第79話 エルフたち
修行空間の畑の横で三人が跪いて土下座している。
僕に対して――
「ゼロ、これどういうこと?」
「三階層でビッグトードを射たのは彼女たちでした。フォースが見つけ、保護。ここに連れてきました。詳しくは彼女にお聞きください」
とゼロはエルフの一人に顔を上げて説明をするように促す。
エルフの一人が顔を上げた。見た目は二十歳に少し届かないくらいだけど、エイラ母さんからエルフの見た目と年齢の違いについて教わったばかりなので、実年齢は不詳。
「はじめまして造物主様。私は――」
「ちょっと待って――造物主って僕のことですかっ!?」
「はい、その通りです。神がこの世界を創るとき、この世界の礎を構築なさった神にも等しいお方だと、我らが主であるファースト様より伺っていました」
合ってるけど絶対に違う!
僕はただ、ゲームの話をしただけだ。
確かに、エルフについてはいろいろと話をした気がする。
なるほど、エイラ母さんから聞いたエルフの情報が僕の知っているエルフとほとんど一緒だったのもそのためだろう。
でも、造物主と言われる存在ではない。
「僕はそんなに偉い人ではありませんから。普通に――」
「ですが、始源の天使様に敬われている方に対して普通に接するというのは――」
始源の天使?
僕はゼロの方を見ると、彼は静かに頷いた。
なんか凄い二つ名持ってるんだ。
「じゃあ、いまのところはゼロと同じように様付けでいいです――いいから」
ゼロに対して偉そうな態度を取っているのに、彼女に対して丁寧に接するのはマズイのね。
うん、わかった。
「それで、話を続けて――」
「私はリアーナと申します。先ほど申しましたようにファースト様の側仕えをしています」
「ファーストって会ったことがないけど十階層の天使だったっけ?」
僕はゼロに尋ねる。
「はい。主に亜人の管理をしているのが彼ですね。管理といっても、世界の理に反した亜人に対して処罰を行うくらいなもので、ここ数千年は大きな仕事をしていませんが」
「数千年前になにかあったのか?」
「亜人たちが、次元を超える魔術の研究をし、成功させたそうです」
「次元を超えるっ!? 地球に行くとかそういうのができるってこと!?」
「いえ、地球は上位の次空のため行くことができません。せいぜい、何もない亜空間に移動する程度でした」
なんだ、少し残念。
「それって問題なのか?」
「研究を進めれば、
ここ――つまり修行空間に来ていたかもしれないってことか。
「それで、どうなったんだ?」
「全員消滅させました。元々、ファーストよりその者たちに啓示をし、研究の中止を促していたのですが、それを無視した結果です。同情する必要はありません」
「…………」
同情する必要はないと言われても、僕自身も神の不条理に巻き込まれて人生の終焉を迎えた経験のある身だ。
いろいろと考えてしまう。
僕は神により第二の人生を始めることができたが、その人たちは――
「そして、その魂は転生し、ファーストの世話係になりました。つまり、彼女たちです」
「申し訳ありませんでした。転生した後、ファースト様より世界の成り立ち、造ぶ――セージ様のこと、さらに我々の研究がセージ様の領域を侵す愚行であることを知りました」
「うん、謝罪は受け入れるけれど、なんで三階層にいたの? ファーストの側仕えなら十階層にいるんじゃないの?」
「はい。以前にフォース様が訪れたとき、ファースト様がカニを食べたいと申されました。ですが、フォース様はちょうどその時、仕事があるからあまり時間を取れなかったそうなのです。そこで、フォース様に私たちを三階層に派遣していただき、私たちがカニを確保した後、ファースト様に魔法で召喚していただく手筈になっておりました。それが八百年前のことです」
「待ってっ!? 八百年っ!? エルフの寿命って五百年くらいじゃなかった?」
「私たちはハイエルフですから、寿命という概念はありません」
ハイエルフって、そんな種族……うん、いるのは知ってる。
ファンタジー小説だと定番だし、やっぱり神に話したのは僕だ。
造物主と言われてもおかしくないことをしていた。
「で、なんで召喚されなかったの? トラブルでも?」
「忘れていたそうです。八百年間ずっと」
リアーナが泣きそうな声で言った。
それは酷い。
「本来、我々エルフ族は植物しか食べないのですが、三階層には植物が少なく、種族の嗜好を無視してカエル肉で飢えをしのぎ、いつファースト様に召喚されてもいいようにカニ肉を確保しながらも、腐れば交換する毎日。ビッグトードの発情期には十頭の雄に囲まれながらも池に潜ってジャイアントクラブを捕まえ、そんなに苦労して見つけたジャイアントクラブも腐っていくのを見ているしかない毎日」
リアーナの横で二人のハイエルフが肩を震わせている。
泣いているんだろう。
もはや地獄の苦行だ。
神のことを酷い存在だと心の片隅で密かに誰にも気付かれないように思っていた僕だけれども、神が少しマシに思えた。
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