第81話 役立たず
僕はアウラを呼んで、五人で二階層に向かうことにした。
といっても、ここから木材がある場所までかなり距離があるんだよね。
「ふふふ、お任せください! 私はハイエルフの研究者ですよ! 私の構築魔法があれば、転移魔法も使うことができます!」
リディアが自慢げに言う。
そうか、構築魔法のスキルを使って彼女は次元を越える研究をしていた。
同じ空間を移動する転移魔法を使えてもおかしくない。
「どうやって使うの?」
アウラが尋ねる。
「よくぞ聞いてくださいました、アウラ先輩! まず、転移先にこの魔石を置きます。これには特別な魔力が込められていて、これを目印に移動することができるんです」
「なるほど、ビーコンみたいなものか。ていうことは、転移先に魔石を置くために、歩いて行かないといけないってこと?」
「……はい」
歩く。
ただし、エルフも一応役に立っている。
リディアの使える魔法の一つに、気配を消す魔法があるらしく、それによりゴブリンに襲われることがない。
ゴブリンを倒してもよかったと思うんだが――
「すみません、私たち、ゴブリンにはお世話になったことがあるのであまり戦いたくないんです」
「ゴブリンに世話に?」
「五年程前にリアーナとリーゼロッテと喧嘩をして家出したことがありまして、その時にゴブリンと出会って話し相手になってもらったんです」
「え? あいつら人を見たら襲って来るだろ?」
「私は人間じゃありませんから」
どうやら、ゴブリンにとってハイエルフと人間は全然違う生物らしい。
見た目は耳の形以外変わりないと思うんだけど。
とにかく、リディアが家出して落ち込んだとき、ゴブリンが話し相手になってくれたらしい。
話し相手になってくれたお礼に、カニの甲羅を磨いて作った腕飾りをプレゼントしたんだとか。カニの甲羅から腕飾りって可能なのか? と思ったが、時間は山ほどあったので、思いっきり磨いたらいいものができたらしい。
え? 髪飾りもカニの爪の部分?
全然気付かなかった。
「それで、家出の原因ってなんだったんだ?」
「いろいろなことが積み重なってですが、引き金となったのは、リアーナの一言ですね」
「一体何を言ったんだ?」
リアーナに尋ねると、彼女はそっぽを向いた。
代わりに、リーゼロッテが答える。
「彼女が言ったのは『私、元女王なのに……』です」
「……なるほど。よくリーゼロッテも一緒に家出しなかったな」
「私は家出せずに彼女をはり倒しました」
三人とも似たような感じかと思ったけれど、少しだけ個性が垣間見えた話だった。
やっぱりというか、鶏を捕まえた森までの距離は長い。
フォースに頼めばよかったと後悔する。
結局、一泊した。
ゼロがサンドイッチを作ってくれた。
エルフが泣いていた。
食事のたびに泣くのはやめてほしい。
野宿なので見張りが必要かと思ったけれど、リディアの結界により守られているので必要なかった。
リディア、便利だ。
彼女が便利過ぎて、リアーナとリーゼロッテの活躍が目立たない。
「弓矢の扱いは一番得意です」
「回復魔法は得意です。変な物を食べてお腹を壊しても治療できます」
きっと本来は役に立つんだろうけれど、役に立たない。
野宿だ。
さすがハイエルフたちは野宿のベテランであり、直ぐに熟睡する。寝袋もないのに、岩を枕に寝ている。
アウラは立ったままだが、よく見ると足が地面に埋まっている。
ベッドで寝るときは横になっているが、土のある場所だと足を埋めて立ったまま寝る方が落ち着くんだとか。
僕は寝れなかった。
そんな僕に気付いて、リーゼロッテが起き上がって小声で尋ねる。
「眠れないのですか?」
「うん、実家にあった寝袋を持ってきたけど、枕がなくて。枕も持って来ればよかった」
「よろしければ膝枕でもいたしましょうか?」
「それだとリーゼロッテが眠れないんじゃない?」
「私は多様な回復魔法を使えますから、疲れも眠気も魔法で取れますし、足の痺れも問題ありません。あ、リラックスできる魔法を掛けますね」
回復魔法が万能過ぎる。
言葉に甘えることにした。
二階層に来る前にお風呂に入ってきたからだろうか? ほのかに石鹸の香りがする。
僕の様子に気付いて声をかけてくれるなんて、リーゼロッテは優しいんだなと思った後、直ぐに寝ることができた。
次の日。
「リディアは魔物避けの魔法、私はセージ様の膝枕。役に立っていないのはリアーナだけですね!」
リーゼロッテが思いっきりマウントを取っていた。
僕への気遣いはこの日のためだったのだと理解。
リアーナは、「ぐぬぬ……」とかなり悔しそうにしている。
こんな関係を何百年も続けられたのだとしたら、きっと仲がいいんだろうな。
だから、リアーナ、怒ったからってリーゼロッテを引っかくのはやめてほしい
そして、ようやく森に到着。
出口の近くで材木の伐採開始。
ここでも仕事をするのはリディアだった。
風の刃の魔法で木を伐る。
同じ風の刃の魔法でも僕より遥かに威力が高い。
「私の出番ですね! 任せてください、まずは下に回りやすい細い丸太を置き、てこの原理を使って丸太を持ち上げ、下の丸太を回転させて――」
「アウラが運ぶね!」
アウラが出口で足を固定して、次々と蔦で丸太を運ぶ。
うん、アウラって力持ちなんだよな。
その後、転移魔法の目印となる魔石を埋めて、僕たちは大量の丸太と共に零階層に戻った。
出口から脱出する時以外、僕ができたことなんて、せいぜいアウラに魔法の水をあげることくらいだった。
僕もあんまり役に立ってないんだから、リアーナもそんなに落ち込まない方がいいって。
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