第258話 盗賊退治
一度休憩に入る。
見晴らしが良いこの場所。
盗賊もどきたちが痺れを切らせて襲ってきてくれたら戦いやすいのだが、確実にこちらが罠を張っているポイントに行く場所がわかっているのだ。少しくらいは待つだろう。
さっきまで町の方から上がっていたスカイスライムはもう見えない。
しかし、僕が開発したスカイスライム――最近では軍で狼煙代わりに使われているって話を聞いたことがあるけれど、盗賊の間でも使われて僕自身を苦しめる結果になるだなんて。
「そういえば、ハントってどのくらい強いの?」
「ゴブリン三体相手に勝てる」
「なんだ、弱いんだ」
「普通だって! レベルも5なんだぞ!」
まぁ、普通の町の人って魔物と戦う機会なんてめったにないから、レベル1とか2のまま一生を終える人も多いって聞く。
レベル5は13歳の冒険者としては確かに普通だ。
「じゃあ、テルとアムは?」
「レベル8になりました」
「私はレベル7だよ」
テルとアムの方が強かった。
二人は子供の頃からウィルと一緒に森に狩りに行ってたから、そこでレベルを上げていたのだろう。
ちなみに、ウィルのレベルは17。
「セージは確か8だったわね」
「えっと、この前9にあがった」
本当は13だけど、修行空間のことを黙っているので、レベルは鯖を読んでいる。
ステータス偽造のスキルを使っているので、ステータスカードの表記もレベル9だ。
そして、ラナ姉さんは――
「あれ? ラナ姉さんってレベルいくつだっけ? 確か、王都に行く前は12だったよね?」
「18よ」
いつの間にかウィルを抜いていた。
王都って魔物が少ないからレベルが上がりにくいと思っていたのに、いったいどこで戦ったのやら。
ラナ姉さんはレベルだけでなく戦闘センスや技術も一流。
やっぱりこのパーティの最大戦力はラナ姉さんで間違いないようだ。
僕は水筒の水を飲んでそう思った。
馬も十分休ませてから、再度北の鉱山町に向かって歩く。
岩場に入った。
緩やかな下り坂になっている。
ゆっくり行ってほしいという願いとは裏腹に、馬の歩く速度が僅かに速くなる。
大丈夫、まだウィルもラナ姉さんも何も言わない。
危険予知スキルも反応しない。
「来ましたね」
「来たわね」
ウィルとラナ姉さんが同時に反応した。
危険予知スキルはまだ反応していないというのに。
二人が間違えたんじゃないかっ!?
と思ったとき、危険予知スキルが反応した。
矢が飛んできた。
「ウィンドカイトシールドっ!」
風の巨大な盾が飛んでくる矢をはじき返す。
「余計なことしなくても全部剣で叩き落としたのに」
「余計な事ってなんだよ! 危ないんだから!」
僕がそう言うと、前方の岩陰から僕たちの行く手を阻むように武装した男たち四人が現れた。
「おい、てめぇら、馬と荷物を置いていきな! 命だけは見逃してやるぜ」
「女も残すんだな。ガキしかいないのは残念だが、楽しませてもらうぜ」
盗賊のテンプレというべき台詞を言う。
刃こぼれしまくりのろくに手入れされていないような剣に、全然磨いていないだろっていう皮の鎧、自然のままに伸びた髭は近付かなくても臭そうなのがわかる。
ここまで行くと本物と見分けがつかない。
話を聞いていなかったら、本物の盗賊と思っただろうが、偽物だと思って見ると仮装のようだな。
さて、まずは交渉に乗るフリをして相手の油断を誘うか。
と思ったら、ラナ姉さんが鞘から剣を抜く。
「なんだ、この女、逆らおうっていうのか?」
「ガキのままごとに付き合うつもりはなかったんだがな。いいぜ、相手してやんよ!」
偽盗賊たちは受けて立つようだ。
ラナ姉さんのことをかなり見くびっている。
弓矢を持っていた奴らはいない。
まだ隠れて隙を伺っているのか。
「ラナ姉さん、敵はまだ隠れてるから――」
「行くわよっ」
「――慎重にって言いたかったのに」
ラナ姉さんがコパンダとともに突撃した。
あぁ、もう!
「土操作!」
地面から土の人形が二体現れ、ラナ姉さんの後に続く。
テルも前に出た。
そしてハントは――ハント?
震えて動けずにいた。
いや、無理もない。
ゴブリンとは違う。
人と人との戦いなんだから。
「一人やられた! この女強いぞ! 囲んで倒せ!」
「五対五で回せる人数がいるわけないだろ! この土の鎧は! くそっ! かてぇっ!」
ラナ姉さんが一人の偽盗賊を蹴散らし、さらに土人形二体とともに三人の盗賊たちに相手をする。
テルが一人、コパンダが一人、そしてラナ姉さんが三人を相手にしている状況。
「この土の鎧を作った術者を倒せぇっ!」
どうやら、僕を倒して土の鎧を無効化し、数の上で優位に立とうとしたらしい。
伝令を後方に控える弓矢使いに送る。
岩陰から弓矢を持った男たちが姿を現し、そして、矢が飛んでいった。
飛んできたのではない。
飛んでいったのだ。
ウィルの矢が岩陰から現れた二人の盗賊の肩を射抜いた。
一度に二本の矢を射るだけでも凄いのに、それを狙った場所に命中させるなんて。
さすが弓の名手――心許ないなんて思ってごめんなさい。
ラナ姉さんはさらに一人を倒し、数の上で優位に立った前衛部隊は盗賊たちを一人、また一人と無効化していったのだった。
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