第42話 魔王と約束
魔王は退治しても、この世界に人の闇がある限り、第二、第三の魔王が現れる。
この世界でも魔王は退治されてから百年から三百年で現れるらしい。
でも、この世界だと魔王はフォースだけなんだよな?
「フォースって、殺されても三百年したら生き返るのか?」
「いやいや、俺もさすがに殺されたら死ぬぞ? だが、どれだけレベルを上げようと、普通の人間に俺を殺すことはできないんだ。ただ一人、この世界に魔王がいるとき現れる勇者という人間は、魔王を退治する力がある。退治といっても、封印って感じで、その期間が最長で三百年って話なんだ。俺はこれまで二回、勇者によって封印されてるな」
「そんな話聞いたことないぞ?」
「一回目は、三千年以上前の、世界に文字ができるより前の時代だから記録がしっかり残ってないんだろ。探せば、どこかの洞窟に壁画くらいはあるかもしれないがな。二回目は、八百年くらい前だが、セージ様の国にある教会と敵対している組織が主体となって勇者を支援していたからな。俺が封印された後、勇者もその異教の信者もろとも抹消されたから、歴史に残してないんだと思うぞ。百年間魔物が人を襲わなくなったほうのは、神の奇跡として歴史に残ってるはずだ」
確かに、聖典で読んだことがある。
神が舞い降り、魔物が人を襲わなくなったときがあると。
多くの信者の祈りが奇跡を起こしたと書いてあったが、勇者の手柄を教会が横取りしてたのか。
勇者、魔王を封印する力はあっても無敵ってわけじゃないのか。
その殺された勇者、悲惨過ぎるだろ。
「歴史を闇に葬ったせいで、勇者のことも魔王城のこともほとんど伝わってないからな。その後、勇者が魔王退治に来ることはなくなり、俺は結構暇なんだよ」
フォースは俺の目を見て、歯を見せて明るい顔で「だから――」と続ける。
「年々勇者の力も弱くなってるかな。セージ様には勇者と一緒に冒険をして、いつの日か俺を退治してほしい。魔王ってのは、退治されてこそ存在価値があるんだ」
「いやいや、なんでそうなるんだよ? 僕はレベルを上げるのに十倍苦労するんだよ? 普通に強くなるだけでも大変なのに、勇者と一緒にフォースを倒すなんてできるわけないだろ? 僕の予想だと、魔王軍にも四天王とかいたりするんだろ?」
「そりゃいるさ。最弱担当の四天王もいるぞ」
最弱担当ってかわいそうだろ。
せめて、戦いでは弱いけど頭脳担当の軍師キャラとかにしてやれ。
まぁ、最弱でも僕よりは強いんだろうけれど。
「とにかく、僕は弱いんだから――」
「だから、俺が強くしてやるって言ってるだろ?」
とフォースは水竜を見た。
そうか、だから僕に強くなれって言っているのか。
自分を倒させるために――いや、正確には封印させるために。
「話は終わりだ。別に直ぐに俺を退治に来て欲しいってわけじゃない。セージ様が大人になって、勇者が困っていることがあったら、セージ様の力で協力してやってほしいって話だ。悪い話じゃないだろ?」
「事情はわかった……魔王が勇者に力を貸してほしいって頼むのも変な話だが。でも、前回、勇者は魔王を倒したあと殺されてるんだろ? 僕も同じ目に遭うんじゃ――」
「そこは、うまくやればいいだろ? 前回殺された理由は、最大宗教とされている教会と敵対している宗派だったからだ。なら、今回は教会に協力して魔王退治をすればいい。魔王をなんとかして、奇跡を体現したいと思ってるだろうからな。なにしろ、魔物が人を襲わなくなるのは教会の奇跡なんだから」
いろいろと面倒には違いないが、確かに勇者が教会に協力する姿勢を見せるのなら、殺したりはしないだろう。勇者が魔王を退治した功績を利用して教会の上層部の立場を危ぶませない限りは。
「セージ様が勇者を見定めて、助けるに値しないと思ったなら、もしくは助けなくてもなんとかなると思ったなら、別に何もしなくてもいいんだぜ? ここでセージ様を助ける理由は、セージ様への恩返しの意味合いの方が多いんだからよ?」
フォースがまたも僕に都合のいいことを言う。
勇者や自分を退治してほしいという話はついでで、あくまでこれは僕への恩返し。
