仕える鑑定士の不正を発見した。

 さらに、草が調べた報告によると、蛇毒の解毒魔法を使ってAランクの冒険者の治療を行い、オルゴールという魔道具を開発して新たな音楽の可能性を切り開き、そしてキルス様の加護を持っていることまで判明した。

 そして、今度は魔石の発見だと?


「その子供はバカなのかっ! 儂がどれだけ苦労して、炭酸水の開発者の情報を隠そうとしているかわかっているのか。せめて、発見者を偽るくらいのことはしろっ!」


 国への虚偽報告は重罪なのだが、そのくらい文句を言いたかった。


「その炭酸水のことで一つお知らせが。商業ギルドにて新たな商会の申請がありまして、その販売商品の一つが炭酸水とのことです」

「なんだとっ!? それは本当なのか!?」

「はい。スローディッシュ領を拠点とするそうなので、恐らく、スローディッシュ令息が作って売るのでしょう。共同支援者として、メディス伯爵とロドシュ侯爵の名がありますから、まず失敗することはないでしょうね」


 確かに、儂は開発者が作って売る分には好きにして構わないと言った。

 しかし、ここまでいくと炭酸水の出どころを隠すことはできないのではないか?


「いったい、なんでそんなことになっておる?」

「ムラヤク侯爵がお抱えのヒマン商会が、スローディッシュ領に行き来する行商人に対して嫌がらせを行っているようで、その対抗措置と思われます」

「あいつらか……厄介なことをしおって……」


 しかし、伯爵と侯爵が後ろ盾になっている商会ともなると、王の力で取り潰すこともできん。

 なにより、そんなことをすれば暴君だ。

 かといって、ヒマン商会に対して注意をするにも、ヒマン商会からすれば、取引をする行商人を選んでいるだけだと言われたらそれまで。


「って、待てよ! つまり、スローディッシュ領はその嫌がらせとやらのせいで、その新たな商会の行商人の独占市場になっているということかっ!?」

「はい。これまでは貧しい土地ですから、独占市場といっても意味のないものでしたが――」

「新たな魔石鉱山付近に新たな鉱山町を作る必要が出てくるが、その場は国王の直轄地といってもスローディッシュ領の中にある飛び地。領内の商人との連携は不可欠だ。できることなら、王家と取引をしている商会が良いと思ったが――」

「小さな商会は、全てヒマン商会からの圧力により撤退。そのほかの商会も北部までは販路は持っておりません」


 かといって、新たに販路を広げさせようとすれば、できたばかりの新たな商会への嫌がらせに思われかねない。

 メディス伯爵、ロドシュ侯爵の顔に泥を塗る事になる。


「その新たな商会長の名は?」

「バズというそうです」

「よし、そのバズを召喚しろ。こうなったら、儂もその男の支援者になってやる」

「王家御用達にするということですか?」

「問題あるまい?」

「大丈夫でしょう。ちょうど王都にまだいるようですし。新たな商会長の胃の痛みだけが心配ですね」


 マーキラルがそのバズという男に同情する風に装う。

 最初からそのつもりだったくせによく言うわ。その証拠に、その新たな商会長の居所をしっかり把握しているではないか。

 まぁ、そのバズとやらも優秀な商人であるのなら、胃の痛みを乗り越えて、これを良い機会とみて、一層伸し上がろうとするであろう。

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