第67話 スカイスライム大会(その3)
「セージ! こっちだこっち!」
「セージさん、こんにちは」
「ハント、カリン、こんにちは」
ハントが手を振り、カリンが挨拶をする。
人が多くてなかなか見つからないと思ったんだけど、結構あっさり見つかった。
ハントの右手には307番の木札が付けられていた。
「ごめん、僕を捜してたんだって?」
「捜してたって言うか、話をしたくてな!」
「セージさん、さっきの言葉すごかったです。大人の人みたいでした」
「挨拶って、こんにちはってやつか? そのくらい俺でもできるぞ?」
ハントが言うと、カリンが呆れるような目を彼に向けた。
きっと、こいつもラナ姉さんと一緒で僕の挨拶なんて聞いてすらいなかったのだろう。
「ハント、他人の話を聞きなさいって親に注意されないか?」
「おう、よく言われるぞ! ちゃんと聞いてるのにな」
「お前の母さんの苦労が目に浮かぶよ」
僕はそう言ってため息をついた。
カリンの苦労は現在も目に見えているから、わざわざ浮かべる必要もないか。
「なぁ、今回の大会、貴族様も見に来るんだろ? どんな人だった?」
「僕も貴族なんだけど」
確か、父さんから聞いた話だと、マッシュ子爵とウルノ男爵って人が来るって言っていた気がする。
「……あれ? そういえば見てないね。ロジェ父さんが相手をしているのかな? でも、なんでハントがそんなこと気にするの?」
「だって、貴族っていえば高い絵とかいっぱい見てるだろ? そんな奴がライバルになったら勝てないんじゃないかって思ってな」
「別に一流の名画を見たからって一流の絵師になれるわけじゃないよ。そりゃ、知らないより知っている方がいいのは確かだけど、大丈夫。カリンが描いた絵は十分通用するから」
「そうだよな! それに、セージが審査員するんだろ? だったら――」
「それはダメ」
「なんだよ、まだ何も言ってないだろ!」
「言わなくてもわかるよ。贔屓はしないからな」
芸術なんて、一番審査基準が曖昧な項目だ。
それなのに審査員が贔屓するわけにはいかない。
むしろ、厳しめにしたほうがいいと思っているくらいだ。
「お兄ちゃん、セージさんの言う通りだよ。それに、貴族様相手に不正をしたなんてバレたら切り捨て御免だよ」
僕が変な言葉を教えてしまったばかりに、カリンの貴族への不安が増している気がする。
まぁ、僕への距離はだいぶ近付いていると思う。
カリンは五歳で同い年らしいのだが、本当にしっかりしている女の子だ。きっと、一つ年上のハントのせいでいろいろと苦労を掛けられた結果なのだろう。
「まぁいいや。セージ、飯食ったのか?」
「切り替え早いな。いまから食べるところだけど」
「じゃあ、こっちこいよ! 珍しくてウマい飯紹介してやるよ!」
「美味しい食事はうれしいけど、ポテトチップスは嫌だよ?」
「違うって。ほら、こっちだ」
僕はハントについていった。
村の食堂といえば、タイタンの店しかないのだが、奉納祭や収穫祭といった祭りのときには料理に覚えのある村人たちもそれぞれ料理を作る。
今回はそれを屋台として提供している。
屋台といっても、家の中にあるテーブルを持ってきて、できた料理を並べているだけだったりするが。
中には奇をてらったであろうゲテモノ料理なども並んでいて、そして物好きな奴がそれを買っている。
さて、タイタンはどんな料理を僕に出してくれるんだろうか?
僕に悪戯を仕掛けるためにゲテモノ料理を提供するか、それとも純粋に美味しい物を提供してくれるか。
「あそこだ! 母ちゃーんっ!」
そう言って、ハントは料理を出しているおばさんのところに向かった。
なるほど、やるな。
あいつ、店を紹介すると言いながら、自分の母親がやってる屋台に誘導したのか。
実は商売上手だったんだな。
まぁ、僕としては本当に美味しい料理なら問題ない。
と思ってたら、ハントが戻ってきた。
手には三つの野菜に肉が乗った料理を持って帰って来る。
「ほら、これセージの分だ」
「ありがとう。いくら?」
「ん? なにいってるんだ? 金なんていらないよ。友達に食わしてやりたいって言ったらくれたんだ」
え?
おばさんの方を見ると、笑顔で頭を下げた。
客引きされたと思った自分が少し情けない。
「ありがとう」
「熱いうちに喰えって」
「うん」
見たところ、レタスに似た野菜に焼いた肉を挟んでいるだけのようだ。
食べてみる。
「ん? 塩味が効いてうまいな!」
「だろ! これ、塩の野菜なんだぜ!」
「塩の野菜?」
「草原の向こうにある昔使われていた岩塩の採掘所の近くに生えている野菜なんです。塩の多い場所にしか自生できないので、村では育てられないって言っていました」
「朝一番に収穫すると、こんな風に塩味が効いたうまい野菜になるんだ。俺が採ってきたんだぜ? 時間が経ちすぎると野菜が塩を吸ってシャキシャキがなくなるんだけどな」
草原の向こうの元岩塩の採掘所って、ここから十キロ以上離れていたような気がする。
いくら草原に危険な魔物が少ないからって、六歳の子供が往復で採りに行くとは。
恐るべし、異世界の風習。
いや、日本にいた頃に見た海外のドキュメンタリー映像とかでも数十キロ離れた学校に通う子供とかいたし、異世界関係ないか。
塩の効いた野菜のおかげで、肉は素焼きするだけでも十分美味しかった。
ちなみに、肉はウサギの肉らしい。
数週間前に生け捕りにして、今日の準備をしていたらしい。
僕だったら愛着が湧いて殺せないことになりそうだが、そのあたりはシビアのようだ。
おばさんの肉の塩野菜巻きは、僕たちが食べている間も何人もの客が買い求めていた。
本当に人気のようだ。
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