だから、僕は今回の水竜退治に対して、なんの責任や義務を負うわけではない。
彼はそう言っているのだ。
「フォース、その剣――」
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
零階層に戻るなり、僕の横にいたフォースが殴られてぶっ飛ばされた。
もちろん、やったのはゼロだ。
盛大に吹っ飛ばされたフォースにはもう見向きもせず、ゼロは僕の前に跪く。
「セージ様、ご無事でしたかっ! 彼に何かされませんでしたか!?」
「大丈夫だよ、ゼロ。アウラは?」
「石化の解除は終了しました。いまは眠っていますが、あと一時間もすれば目を覚ますでしょう」
「そう、よかった」
「本当に申し訳ございません。私が至らぬばかりに」
「いやいや、ゼロとフォースの実力は同じように作られたんでしょ? だったら不意をつかれることもあるよ。それに、フォースは本当に僕のことを悪いようにはしないつもりだったみたいだし」
僕がそう言うと、殴られてぶん殴られたフォースは何事もなかったかのように笑顔で手を振っている。
ゼロが睨みつけて何かを言おうとするが――
「ゼロ、やめて。こっちに戻ったとき、ゼロがフォースを殴りつけたら、素直に殴られるように頼んだのは僕なんだ。フォースはそれに応じてくれた。アウラには今度、別の機会に謝罪してもらうけど、二人の間の諍いは今回の分は終わりにしてほしい」
「そうですか。セージ様がそうおっしゃるのでしたら、私はもう何も申しません」
ゼロは僕の言葉に、素直に引き下がる。
「じゃあ、セージ様。俺はもう帰る。また遊びに行くから、その時はよろしくな」
「待って、フォース。一つ聞き忘れたが、勇者ってのはどこにいるんだ?」
「勇者は右手に痣ができるから、それを目印にしてくれ。俺も勇者が誰かはわからない」
右手に痣――聖痕ってやつか。
でも、それだけを目印に見つけるのは、ほぼ無理ゲーだと思う。
まぁ、無理に勇者を捜すつもりはないし、別にいいか。
フォースは手を振り、転移魔法を使って姿を消した。
「それで、セージ様。フォースには何をされたのですか?」
「あぁ、39階層で魔物のパワーレベリングの提案をされたんだけど、断ったんだ」
「それは、成長チートのように、ズルが嫌いだからですか?」
「それも理由の一つだけど、パワーレベリングが悪いってことは無いと思うんだ。母さんに魔法を教わって、アウラに狩りを手伝ってもらって、これもどっちも僕だけの力じゃないからね。さすがにフォースのはやりすぎだけど」
「だったら、何故?」
「フォースに約束したからだよ」
あの時、僕はフォースに断った。
『フォース、その剣――いらないよ。39階層の敵を先に倒しちゃったら、39階層に来たときの達成感が無くなっちゃうじゃん』
『達成感って――』
『だから、フォースは僕が39階層に来るまで我慢してよ。その代わり、絶対にフォースが納得する力は付けてみせるから。こっちの時間で何百年かけてでもね!』
『何百年って――セージ様が一人で頑張ったら、それだけじゃ足りない』
『じゃあ、何千年でもいいや。だって、魔王を退治するのに魔王の力を借りるのってやっぱりおかしいだろ?』
『俺に何千年も待てって言うのか?』
『ゼロは僕が来るまで永遠に近い時間待ってくれたんだよ? それなのに、ゼロと同じ力を持つフォースが、たった数千年待つこともできないの?』
『……ちっ、セージ様。それは反則だ……あぁ、反則だ。確かに、俺を退治するのに俺が力を貸すなんて、変な話だな。悪かった、忘れてくれ。ただし、セージ様、約束通り強くなるまで、絶対死ぬんじゃないぞ。あと、約束も忘れるな。たまに様子を見に行くからな』
『うん、約束は忘れない。絶対に』
本当に何千年かかるかわからないけれど、フォースを倒すとかはどうでもいいけど、いつか彼が目指した強さまで辿り着いてみせる。
僕はそう心に誓った。
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