第166話 玩具作り(リバーシ&竹とんぼ)

 カリンが画材を置きに帰るとき、石細工の代金も一緒に渡す。

 将来、本当に芸術の学校に行くようなことがあれば、学費の足しになるだろう。

 その後、改めて遊ぶことになったのだが、何をして遊ぶか。


「そうだ、セージ! スカイスライムも面白いんだけど、何か別の遊び道具ねぇか?」


 との要望が出た。

 んー、何を作るかな?

 竹トンボ? コマ?

 いや、どっちも作り方は知ってるけど、結構細かい作業が必要になるんだよな。

 すごろくとか作るのが大変だし。

 メンコ……はそもそもメンコに向いてる紙がどこにあるのかも知らない。

 リバーシとか将棋、チェスも作るのが面倒。


「ないのかよ」

「いや、作りたいものはいろいろあるんだけど、作業が細かかったり、素材がなかったり、大変だったりするのがいっぱいあるんだよ」

「……セージさん、どれだけ遊び道具のレパートリーがあるんですか」


 カリンが呆れたように言う。


「いったい、どんなのがあるんだ? とりあえず、一通り教えてくれよ」

「うん、まずは竹とんぼは――」


 僕はさっき考えた物がどんなものなのか教えた。

 作れないと判断したのはメンコだけだった。

 

「リバーシって面白そうですね! 私、作ってみたいです!」

「俺は竹とんぼだな。竹がくるくる回って空飛んでボンってなるんだろ?」


 なんだよ、ボンって? 竹トンボ、爆発してるやん。

 ということで、カリンはリバーシを、ハントは竹とんぼを作る事にした。

 リバーシは、板の上に線を引いて、黒と白に縫った丸いのを作るだけでしょ! って思うかもしれないが、どうせならちゃんとしたものを作ろうということで、マス目に円形のくぼみを作り、そこにはまるサイズのコマを作ることにした。

 本当は磁石と鉄板を使えば楽なんだけど、磁石は村にないから仕方がない。

 ハントには、竹とんぼの大雑把な作り方を教えたので、早速挑戦している。幸い、スカイスライムを作るのに竹ひごを使うので、村には森で採ってきた竹が結構あるから、素材には不自由しなかった。


