第202話 エイラ母さんも凄かった

 町と村の違いというのは、結構曖昧だったりする。

 日本の場合だと、都道府県が決めた基準を満たせば町と名乗ることができる。ただし、一度町になったら、その後人口流出などが原因で基準を満たさなくなっても村に戻さなくてもいい。

 そして、この世界の町と村の基準はさらに曖昧だ。

 世間が町と認めれば町。村だと言われたら村だったりする。

 そんな中でも判断材料はいくつかある。

 一番大きな基準は、城壁の有無だ。

 多くの村の周囲でも木の柵はあるが、町と呼ばれる場所には人の背丈以上の石もしくは煉瓦の城壁があるというのが相場だ。

 それと同じくらい基準となるのは、交易所の有無だが、これについては、バズの商会がその役割を担ってくれるだろう。


「城壁か……スーパーファミコムの町を作るゲームだとそんなの気にしなくていいんだけど、魔物のいる世界だとそうもいかないよなぁ」


 最近、アウラと一緒に遊んでいたゲームを思い出して、周囲に聞こえないように呟く。

 あのゲームにも魔物――というか大怪獣は出てくるのだけど、あれに至っては城壁なんて意味を成さないような化け物だから考えないことにする。

 現在、バズとロジェ父さんが執務室で話し合い中。

 心労が溜まっているバズが寛げるように、居間で行っている。

 僕とエイラ母さんは食堂で待機となった。

 ラナ姉さんも帰ってきたのだけど、コパンダと遊びに行った。


「エイラ母さん、町作りってなったら、城壁はやっぱり石で作るの?」

「早急に作るなら、煉瓦かしらね。魔法を使えば直ぐに作れるし」

「魔法って、もしかして僕が作らされるの?」


 土操作の魔法を覚えてから、仕事ばかりさせられている気がする。

 

「さすがに城壁分の煉瓦を作るのはセージにはまだ無理よ。私がするしかないわね」

「え? エイラ母さんが仕事するの?」

「仕事するわよ! 普段も雨とか降らせてるでしょ?」


 普段というなら本を読んでいる姿しか見たことがない。

 雨を降らせるのだって日照りが続いた時だけだし、僕に土操作の魔法を教えたのも、自分が楽をするためだと思っていたくらいだ。


「はぁ、こうなったらセージには母の凄いところを見せないといけなようね。ついてきなさい」

「え? うん」


 僕はエイラ母さんと一緒に家の裏に向かった。

 家庭菜園もなければ、建物があるわけでもない。


「この辺りはね、良質な粘土質の土が取れるのよ。土操作――」


 エイラ母さんが魔法を使うと、土がうごめいた。

 一体、どれだけの範囲の土を支配下に置いたというのか。

 少なくとも、僕が行っている土操作の十倍――いや、それ以上の範囲の土が母さんの支配下に置かれている。

 目の前の土が動き、山とくぼみを作る。

 そして、土の山が次々に小さな直方体に形を変えていき、小さくなっていった。

 その土の表面には水が滲み出ている。土の中にある水を表面に出しているのだ。


「セージ、一つ手に取ってみなさい」

「……凄い。本当に煉瓦みたいだ」


 土の塊だったそれを手に持ち、僕は思わずそう言った。

 僕の魔法でここまで堅くはならない。

 ロジェ父さんの強さは僕からしたら人外の領域だから計り知れないところがある。

 しかし、僕は魔法を得意としているため、エイラ母さんの魔法の実力を推し量ることはできる。その結果、こちらもまたすごい。

 誇張無しに、僕の両親がいたら国を取れるんじゃないかと思えるほどに。


「次ね」

「え? 次?」


 魔法名を言わずに魔法を展開させる。

 すると、目の前に石材が現れた。

 煉瓦と同じくらい、いや、それ以上のかなりの量だ。


「セージもストーンバレットを使えるでしょ? あれの応用よ」


 これもまた驚きだ。

 僕のストーンバレットは小さな石しか作れない。

 無から有を生み出すのはそれだけ大量に魔力を使うのだ。 

 と言うと、石が消えた。


「あれ? 何で消えたの?」

「魔力を抜いたのよ。魔法で作られた石は魔力の塊のようなものだから」

「本物の石じゃないんだ」


 魔法で生み出した石が本物の石だったら、魔法で石を生み出すたびに世界全体の質量が増えてしまう。

 確かに、そんなバランスの悪い世界は成り立たないか。


「本物の石とは違うわ。私が作ったら、簡単に魔力を抜かれないようにできるけど、それでも数十年経てば消えてなくなるから建築の資材にはならないのよ。せいぜい即席の家や砦を建築するときに使えるくらいね」

「それでも十分凄いよ」


 その後、エイラ母さんは煉瓦を作るために作った穴に周辺の土を集め、地面を均していた。

 本当に凄い両親の子供に生まれたんだと僕は改めて思った。


 僕とエイラ母さんが煉瓦造りをしている間に、ロジェ父さんとバズの話し合いは終わった。

 どうやら、本格的に村から町への改革が始まるらしい。

 資金については、バズ商会が貸付を行うらしいのだが、それって元を辿れば僕のお金じゃないのかな? でも、貸し付けたお金を使って、バズの商会から町の建築資材を買うわけだし、貸し付けをしている僕がロジェ父さんの庇護下にいるわけだから、バズからしたら絶対に取りっぱぐれにない相手だ。

 明日から村の顔役たちとの話し合いが始まるそうだ。

 今回の改革で、村としての在り方は大きく変わる。

 どんな話し合いになるのかわからないけど、まぁ、そこは大人の仕事だ。

 僕はのんびりさせてもらおう。


 こう思って、のんびりできたことがあったかな?

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