第242話 レオンにカッコいいところを
再度扉を開けると、やっぱり冒険者と思われる男たちが頭を下げて僕が通る道を作っている。
いやだな、中に入るの。
「セージ兄さん、入らないの?」
「レオンは今のを見て変に思わない?」
「ギデオンさんがいたから特に変とは思わないよ」
よく見ると、一番奥で「やってやりました!」という顔で敬礼しているのは、僕のお抱え騎士のギデオンじゃないか。
むさくるしいおっさん冒険者だ。
王都に行ったとき、蛇毒で死にかけているところを解毒魔法で治していらい、わざわざこの領地に押し掛けてきて僕の配下になるくらい僕のことを敬ってくれている。
Aランク冒険者ということもあり、この冒険者ギルドの顔役の一人でもある。
昨日、ギデオンに冒険者ギルドに行くことを話してしまったとき、こうなることを考えておくべきだった。
「ギデオン」
「はい、なんでしょうかセージ様!」
褒められたがっている犬のような目で僕を見るギデオンだが、ここで褒めると冒険者ギルドに来るたびに、大名行列さながらの冒険者の花道を歩く羽目になってしまう。
「やりすぎ。普通でいいから、普通で」
「そうですか? 喜ぶと思ったんですが……みんな、もういい。普通にしてくれ」
ギデオンが言うと、冒険者たちは「やれやれ」といった感じで姿勢を戻す。
でも、これなら冒険者に襲われることはなさそうだ。
多くの冒険者はギルドを出て、隣の施設に向かっていった。
うん、酒場を併設すると聞いたとき、中で繋がっていない構造にしてもらってよかった。
酒を飲んで暴れる冒険者とかに襲われる心配もないからね。
とりあえず、冒険者登録を済ませて早くスライム退治に行こう。
受付カウンターに行くと、中で働いている三人の職員が同時に頭を下げた。
「セージ・スローディッシュ様、よくいらっしゃいました。冒険者ギルド職員一同、セージ様のことを歓迎します」
「テドロンさん、変な物でも食べましたか? それともギデオンの奴がこっちにも何か根回ししましたんですか?」
いくら貴族の子息とはいえ対応が過剰だ。
僕の対応をしているテドロンはこの冒険者ギルドの支部長で、ロジェ父さんとは旧知の仲らしい。
僕とも何度か会ったことがあるが、ここまでの対応をされた覚えがない。
正直、気味が悪い。
「俺が畏まるのはそんなに変か?」
「変だね。なぁ、レオン」
「うん。変だと思う」
レオンもテドロンとは顔見知りなので僕の隣で頷いた。
「あぁ、そうかよ。ただ、セージには礼を言っておきたかったんだ。何度か冒険者の命を救ってもらったことがあるからな」
「ちゃんと……いや、値引きさせられたけど治療の代金は貰ってるし、エイラ母さんだって同じくらい治療してるでしょ?」
「エイラの奴にも機会があれば礼を言ってるさ。あいつは時々冒険者ギルドに来るからな。だが、セージは冒険者ギルドに近付こうともしやがらねぇからな。言えるときに礼を言っておきたかったのさ」
そして、テドロンは僕にだけ聞こえるように、「それに、弟の前で褒めてやったほうが、いい兄貴として株が上がるだろ?」と囁く。
確かに、レオンにはカッコいいところと同じくらい情けないところも見せているからな。
ここで兄の威厳を見せておけるのはありがたい。
「気遣いありがとう、テドロン」
「おうよ。で、今日は冒険者の登録だったな? もう登録は済んだぞ」
「え? もうできてるの? ステータスカードの確認とかは?」
この世界のステータスは、「ステータスオープン」みたいな魔法ではなく、一枚のカードで確認できる。
カードには、名前とレベル、ステータス、加護の有無、所持スキルが記入されている。
ライトノベルでよくある称号とか犯罪歴のようなものはない。
「ああいうのは実力不足の奴が冒険者になるのを止めるために行うもんだ。五歳の頃からラナ嬢ちゃんと一緒にオーク狩りに行ってるような奴を足切りするわけねぇだろ?」
だいぶ端折られた。
「でも、一応冒険者ギルドの説明くらいはしてよ。初心者なんだから。一気にどうぞ」
「冒険者にはランクがある。一番上はSランク。この国だと5人登録されてる。お前の両親はSランクだな。5人中2人がこの町にいるってどうなってるんだって話だよな。その次がAランク。こっちは45人いる。そこのギデオンやお前のところのソーカがAランクだ。このあたりは冒険者の中心、一目を置かれる存在だ。大昔はAランクになれば貴族になれるって話もあったくらいだが、今はそんな制度はねぇ。その分Aランクへの昇格基準も緩くなった。次がBランク、Cランクと続く。だいたいの冒険者はCランク止まりだ。ラナ嬢ちゃんはここにいる二年間でCランクまで上がってたな。当然、この町で最短記録だ。次がDランク、Eランクと続き、冒険者になったばかりのセージはFランクだ。ランクは依頼の達成数、貢献度、実績等から冒険者ギルドが総合的に判断して昇格を決める。あと、依頼に失敗したり、罪を犯したりした場合、まともな理由もなく冒険者ギルドからの指定依頼を断ったりした場合、罰が下る場合がある。処分内容は重いところから、ギルド資格の剥奪、資格停止、ランクダウン、罰金、奉仕活動、厳重注意だな。何か質問はあるか?」
「早口で一気に話されても……いや、まぁ全部知ってたから質問はないよ」
「だから説明するのが嫌だったんだよ。あぁ、そうそう、お前に言う必要はないが、この町周辺のスライムは許可なく殺すのは禁止されてる」
「本当に言うまでもないね。いまからレオンとスライム退治に行くところだし」
許可を出すのはロジェ父さんだ。
スライムはその皮にいろいろな使い方があるだけでなく、捕獲して王都に売られ、貴族たちのレベル上げの道具に利用される。
そのため、勝手に殺してはいけない決まりになっていた。
「はぁ、俺が間違ってた。最初に、敬語はいらない。ダチみたいな感覚で話してくれって言うんじゃなかったよ」
「こっちだってテドロンに、貴族じゃなくて友達の息子としてに接していい言ったせいで、友達の息子だったらちょっと手伝えとか言って、冒険者の治療を押し付けて友達料金で値引きさせられたじゃん」
「仕方ねぇだろうが。怪我してた冒険者、金がほとんどねぇから俺が肩代わりしたんだぞ! 冒険者ギルドの支部長の給料が安すぎるのがいけねぇんだ。文句あるならお前の親父に言いやがれ」
「冒険者ギルドは税金の一部が投入されてるけど、独立法人だから給料が安いのは冒険者ギルド独自の問題でしょ!」
僕とテドロンが言い合っていると、
「セージ兄さん」
「支部長」
レオンと職員が僕たちに声をかける。
「「何?」」
気付けば、周囲の冒険者たちがこっちを見ていた。
彼らはずっと僕とテドロンの会話に耳を傾けていた――いや、大声で話していたから、自然と耳に入っていたらしい。
「セージ兄さん、恥ずかしいからそろそろやめて」
「支部長も、そういうのはやめてください」
どうやら、盛大にやらかしてしまったようだ。
レオンにいいところを見せるはずが、やっぱり微妙なところを見せてしまった。
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