第54話 実験・巨大スライムの作り方
村の外で捕まえたバケツにスライムを入れて運ぶ。
レベル5になったので、一度に数匹のスライムを運ぶのもそれほど苦じゃなくなってきた。
魔物を村に入れるのは禁止だが、生きているスライムは話が別だ。
そもそも、捕まえたスライムを生きたまま王都に連れて行って売っているのは村の大切な産業の一つだ。
なので、村人がスライムを運んでいる僕たちを見ても、ロジェ父さんに頼まれて仕事をしていると勘違いしているのか、応援されるくらいだった。
「セージ、何匹のスライムを運ぶのよ」
「とりあえず、十匹でいいかな?」
巨大スライムの定義は、二匹以上のスライムが合わさったものをいう。
まぁ、二匹合わさっただけでは巨大というほど大きいものではないが、とりあえず、合体する条件さえわかればいいと思っている。
二往復することで、目標のスライムは集まった。
五つのバケツに二匹ずつ、合計十匹のスライムがいる。
「それで、どうするの?」
「んー、とりあえず、こいつには餌を一杯食べさせてみる」
庭に生えている草を抜き、覆いかぶさるくらい草を入れる。
残りは――
「熱してみようかな? ラナ姉さん、焚き火用意して」
「なんで私が?」
「だって、僕が火を使うなんて危ないし、それに――花瓶の約束も――」
「わかったわよっ!」
いやぁ、ラナ姉さんが僕の頼みを聞いてくれるのは気持ちいいな。
今回だけなのが残念だが、でも明日以降もやってしまうと、そのうち僕が口封じされるかもしれない。
できるだけ表情に出さずに楽しむとしよう。
「あとは水とお湯にしようかな?」
ラナ姉さんに頼んでお湯と井戸水を用意してもらった。
あと一組はそのままにする。
さて、どんな変化があるか?
そして、暫く待つ。
最初に変化があったのは、お湯をかけたスライムたちだった。
「……ねぇ、セージ、このスライムが死ぬんじゃない?」
「熱湯はダメか」
熱湯をかけられたスライムが暴れていた。
井戸の水は全部使ったので、水魔法で水を注いでぬるま湯状態にする。
一応生きているみたいだけど、かなり弱っている。
ここまで弱ったら合体しないだろうな。
一番期待しているのは、餌を上げたスライムだ。
しかし――
「ねぇ、セージ。このスライムだけど」
「……うん」
「寝てるわよ」
僕も気付いていた。
草をかけられたスライムは、草を布団代わりにして寝ていた。
バケツに入れられたばかりのときは、必死に僕たちを襲おうとバケツの中で動いていたが、草をかけられて、視界がほどよく遮られたのだろうか?
動物のように目もないし、アニメや漫画のように鼻提灯を出したりいびきをかいたりZマークを浮かべたりはしないけど、これは寝ている。
表情もないけど、幸せそうに。
きっと、起きたら頭の上の草を食べるのだろう。
水を掛けたスライムも別に変わりはない。
スライムは水があまり好きじゃないっていうけど、上からかけられても変化なんて起きない。
そうだよね、水を掛けたら合体するなんてことになったら、雨の日の翌日に巨大スライムが大量発生するってことになるんだけど、そんな話は聞いたことがない。
火の傍にいるスライムも変化はない。
んー、やっぱり条件を探すのって難しいなぁ。
そもそも、そんな簡単にわかるくらいなら、誰かが見つけてるか。
「あれ? これ合体してない?」
「え?」
ラナ姉さんが一つのバケツを指差すと、そこに
熱湯をかけた後、水を掛けたスライムだ。
「熱湯をかけるのが条件?」
「いや、あのままだと死んでたよ」
「じゃあ、熱湯をかけてから水を掛けるとか?」
「そうなのかも」
「ちょっとお湯を用意するわ!」
ラナ姉さんがお湯を汲んできて、何もしていないスライムに熱湯をかけた後、ちょっと時間をおいて井戸水を入れる。
そして、暫く待つも、変化がない。
条件が違うのか?
そうだ、そもそも一階層に熱湯はない。ぬるま湯も存在しない。
あるのは川と草だけ――いや、待て、あるじゃないか。
ダンジョンの出口の魔法陣が。
「もしかして――魔力で合体してる?」
僕が冷やすために使ったのは魔法の水だ。
その魔力に反応して合体しているのかもしれない。
試しに、いま冷やしたばかりのスライムに、水魔法を使ってみる。
すると、暫くしてスライムが合体した。
「やっぱり! 魔力の水で合体するんだ! 野生の巨大スライムも、たまたま魔力が多く含まれている草とかを食べて合体したのかもしれない」
と僕は他のスライムに水魔法を使ってみる。
が、合体しない。
なんで?
「うまくいくと思ったのに」
「熱湯が必要なんじゃない?」
「なんで?」
「熱湯を浴びて弱ったから、合体して体力を回復したいんじゃないの? だから、合体の条件は弱ってることと魔力とか?」
「あ、そういうことか。ラナ姉さんでも気付いたことに気付かないなんて――」
でも、それなら魔法陣のところに巨大スライムが多いことも納得できる。
あそこはどうやらスライムにとって過ごしやすい場所らしい。当然、そんな場所なら縄張り争いもあり、スライム同士で傷つけあうこともあるだろう。
そうなったら、魔力と傷、両方の条件が揃い合体もできる。
それを試すために、他のスライムの核を潰さないようにナイフで傷つけた後、スライムは合体した。
「でも、なんでこんなこと今まで誰も気付かなかったの?」
「スライムの研究をしている人がほとんどいないんじゃない? ほら、ピンク色のスライムについても知ってる人がほとんどいなかったし、初期の水魔法って言っても、使える人はそんなに多くないし、そもそもスライムは草を食べれば水を飲む必要もないから、魔法の水を上げようなんて誰も思わないだろうし」
とにかく大発見だ。
その後、僕たちは八匹のスライムを合体させ、大きくなったスライムをラナ姉さんに倒してもらった。
大きな穴が二つも空いたので袋にすることはできないが、レインコートにするだけの生地は取れる。
「よし、これを乾燥させれば巨大なスライム布が手に入る!」
「やったわね!」
「嬉しそうね、セージ、ラナ」
僕とラナ姉さんが喜んでいると、エイラ母さんが来てそう言った。
「うん、聞いて、エイラ母さん。巨大スライムの――」
「その前に私の話を聞いてくれるかしら? 息子と娘に、今日中に服の仕分けをしておきなさいって言ったのに、二人揃って服を放ったらかして、遊びに行ってるんだけど、私はどうやって説教すればいいと思う?」
あ……巨大スライム作りに夢中で忘れていた。
空を見ると、すっかり太陽が傾き、もう夕食の時間だ。
「ねぇ、セージ、ラナ。教えてくれるかしら?」
笑顔のエイラ母さんに、どうやって言い訳しようかと考えを巡らせるが、即座に許してもらうのは巨大スライムを作るよりも難しそうだ。
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