 ついでにハントが木材も貰ってきたので、川の近くの休耕地でそれぞれ作業を開始する。

 これを正方形の板状に切る必要があるんだけど、ミスリル包丁で――切ったらティオに怒られそうだ。


「セージ、なんなら俺が切ってやろうか?」

「リザードマンの剣で切れるわけないだろ? 振り回したらカリンに没収されるぞ」

「セージさん、そこは私に丸投げなんですね」


 リザードマンの剣を振り回すハントに注意し、何故かカリンから注意された。

 のこぎりを借りてくるか。

 いや、面倒だし、これでいいか。


「風の刃!」


 木がスパッと真っ二つに切れる。


「おぉっ! すげー、お前、魔法使えるのかよ」

「風の刃は得意なんだ」

「お兄ちゃんがリザードマンの剣を振り回すより危険なことしてませんか?」


 カリンが指摘するが、使い慣れてるから失敗はしない。

 一応、人のいない方向に向かって打ってるから万が一外しても、大丈夫だ。

 その後、何回か魔法を使って板を完成させたあと、カリンが石細工を整えるための道具を使って、板を整形する。


「セージ! できたぞ! 竹とんぼ!」

「これじゃ飛ばないよ。こんな風に、羽のところに角度をつけないと」

「角度って、どのくらい?」

「そこは感覚で」


 板に線を引いた後、コマとくぼみ作りを始める。

 僕が地面に書いて説明をすると、ハントは「結構難しいな」と言いながら、解体用の手袋を嵌めて、小刀で整え始める。

 僕とカリンはまず、糸を利用して綺麗な円を描き、その円の形のコマを二個作る。

 カリンはそのコマの形に合わせて、石細工を彫るための道具を使ってコマをはめ込むためのくぼみ彫っていき、僕は残りのコマを作っていく。

 これが結構大変だった。


「セージ! 今度こそできたぞ! 竹とんぼ! ちゃんと角度もつけたぞ! これで飛ぶんだよな!」

「これ、羽のところが両方とも同じ方向に傾いてるじゃない。左右の角度が逆じゃないと飛ばないよ」

「え? お前、そんなこと言ったかっ!」

「言ったよ。作り直しね」


 ハントはプロペラ部分を作り直す。

 僕はひたすら円形の板を彫っていた。

 リバーシのマスってなんで64もあるんだろう。もう36くらいでいいんじゃないかな?

 結局、その日は半分もコマしか完成しなかったし、カリンも全部のくぼみを彫ることができなかった。

 リバーシで遊ぶまで暫く時間がかかりそうだ。


 ただ一人、


「飛んだ! セージ、飛んだぞ! 俺の作った竹トンボ――なんでトンボなんだ? とにかく飛んだぞ」


 とハントが竹とんぼを完成させて喜んでいた。

 でも、ハントもかなり苦労してたもんね。穴を開けるのに失敗して作り直したり、重心の位置が悪くて飛ばなかったりといろいろ苦労した。

 苦労した分、喜ぶのは当然か。

 と見守っていたら、竹とんぼが川に落ちた。

 ハントが無言で川に取りに行こうとするが、カリンがその腕を掴む。


「お兄ちゃん、大人がいないのに川に入ったらダメだってお母さん言ってたでしょ」

「だって、俺の竹とんぼが」

「また明日作ればいいでしょ」

「俺の竹とんぼぉぉぉぉぉっ!」


 きっと、竹とんぼはとんぼだから、生まれた川に戻りたかったんだろうな。

 流れていく竹とんぼを見送りながら、今度、笹船レースをするのも悪くないなって思った。


 そして、家に帰ってから、僕は荷物を持って修行空間に移動する。


   ▽ ▼ ▽ ▼ ▽


「セージ様、お帰りなさいませ。今日はいつもよりお早いですが、何か御用でしょうか?」

「うん。今回の旅のお土産。本当はもっと早く渡せたんだけど、お土産だから、家に帰ってから渡したほうがいいって思っててね。これ、ゼロの分」

「ありがとうございます。素敵なハンカチですね」


 ドルンの街で買ったハンカチ、ゼロの分も買った。

 刺繍の模様はもちろん、天使の羽だ。


「うん。ポケットチーフとして使ってほしくてね」


 僕がそう言うと、ゼロは微笑み、それを綺麗に折りたたんで胸ポケットに入れた。

 やっぱりよく似合ってる。


「ありがとうございます。一生の宝にします」

「いやいや、絹の寿命って確か100年くらいだから、普通の人間にとっては一生の宝にできるかもしれないけれど、ゼロの一生って絶対百年じゃ終わらないでしょ」

「ご安心ください。確かに絹の寿命は百年とされていますが、保存方法では数千年は使えますし、魔力をかなり使いますが時を戻す魔法もございますから」


 絹の保存のためにそんな大魔術ホイホイ使わないでほしい。

 でも、そこまで喜んでもらえたら、うれしいかな?

 アウラとハイエルフたちにも同じように絹のハンカチをプレゼントしたら、とても喜んでもらえた。

 ついでに、ハイエルフたちに、リバーシのコマの効率的な作り方はないか質問してみる。

 便利な道具でも貸してもらえたらいいと思った。

 すると――


「板を切るみたいに、魔法で切るのはダメなんですか?」


 リディアが尋ねた。


「いや、風の刃って真っすぐしか切れないでしょ」

「風の刃の形を少し変えたら、板を円形にくりぬくくらい簡単ですよ。セージ様ならそのくらいの術式、もう作れますよね?」

「……あ」



 術式を作ってみたところ、とても簡単に魔法を作る事ができた。

 ほとんど魔力を使わないので、これなら一時間もあれば全部のコマを作る事ができる。

 今日半日の苦労ってなんだったんだろう?

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