第167話 全ジルバスダル王国リバーシ大会
さて、よくある冒険ファンタジーだと、父と姉は森に魔物退治へ、母は妊娠中なのに歩いて隣村へ、僕は一人でリバーシを作っていました。
なんて展開になったら、森で魔物が現れたとか、隣の村が盗賊に襲われているとか、そういう報せが入ったりする。
でも、なんてことはない、普通にみんな帰ってきて、ラナ姉さんがレベルが上がったと自慢して、エイラ母さんが村人からお礼に甘い瓜のような食べ物をお土産にもらってと、そんな日常だった。
「そういえば、セージ。さっき許可を出した魔法は何に使うのかしら? 裏庭で板を使って何かしてたみたいだけど」
「え、今更聞くの?」
「ええ。風の刃を円状に放つのは理解して、使う許可は出したけれど、また炭酸水みたいな変な使い方をするのかもしれないから気になってね」
「玩具を作ってたんだよ。魔法を使わずに作ったら半日かけても半分でもきなかったけれど、魔法を使ったら一時間で完成したんだ」
作り方は簡単。
まず、午前中と同じように正方形の板を用意する。ただし、かなり厚めに。
そして、その板をさらにスライスするように二枚に分ける。
そして、一枚の板に、線を引き、64マスに分け、一マスごとに円を下書きする。
その円に合うように、円状に放つ風の刃(風の型抜きと呼んでいる)を使って、くりぬいてコマを作っていく。
コマが全部完成したら、一度板をひっくり返し、全てのマスにくりぬいたコマをはめ込み、表面を黒く塗る。
白いインクはうちにはないので、表は黒、裏は茶色の状態になる。
そして、コマを全部外し、板を側面から風の刃を使って半分にスライス。
最初に切ってそのままにしていた板と、線を引いている板を糊でくっつける。
くぼみのところをやすりで削り、コマを嵌めるのがスムーズにできるようになれば完成だ。
ここまで、たったの一時間。
手伝ってもらったカリンに本当に申し訳がない。
「どうやって遊ぶの?」
「まず、真ん中に黒いのと茶色いのを交互に並べてね――」
ルールの説明をしたところで、ラナ姉さんが一度遊んでみたいと言い出した。
「じゃあ、まずはロジェ父さんとやってみたら? 僕は考案者だから簡単に負けないよ」
「ロジェ父さんと? ええ、いいわ」
ロジェ父さんも説明を聞いていたので、二人ですんなりゲームを開始する。
リバーシは最後まで気を抜けない。
最初に多く取ったら有利という話ではなく、先を読む勝負。
結果、ロジェ父さんがラナ姉さんより2枚多く取って、勝利を収めた。
かなりの接戦――だったに思えたが、なんか違和感がある。
「悔しい! ロジェ父さん、もう一回! もう一回!」
「いいよ、じゃあもう一回ね」
最初はラナ姉さんが優勢。
まぁ、最初に取り過ぎると、後から巻き返されるっていうのがリバーシのセオリーなので、当然逆転され、今度は30対34でロジェ父さんの勝利だ。
しかし、なんだ、この違和感は。
「ロジェ父さん、次、僕とやっていい?」
「うん、いいよ」
違和感を打ち消すように挑む。
僕は日本で何度も遊んだことがあるし、勝つためのセオリーなんかも熟知している。
ここまでの勝負、ロジェ父さんも角を取ることがどれだけ重要か理解したはず。
だったら、ここは、ストナー(敢えて相手に角を取らせることで、こちらも角を取り、手数を多く稼ぐ戦法)で行く!
素人相手だったらまず無敗――って、なんだってっ!?
まさかのストナー崩しだとっ!?
一気に僕が不利に立ち、結果、僅差で負けてしまった。
そう、僅差だ。
ロジェ父さん、わざと僅差で勝つように調整している。
「ロジェ父さん、もしかしてリバーシやったことがある?」
「いいや? でも、先を読むという点では剣術に通じるところがあるから面白いね」
「へぇ、面白そうね。セージ、変わって。決勝戦よ」
僕はそう言われて、エイラ母さんと交代する。
いや、さすがにこれはエイラ母さんでも……ってあれ?
エイラ母さん、いきなり飛び出し牛(双方にミスが出やすい局面を敢えて作る上級者が好む手)を作ったっ!?
それに、ロジェ父さん、即打ち(時間をかけずにすぐに出す)で対応っ!?
その後も複雑な盤面が続き、結果、エイラ母さんが勝利を収めた。
ロジェ父さんは手加減していない。その証拠に、四つあるうち三つの角はロジェ父さんが抑えていたのだ。
なのに、何故かエイラ母さんが勝っていた。
「いいわね、これ。順番入れ替えてやってみましょ」
「うん、付き合うよ」
この日、スローディッシュ領では全日本オセロ選手権ならぬ、全ジルバスダル王国リバーシ大会の決勝戦、三番勝負が行われ、エイラ母さんの二勝一敗で優勝した。
……天才はなにやっても天才かよ。
もしも将棋を作った時は、異世界通販本で定石の本を読みこんでから持ってくることにしよう。
三位決定戦では僕が勝ち、ラナ姉さんは二敗。
続いて、エイラ母さんとラナ姉さんの勝負になったが、ロジェ父さんと違い、エイラ母さんは手加減というものを知らない。
いや、ある意味手加減していた。
なにしろ、四隅の角は全部ラナ姉さんが取ったのだから。
でも、角を全部取らせたうえで残りを全部自分の色(黒)に染めて勝利するのはやめてほしい。
全部のコマを取るよりたちが悪い。
ラナ姉さん、この世の終わりみたいな顔をしている。
幸い、ラナ姉さんはキルケには勝利し、スローディッシュ家最弱の立場からは解放されることになった。
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