第244話 スライムが食べたい

 レオンがスライムを狩っていく。

 もう僕の教えることはないというレベルで。

 免許皆伝を与えてもいいんじゃないだろうか?

 僕がスライム狩りの師匠を名乗ったことはないけどね。


 と考えていたら、レオンがじっとスライムの死骸を見ている。

 まだ五歳の子供だもんね。

 魔物とはいえ、生きているものを殺すということに思うところがあるのだろう。

 よし、ここは兄として話を――


「……セージ兄さん」

「レオン。あのね――」

「スライムって美味しいのかな?」

「魔物っていうのは……え?」

「セージ兄さんがたまに作ってくれるわらび餅やプリンみたいにぷるぷるしてるでしょ? 美味しいのかなって思って」

「……あぁ、そういう……ね」


 レオン、はしたないから涎を拭きなさい。

 レオンの感性は食い気に極振りしてしまっていた。

 僕の英才教育のせいかもしれない。


「食べられないことはないけど、スライムは美味しくないよ。雑食で普段は土とかも食べてるからね」


 スライムは食べられるのか? というのは僕も子供の頃にいきついた話だ。

 非常食として食べられると聞いたことがあったので、興味本位で食べてみた。

 たとえば殺したスライムの皮の部分を細かく切って茹でてみた。

 食感はグミのような味になったが、味が駄目だ。

 大阪のテーマパークのお土産で売っている、土味のジェリービーンズのようなものだ。


「海老を水に入れて泥を吐かせるみたいに、水とか香草を食べさせるとかして味を変えたりできない?」


 町の食堂で手長エビの泥抜きを見たり、香草を使った料理をよく作っているからか、レオンの提案がなかなか鋭い。

 だが――


「それも試したよ。スライムって水を必要以上に飲まないんだよね。飲み過ぎると体を維持できなくなるんだ。それと香草を食べさせても香りの強い土になるだけだった」

「じゃあ生まれたときから土を食べさせずに育てるとか?」

「スライムは卵から産まれるんじゃなくて、分裂して増えるからね。本体が土の味だったら新しいスライムも土の味がするんだよ」

「うぅ、僕が思いつくことはやっぱりセージ兄さんは思いついてるんだ」


 他にもいろいろな方法で食べようと試みたが、やっぱり無理だった。

 クラゲのように海に生息してプランクトンを食べてくれていてくれたら調理のしようがあったかもしれないのに。

 原因は土だけではない。

 そもそも、スライムの好物って、魔物の腐った死骸なんだよね。

 一階層で腐った魚を食べたスライムとかがいて、それを解体するときはとても臭かった。

 あれを見てから、スライムを食べようという気が起きなくなった。

 残念そうにしているセージを見て、僕は考える。


「じゃあ、スライムに似たものを作ろうか」

「それってわらび餅? プリン?」

「ううん、もっと違うもの」


 家に帰った僕は、早速準備をする。

 まず使うのはゼラチンだ。

 寒天やプリンが一般的ではないこの世界だが、なんとゼリーは昔からある。

 というっても、煮凝りのようなもので、デザートとしては使われていない。

 そもそも、骨からゼラチンを出す技術が確立していないのだ。


 だが、魔法を使えばある程度簡単にゼラチンを作る事ができる。

 魔法で完全な真空を作る事ができないが薄くすることはできる――その逆。

 つまり、空気に何十倍も圧力をかけて相手を押しつぶすようなことはできないが、しかし圧力を上げることくらいはできる。

 そ茹でているときに鍋の中の空気の圧力を上げれば、水の沸点も上がる。

 そう、圧力鍋の原理だ。

 これがなかなか難しく、修行空間でゼロが見ている前でチャレンジして、何回か鍋が壊れそうになったことがある。

 ゼロがいなかったら安心して魔法の実験もできないよ。

 でも、おかげでいまは料理に応用できるくらいに魔法を使いこなしている。

 圧力鍋により軟化した骨から出てくるのがコラーゲンだ。

 しかも高温になることで、加水分解ができ、煮凝りではなくコラーゲンのみを抽出することもできる。

 今回は抽出したコラーゲンを乾燥させて砕いた粉コラーゲンを使う。


「セージ様、今日はセージ様の誕生日なのですから料理の準備は私が――」


 厨房ですっかり大人の女性になったティオがため息交じりに僕に言う。


「大丈夫大丈夫、これは料理じゃなくてお菓子だから」

「ですが……」

「直ぐできるから」


 作り方は簡単。

 ジュースと砂糖を混ぜて鍋で熱する。

 さらに粉コラーゲンを入れて熱する。

 分量によっては甘いゼリー、分量によっては今回の目的のものになる。

 どうせなので両方作ってみました。

 それぞれ型に入れてあとは冷やすだけ。


「ティオ、こっちの大きいのは冷蔵庫に冷やしておいて。夕食のデザートに出したらエイラ母さんも喜ぶと思うから」

「結局、デザート作ってるじゃないですか。ケーキを焼こうと思っていましたのに」

「ケーキはケーキでもらうから。ティオのケーキは美味しいからね」

「ところで、個数があるようですが、一つ味見をしても?」

「うん、どうせレシピは見て覚えたでしょ? 食べて感想ちょうだい」

「はい、ありがとうございます!」


 そして、もう一つのものも冷やして。

 これでこの世界初のお菓子! グミの完成だ!

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