第44話 舞い上がろう
庭に行くと、大量の干からびたスライムが打ち捨てられていた。
ロジェ父さんが焚き火の準備をしているけれど、焼いて食べるとは思えない。
「ロジェ父さん、なにこれ? スライムの死骸?」
「セージはこの状態のスライムを見るのは初めてかい」
「うん、スライムはいつも見てるけど、こんな状態のスライムは初めて見るよ。スライムの死骸っていつも畑の肥料にしてるよね?」
「そうだね。でも、スライムは核を壊した後、乾燥させると、表皮が固まって袋になるんだよ。使い捨ての防水性の優れた袋になるんだけどね」
「これ、穴がずたずたになって袋になりそうにないよ?」
「ああ、ラナに作らせてみたんだけど、あの子はどうも大雑把でね」
ロジェ父さんが少し困った風に言った。
それは、ロジェ父さんの方が悪い。人には適材適所というものがある。
ラナ姉さんはスライムを倒すことはできても、その処理とか無理だろ。
「一応、糊を使えばくっつけることもできるけど、強度が落ちるし、完全に塞がないと防水性が失われるからね。既に乾燥させたものは肥料にもならないし、焼いてしまおうかって思ってたんだ」
「へぇ……」
僕は乾燥させたスライムを触る。
感覚としてはビニールっぽい。ビニールより少し軽い気がするけれど、結構丈夫そうだ。コンビニで買うビニール袋より少し丈夫くらいじゃないだろうか?
巨大スライムを乾燥させたら強度が増して半透明のブルーシートが作れそうだ。
「父さん、これ少しもらっていい?」
「いいけど、何にするんだい?」
「遊び道具を作ろうかなって思って」
実は、前から密かにあるものを作ろうとしていたのだが、紙が結構高いため頓挫していた計画がある。
しかし、このスライム布があれば代用は可能だ。
「遊び道具?」
「うん、竹と糊と紐と、あとこのスライム布があれば作れそうなんだ」
「セージが考えた遊びか。よかったら、僕も一緒に作ってみていいかな? 必要なことがあったら手伝うよ」
「うん、じゃあ一緒にやろ」
まず用意するのは竹だ。
前に森に行ったとき、竹が生えているのを見つけた。
竹は温暖な場所に多く生えるが、日本の北海道にも竹林があるように、寒冷地帯にも生えている種類の竹がある。
前に姉さんに頼んで取って来てもらったものがあった。
「この竹を削って、細い棒を作るんだ。串焼きの串みたいな細さの棒だよ」
僕がそう言って、スライム解体用のナイフを使い、竹を細く切り、さらにそれを削っていく。
「こんな感じで」
「へぇ、わかったよ」
さすがロジェ父さんは一回見ただけで竹ひごの作り方をマスターしたらしい。
僕の前世での子供の頃なんて、爺ちゃんに何度も何度も聞いてようやくできたのに。
「よし、二本目――」
集中して竹ひごを作る。
うん、ステータスに技術があるおかげか、日本にいた頃より速く竹ひごを作れるな。
「セージ、何本作ればいいのかな?」
「そうだね、この長さだととりあえず六本でいいかな?」
と僕が顔を上げると父さんの前には、大量の竹ひごができあがっていた。
「作り過ぎたな」
「父さん、もうこの道で食べていけるんじゃない?」
僕がそう言うと、父さんは苦笑していた。
貴族に対して言うには失礼だったかもしれない。
「それで、これからどうするんだい?」
「少し竹ひごを貰うよ。えっとね、こうやって組み合わせて――紐で結んで――上にスライム皮を被せて、巻きつけて糊で固定。補強用にスライムの布を重ねて貼り付けて――よし、できた! 父さん、これが何だかわかる?」
「盾代わりに使うのかな? 模擬戦用のおもちゃの盾かい?」
「全然違う!」
ラナ姉さんじゃないんだから、そんな物騒なものを作らないよ。
ここまでしてもピンとこないということは、この国にはこれがないんだろうな。
「じゃあ、見せるから、父さん、これ持って。それで、僕が『はい』って言ったら手を離して」
「――ああ、わかった。持っていればいいんだね」
「じゃあ行くよ」
僕はそう言うと、糸の先を纏めた木の棒を持ったまま走った。
そして、ちょうどいいタイミングで、
「はい!」
と叫ぶと、父さんが僕が作ったソレを離した。
すると、ソレは天高く舞い上がっていく。
「飛んだ飛んだ!」
十メートルくらい上がったんじゃないだろうか?
電線がない自由な空を、僕が作ったソレ――凧はさらに空高く昇っていく。
「セージ、これは魔法なのかい?」
「違うよ。自然の風を利用しているだけ。ロジェ父さんでもできるよ」
僕が飛ばし方を教えてあげると、ロジェ父さんもすんなり凧を空に浮かべた。
本当に一発で上げちゃったよ、この人。
「へぇ、不思議な感覚だね。それで、これはどうやって遊ぶんだい?」
「別に――ただどれだけ長く飛んでいられるかとか、どこまで高く飛ばせるかを競ったりはするけど、一番の目的は飛んでいるあれを眺めるのが目的」
「そうなんだ。そこはセージらしいね」
ロジェ父さんにとって、僕とは一体何なのだろう?
と思っていたら、誰かがこっちに走ってくる。
ラナ姉さんだ。
慌ててどうしたのだろう?
僕たちがいる方に向かって来る。
「父さん大変! 空に見たこともない魔物がいるのっ!」
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