第112話 魔法学院編突入の予感?

「という方法で、炭酸水を作る事ができます」


 僕が実践を踏まえて、用意してもらった瓶の中に水を入れて炭酸水に作り替えた。


「まさか、そんな簡単な魔法で炭酸水を作る事ができるとは……古い空気は毒だと言われていたから、それを飲み水に入れるなんて発想はこれまでなかった」

「お爺様、古い空気が毒というのはどういうことですか?」

「うむ。鉱山など空気の通りの悪い場所で、何かを燃やすと新しい空気が古い空気に作り替えられていく。そして、古い空気は少量なら構わないが、多量に吸い込むと体を蝕む毒になると言われているのだ」


 ミントにメディス伯爵が説明をする。

 二酸化炭素が深い場所に溜まると毒になるってことだよね?

 酸素がないからという理由ではなく、酸素が十分あっても、二酸化炭素の濃度が3.4%なら頭痛やめまい、吐き気に襲われ、7%を超えると数分で意識を失い、さらに濃度が上がると、二酸化炭素中毒となり、そうなったら僅か数秒で死に至るとも言われている。

 しかも、二酸化炭素は無色無臭のため、原因もわかりずらい。

 この世界のことは、そのことを古い空気と呼んで警戒していたのだろう。

 そうなると、確かにそんな危ないものを飲み水に入れてみようだなんて思わないよね。


「そのような危ないものを飲んでも平気なのでしょうか?」

「はい。古い空気は微量ならば口にしても問題ありません。我々が吐く空気の中にも古い空気は含まれていますから」


 不安そうな顔をするミントに、僕は丁寧に説明をした。


「セージの言う通りだ、ミント。この魔法で作り出す古い空気の量はごくわずか。直接口の中に入れられても毒にはならん。そもそも、毒になる魔法をあのエイラが子供に使う許可を出すはずがない」


 そう言って、メディス伯爵は息を漏らした。


「これを発表すれば、セージは一躍時の人だ。何故、名前を隠す必要がある?」

「僕はまだ子供です。将来の道を今決めたくありません。お金はいくらあっても苦労しませんが、名誉は持ちすぎると重圧になります」

「つまり、利権に関する金は欲しいが、自分の身分は隠したいというのか……自分勝手なところは父親似だな」


 メディス伯爵がそう言って横を見ると、ロジェ父さんが苦笑いしていた。

 父子揃って迷惑をかけているようだ。


「まぁ、魔法学院にもセージのように、名が拡がれば忙しくなって研究の時間が取れないと言って匿名で研究を発表したがる研究畑の人間は何人もいる。そういう者のために、名を伏せたまま学院が代理で研究成果を発表する制度も存在する」

「だったら――」

「だが、セージは魔法学院の生徒でも教員でもない。たとえ儂の孫であっても特例は認められん」


 メディス伯爵は頑なに言い張った。


「ただし、十になったとき、魔法学院に通うと約束するのであれば、考えてやらんこともない」

「え? 魔法学院に?」

「そうだ。なに、セージの頭なら、入学試験は余裕で合格できるだろう」


 え……まさか学院編突入っ!?

 いやいや、さすがに面倒だ。


「五で神童、七で才子、十歳過ぎれば只の人といいますから――」

「それを言うなら、十で神童、十五で才子、二十歳過ぎれば只の人だろう? 五で神童なら、十でも神童だ」


 くっ、このことわざは日本と同じか。

 僕は修行空間で五年間勉強したから、前世の記憶を除いても頭は十歳なんだよな。


「お爺様、そう仰って、学院に通っている間、セージ様にこの家に住んでもらいたいだけではありませんか?」

「な、それを言うならミントも婚約者に一緒に住んでもらいたいだろう?」

「いえ、私はセージ様に許可をいただけたら、いまからでもスローディッシュ領に身を移す予定ですから」


 そう言って、ミントは恥ずかしそうに僕を見た。

 ミントの中でそこまで話が進んでるの?

 そして、うっとりするような目で、僕がプレゼントした銀貨を見るのは辞めてほしい。それは婚約指輪とかそういうものじゃないから。

 確かに、ミントは可愛い女の子だけど、五歳の女の子相手に恋愛感情を抱くとかまだ無理だよ、本当に。

 僕は冒険者じゃないからね?


「セージ、将来のことは自分で決めればいい」


 ロジェ父さんが僕にそう言ってくれる。

 さすが父さんだ。よし、きっぱりと学院の入学については断ろう。


「魔法学院に通うのは、自分の将来について考えるいい機会だと思うよ」


 まさかの手のひら返しっ!?


「えっと、五年も後のことだし、とりあえず前向きに考えるってことで」

「セージ、ここで約束しないとメディス伯爵は特例を認めてもらえないよ? 魔法学院に行きたくないっていうのはわかったけれど、炭酸水の術式を普通に公表すれば、もっと大変なことになる」

「じゃあ、黙っているっていうのは?」


 ロジェ父さんに尋ねてみたけれど、答えたのはメディス伯爵だった。


「できるわけなかろう。黙っていたことが知られたら、儂とて立場が危うい。それくらい重大な発見だ」

「ですよねー」


 ということで、僕の人生の物語は、魔法学院編が予約されてしまったのだった。

 五年後か……一体、どんな風になっているんだろう?

 まぁ、ラナ姉さんと離れるのはいいかもしれないな。





「ちょうどラナも十二歳になったら騎士学校に通いたいって言っていたし、二人で一緒に通うことができるね」

「えっ!?」

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