第190話 ロジェ父さんが活躍しない世界

「ロジェ父さんがいなかったら世界が滅んでいたってどういうこと? 何が原因で国が滅んだの?」


 ロジェ父さんはタージマルト戦役で活躍したけれど、でもだからといって、あれは侵略戦争であり、例え負けたとしても攻められている東の国には攻め返す程の力はなかったはずだ。

 だから、戦争が原因で国が滅ぶとは思えない。

 と思ったのだが――


「原因は戦争――セージ様がタージマルト戦役と呼ぶものです」


 僕の予想は簡単に外れた。


「あの戦争ではジルバスダル王国は東の国の領地を手に入れたものの、直ぐにさらにその東の帝国に奪われてしまいました。その結果、戦争で活躍した者に北に新たに開拓した土地を割譲し、男爵位を授けました。ですが、もしもロジェ・スローディッシュがいなければ、領地は与えられなかったのです。少ない領地を戦争で活躍した全ての者に約束通り領地を割譲するのではなく、そのうちスキルを持っている者にだけ割譲するべきだという貴族の意見が認められた結果です。ロジェ・スローディッシュがいなければ、その者はタージマルト戦役で最も功績を挙げていましたので、多くの上級貴族がその意見を受け入れました」

「メディス伯爵も?」

「ええ。ロドス・メディスは、いまは息子であるロジェ・スローディッシュがスキルを持たずに生まれたため、スキルがない者でも優秀な者がいるという考えに至っていますが、そうでなければ、スキルを持つ者こそが優れた人間であるという思想の持主でした。それゆえ、彼の意見も尊重されました。魔法は戦争においては弓矢に勝る戦力ですからね」


 メディス伯爵ってロドス・メディスっていうんだ。

 聞いたような気がするけど、やっぱり初めて聞いた気もする。


「……ちなみに、ロジェ父さんがいなかったら、誰が第一功労者になってたの? やっぱり上級貴族の息子とか?」

「いえ、ダッカーノ・ウルノです」

「ウルノ男爵がっ!?」


 ウルノ男爵が?

 そんなひどい人には見えなかった。

 むしろ、そういう差別をする人間がいたら怒ってくれそうな感じがするんだけどな。


「彼もまた、スキルを持たないロジェ・スローディッシュに会ってその考えを大きく変えた人物の一人ですから」

「そっか。ロジェ父さんってそれだけいろんな人に影響を与えてるんだ。でも、それでなんで国が滅ぶの?」

「スキルを持つ者にだけ領地を与えられた結果、戦争で功績を挙げたにもかかわらず、領地を貰えなかった者たちは不満を募らせます。その結果、スキルを持っていない者たちが暴動を起こすことになります。暴動は鎮圧されたのですが、その隙をついて東の帝国が侵攻し、滅ぼされてしまいます」

「うわ、本当に国が滅んだ……で、それってやっぱり天使にとっては都合が悪いの?」

「地底迷宮が封印されている国ですから、フォースの希望もあり、セージ様が生まれるのはジルバスダル王国と決まっておりました。セージ様が生まれる予定でしたから、可能な限り平和な状態にしようという判断です」


 懇切丁寧な仕事ぶりだ!

 不作とかもあったが、うちの村だけはエイラ母さんのお陰で水を確保できていたから畑が壊滅するような被害もないし。

 ラナ姉さんがいささか狂暴なのは気になるが、それ以外は本当に平和だった。


 って、それってロジェ父さんがスキルを使えないのは、僕のせいってこと?

 いやいや、でもそうなったらロジェ父さんがスキルを使えたら国が滅んでるんだから。

 じゃあ、今からでもスキルを使えるようにしてもらって――ってそんなことしたら、またロジェ父さんを伯爵家の跡継ぎにしようとする動きがでるかもしれない。

 ロジェ父さんもそれは望まないだろう。

 と考えていたら、リーゼロッテが恐る恐る手を上げる。


「あのぉ……それでしたら、なんで私に啓示スキルをお与えになられたのでしょうか? 別の人に啓示スキルを与えていたら、私たちは滅びずに済んだのではないかと。それとも、天使様は私たちに一度滅んでほしかったのでしょうか?」

「亜人のスキルはサードの管轄です。サードはそういうところは大雑把ですから」

「……納得しました」


 リーゼロッテが喜んでいいのか落ち込んでいいのか複雑な表情を浮かべた。

 天使に邪魔者扱いされて滅ぼされたのではなく、自分の罪として受け入れてほしい。

 なんか、話を聞いていたら、もうイセリアのことはどうでもよくなってきたな。

 とにかく、僕の近くにいたら魔法を覚えやすくなるということか。

 それで、魔法を覚えやすくなる環境ってなんなんだろ?


   ▼ ▽ ▼ ▽ ▼


「セージ様、もう一着お願いします」

「え? もう一着?」

「はい!」


 魔法を覚えやすい環境として、魔法で作られたものを身に着けるといいらしい。

 例えば、僕が魔法で作った甲冑とか、鎧とかだ。

 そのことを話したところ、イセリアは是非僕に鎧を作ってほしいと言ってきた。

 土といっても煉瓦みたいに堅いので防御力がないというわけではないが、仕事の時はちゃんとした金属の鎧を着用することを条件に、土の鎧を作ることになった。

 そして、その予備を作っている。


「さすがセージ様です。あと、もう一つお願いしたいのですが」

「え? まだ鎧いるの?」

「いえ、鎧ではなくてですね――」


 とイセリアが要望を出したが、僕は全力で却下した。

 いくらなんでも、土のパンツは作りたくない。

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