第223話 オークとの戦い

 ゴブリンより遥かに強い。

 よくロジェ父さんが倒してくるが、まさかこの森にいるなんて。

 ラナ姉さんも緊張して息を殺している。

 さすがのラナ姉さんもオークと戦うつもりはないらしい。たぶん、黙ってオークが通り過ぎるのを待っているのだろう。

 あとはオークの鼻を誤魔化すことができるかどうかってところだ。

 頼む、このまま通り過ぎてくれよ。

 と思ったら、オークは通り過ぎることなく、その場にしゃがみこんだ。


「いまよっ!」


 ラナ姉さん、剣を抜いてオーク向かって突撃した。


「へ? あぁ、もうっ! 風の刃っ!」


 僕は風の刃をオークの顔に向かって放つ。

 命中した。右目に大きな傷ができるが、致命傷にはなっていない。


「上出来よっ!」


 ラナ姉さんが右側に回った。

 違う! 死角に回るのなら左側――オークからしたら右側に回らないと。

 そう思ったのだが、違ったのだ。

 目を怪我をしたオークは次の瞬間、本当に一瞬だが自分の左手で目の傷口を押さえたのだ。

 当然、片手が塞がった右の脇に大きな隙ができる。

 ラナ姉さんの剣がそこを斬り裂いた

 そういえば聞いたことがある。脳というのは交差していて、右で得た情報が脳に送られるとき、左脳で処理され、その結果左半身の身体が動きやすくなると。右目を怪我したときは左手で保護したくなる――ラナ姉さんはそこまでは知らないにしても、おそらく経験と直感でオークの動きを予想したのだ。


「ははっ、ラナ姉さん、本当に天才過ぎ。そういうところは嫉妬するよっ!」

「どういたしましてっ!」


 脇を斬られてオークが興奮気味に暴れ、背後に回ったラナ姉さんの方を向くが、次の瞬間、ちゃっかり死角側に回り込んでいたコパンダの追撃を食らう。

 連携もしっかり取れている。

 そして最後は――最初に一撃入れたのにラナ姉さんとコパンダのせいで無視されつつあった僕の風の刃がオークの脛をかすめて転倒させ、倒れたところでラナ姉さんがその首に剣を突き刺した。

 返り血をもろに浴びるラナ姉さん。

 これ、絶対にエイラ母さんにバレて、怒られて森への出入りが禁止になる奴だよ。

 僕は別にいいけど、ラナ姉さん、怒られるだろうな。


「セージ!」

「はいはい。オークをマジックポーチに収納? それとも魔法で作った水で顔を洗い流す?」

「先に、土操作だっけ? その魔法で、ここにキノコが埋まってないか確かめて」

「ここって……あ、ラナ姉さん、もしかして――」


 僕はラナ姉さんが言おうとしたことに気付いた。

 魔法を使うと、確かにそこには丸い何かが埋まっていた。

 トリュフだった。


「やったわね!」

「ラナ姉さん、もしかして、オークが来た時、隠れて様子を伺ってたのって、通り過ぎるのを待つわけでもなければ、襲う隙を探っていたわけでもなく――」

「そうよ。オークがトリュフを見つけるのを横取りするために待ってたのよ! セージ言ったでしょ、豚はトリュフが好きだって。だからうまくいくと思ったのよね」


 なんてあっけらかんとした口調で、自分がオークに負けるなんて微塵も思わない風にラナ姉さんは言ったのだ。

 いや、確かに危なげない勝利だったけれど、少しはこっちの身にもなってほしいよ。


 家に帰った後、ラナ姉さんへのお咎めは微々たるものだった。

 ロジェ父さんから見ても、ラナ姉さんの強さはオークを上回っていて、怪我をすることはないと思っていたらしい。

 ただ、まだオークと戦う許可は出していなかったので、無罪というわけにもいかず、暫くは小遣い減額及び、オーク討伐報酬は無しとなった。

 そして、僕への報酬はトリュフ料理だ。

 ラナ姉さんは僕に何が変わった料理をするのではないかと期待していたようだが、トリュフの料理はしたことがないので、ティオに任せた。

 ティオが作った料理はオムレツだった。

 なるほど、トリュフのオムレツ、聞いたことがある。

 口の中に入れた瞬間に香りが一気に広がった。

 湧き水のような香り? 森の中にいるような、そんな感じがした。食感は、生のジャガイモみたいな感じだ。シャキシャキしていて、味はマッシュルームやシイタケ、それこそ松茸に近いと思う。

 ただ、この香り、慣れてないと美味しいとは思わないな。

 ロジェ父さんとエイラ母さんは満足そうだし、ラナ姉さんも自分で採取したため嬉しそうにしているため、水を差すわけにはいかないが。

 次は豚肉――というかオーク肉料理だ。

 これには直接トリュフの姿は見えないが、おそらくソースに使っているのだろう。

 ソースにしているから他の調味料と一緒になっているのに、さっきより香りが強いな。これも好みが分かれるかもしれないが、僕はこっちは好きな味だ。

 ティオの腕もいいのだろう。


「どう、セージ! 美味しいでしょ!」

「うん。美味しいよ。さすがラナ姉さんが見つけたトリュフだ。他のトリュフの味とは一味違うと思うよ」

「そうでしょ! って、セージトリュフ食べるの初めてじゃなかった?」

「想像していた味より美味しいってこと」


 僕は愛想笑いを浮かべてそう言った。

 松茸について、ロジェ父さんとエイラ母さんに尋ねたところ、二人もあまり好きなキノコではないらしい。

 このトリュフをありがたがる三人が松茸を好まないなんて不思議だな。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

一つ報告がございます。

この度、たしスロがノベルピア様で行われていた

【第一回ノベルピアWEB小説大賞】で銀賞を受賞しました。

これも皆様のお陰です。

カクヨムでの連載が今後どうなるかは不明ですが、カクヨムの読者様の支えがあってこれまでやって来られたと思っておりますので、可能な限り良い方向に収まるようノベルピア運営様と話し合っていけたらと思っております。

今後ともよろしくお願いいたします。

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