第12話 さては偽者だな!
アウラは植物の魔物のためか、畑仕事が得意だった。
魔物には様々な能力を持つものがいて、アルラウネは植物の育成促進の能力が存在するらしい。だが、彼女はジャガイモの育成にその能力を使わない。
その理由は何故なのか、ゼロはアウラに聞いた。
アウラはまだ言葉の練習中だけど、ゼロは完璧にアウラと意思疎通できた。
アウラの返事はこうだった。
『植物は生きています。育成促進を使えば植物は直ぐに育つけど、寿命が短くなってしまいます。それは可哀そうです』
というのが理由だった。
日本でも、たった五十日で成鳥になって出荷されてしまうブロイラーがかわいそうだって言う人もいたし、彼女の意見は理解できる。
植物がかわいそうだと思うなら、僕が野菜を食べるのは別に構わないのかって尋ねたところ、野菜は人に美味しく食べてもらうことで、人間に育ててもらう道を選んだから、ちゃんと育ててちゃんと食べてあげてほしい。私も野菜を食べるのは好き。
ということらしい。
アウラの中でそういう倫理観ははっきりしているんだな。
もしかしたら、彼女の考えが、植物の考えなのかもしれない。
甘い果物だって、鳥に食べられて種を運んでもらうために美味しくなるように進化したって言われているし、実を食べられることは悪いことじゃないのかもしれない。
あと、ゼロの聞き取りによると、アウラは別の階層から一階層にやってきたのではなく、生まれたときから一階層にいたらしい。
太陽もなければ、昼夜の概念もないので、具体的に何日前から一階層にいたのかはわからないが、ゼロと話をした結果、五年前だ。
なんで他のアウラウネのように毒のある花を育てないのか、他の魔物と同じように人間を襲わないのかは自分でもわからないらしい。
「五年前って、アウラって僕と同い年なのかっ!? それにしては、成長が早いっていうか――」
見た目十五歳だもんな?
女の成長は男より速いって言っても限度ってもんがある。
「アウラウネは生まれて数年で今と同じ姿になり、個体によっては数千年生きる者もいます」
「数千年――屋久杉レベルだな」
羨ましいと思うけれど、大変だとも思う。
一緒に育った仲間と一緒なら、数千年も生きるのもいいかもしれないが、生まれたときから仲間もおらず、ひとりぼっちで数千年はきつい。
「まぁ、ゼロが一緒にいてくれたら孤独ってことはないか」
「セージ様も、ここにいてくれたら年を取ることはありませんから、ずっと一緒にいることができますよ」
ゼロがそんな提案をしてくるけど、さすがに数千年も生きたいとは思わないよ。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
「セージ、レベルが上がったんじゃない?」
「本当に?」
ラナ姉さんとスライムを倒して五日目。
僕が言うより先に、姉さんの方が先に気付いてくれた。
そう、僕のレベルが2から3に上がったんだ。
アウラのお陰でスライムを捜すのが楽になったのもあるけど、なにより姉さんとのスライム狩りが面倒だったので、早くレベルを上げようと思ったのだ。
さっき、修行空間にいってレベルを上げてきて、ゼロも気付いてくれたので間違いない。
「なんでわかったの?」
「歩き方でだいたいわかるわよ」
その感覚はおかしいと思う。
レベルが上がって走る速度は上がったし、腕力も上がったけど、歩き方に変化があるとは思えないし、たとえあったとしてもそれを見抜くことなんで普通の人間にできるはずが――
ラナ姉さんは普通じゃなかった。
「納得したよ」
「わかればいいのよ。でも、今日の分のスライムは倒しちゃうわよ? 自分で課したノルマを達成できないと変な気分になるのよ
「わかった」
ラナ姉さんの性格はわかっているので、そう来るだろうと思っていた。
むしろ、そうでないと、昨日、姉さんが木の実を摘んでいる――花を摘みに行くと言ってトイレに行くような隠語ではなくお腹が空いた姉さんが僕を放って木の実を摘みにいったのだ――間にしたことが無駄になる。
「じゃあ、あっちに行くわよ」
「いや、今日はこっちに行きたいな」
「なんでよ。そっちは昨日行ったじゃない。私はあっちがいいと思うわ!」
姉さんはやっぱり僕の思うように動いてくれない。
このままだと僕の計画が――
「わかったわ。今日くらいは言うことを聞いてあげる」
「え? 偽物?」
「殴るわよ」
本物だった。
一瞬期待したんだけどな。
「レベルが上がったお祝いよ」
「そうなんだ」
つまり、レベルが上がったり、誕生日くらいでないと、二人でスライム狩りをするときに狩場を選ぶ権利も与えられないらしい。
まぁ、計画通りに事が運んだから素直に喜ぶとしよう。
「この辺のスライムは昨日倒したからいないわね。セージ、やっぱり他の場所に行きましょ」
「三匹見つけたんだから、もう少し探そうよ」
文句を言う姉さんを宥め、四匹目のスライムを捜すふりをして、姉さんを目的の場所に誘導する。
「アレ? 姉さん、あんなところに――」
「花なんて生えてなかったわよね?」
僕の台詞を姉さんが先回りするように言った。
「見たことのない花だわ」
「姉さん、花の種類とかわかるの?」
「種類は知らないわ。だけど、この辺に生えている植物の色や形くらい覚えてるでしょ?」
「やっぱり偽物だ! いまだに文字の形を間違えて書く姉さんが花の形なんて覚えているはずが――あいたっ」
殴られた。
さっき「殴るわよ」って言ったのは二度目はないという警告だったようだ。
この痛み、やっぱり本物だ。
「魔物って些細な体つきや色の違いだけで、全然強さが違う変異種である可能性があるの。だから、普段からいろんなものをしっかり観察しておきなさいって父さんに言われたのよ。だから、その練習を兼ねて、この辺に生えてる植物の形はだいたい覚えてるわ」
「その熱心さを勉強の方に費やせば、母さんも苦労しなくて――なんでもありません、凄いと思います」
二回殴られるのは嫌なので口を噤んだ。
「鳥が花の種を運んでくるなんてよくあることだし、きっとこれもその一つね。気にすることないわよ」
「待って、姉さん。僕、この花の形、見たことがある」
そして、僕は内心不敵な笑みを浮かべながらも、驚く素振りを見せてこう言った。
「これ、ジャガイモの花だよ」
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