第233話 それぞれの戦況※別視点
▼ ▽ ~モリヤク男爵視点~ ▽ ▼
いよいよだ。
いよいよ、あの忌々しいエルフ共を根絶やしにするときが来た。
この栄えある日を素晴らしいものにするため、儂は天幕に持ち込んだ鏡で身支度を整える。
うむ、この貴族としてふさわしい貫禄のある腹はいつ見ても素晴らしい。
儂は太りにくい体質らしく、この身体になるにはかなり苦労した。
もともと食が細かったがそれでも食事の量を増やし、運動を極力減らし、隣の部屋に行くにも部下共に担がせて移動した。その苦労もあり、三十にしてようやくここまで成長した。
貴族たるもの、身体はふくよかでないといけない。
かつて、儂の父はこう言った。
ガリガリにやせ細っていては、貧しい平民と同じだ。貴族は馬に乗れなくなるほどに肉をつけてこそ本物だと。その肉はいつか世界を導くエネルギーになると。まぁ、私の父はそのエネルギーを使い切る前に、齢五十を迎えずに他界してしまったが、あれこそ立派な貴族だったと思っている。
父の、いや、先祖代々の本懐であったエルフの根絶やしを、儂の代で成し遂げる。
きっと、父も草葉の陰で見守っていることだろう。
「ぶふふ、森に火を放った頃合いだろうか? それともエルフ共が先手を打って攻撃を仕掛けた頃だろうか?」
どちらでもいい。
エルフが森と共に焼け死んでくれたら喜ばしいが、エルフが攻撃してもいい。エルフに対する憎悪が高まれば、エルフを滅ぼすべしという論調が広まるからだ。
「伝令っ! 急ぎ伝令がございます!」
伝令の兵が駆け込んで来た。
「ぶふっ! 来たか。報告せよ。森は燃えたのか?」
「それが…………全員眠っています」
「は?」
「森を焼くための人員全員が、魔法か薬かは不明ですが、眠らされています」
「なんだとっ!」
まさか、エルフ共がそのような手を打って来るとは。
「ぶふっ、それは大変だ。森の中で眠らされたら森に住む魔物どもに食い荒らされてしまうではないか。エルフ共め、自分たちの手を汚すのが嫌で魔物に襲わせようというのか、なんと下劣な!」
いまさらシナリオは変えられん。
そうだ、土砂災害を引き起こした魔術師とその護衛共が言っていたではないか。
森の外側にも恐ろしい魔物は多いから大変だったと。
そんなところで眠らされたままにしていたら誰かが魔物に食い殺されるだろう。
眠っている兵たちを回収しないように命じれば――
「それが、周辺の魔物は全て殺されていました」
「なんだとっ!?」
「まるでエルフたちが守っているようで……男爵、本当にエルフは我々の敵なのでしょ――がはっ!」
儂は剣を抜いて伝令の肩を切っていた。
何馬鹿なことを言っている。
エルフは敵に決まっている。
人類こそがこの世界を統べる存在、それ以外の知恵あるものはこの世界に必要ないのだ。
それを理解していないバカは全員敵だ。
「伝令! 急ぎ男爵に――ひっ」
新たな伝令が飛び込んで来たが、肩を怪我しているこの伝令を見て声が裏返っていた。
「なんだ、今度は!」
「男爵様! 領都が謎のゴーレムの一団によって占領されました! 急ぎご帰還を! このままでは領都が! 領都が滅茶苦茶になってしまいます」
「なんだとっ!」
▼ ▽ ~ギスタン視点~ ▽ ▼
「おうおう、さすが儂の作った魔道具人形だ」
グルトンが丘の上から双眼鏡を使い、村の様子を見て自慢げに言う。
いちおう、領主町を名乗っているらしいが、俺の目から見たらあれは村だ。いや、村と呼ぶのもおこがましい。
中心にある領主の屋敷とその周辺の建物だけは立派だが、それに金を使い過ぎて周辺の家とのバランスが悪い。
強いて名前を付けるとすれば、愚か者の居城といったところか。
そこに、グルトンの作った魔道具人形――その数数百体が攻めていた。
さらに、別の数百体を現在、グルトンが調整している。
反撃を食らうかと思っていたが、どうやら大森林に人員の大半を割いているらしく、あっという間にあの一帯を占拠してしまった。
「さて、これからが本番だぞ、グルトン」
「ああ、あの場所はセージ様の父君が治める地になるからな。破壊するわけにはいかんじゃろ? なに、必要な素材は全て運んできておる。できるだけ派手に作り替えるぞ!」
「町に住む人を傷つけるんじゃないぞ!」
「わかっている。そんなヘマはせんわい! それにしても、セージ様はよくもまぁ、こんなとんでもない案を考えたものだ」
セージ様は予めこうなることを予想し、森の近くにリディアの嬢ちゃんの転移先を設定するための魔石を設置してきていた。
そのため、まずはセージ様とリディアの嬢ちゃんが修行空間からこちらの世界に来て転移。そこでリアーナの嬢ちゃんとリーゼロッテの嬢ちゃんを修行空間から連れ出し、今度はこの場所に転移をさせた。
なんでも、自分の領地に戻る前に遠くから領主町を見ておきたいと部下を説得してここまでやってきたらしい。
おかげで、ほとんど時間のロスもなく俺たちも配置することができ、千体の魔道具人形による行軍を実現可能とした。
「恐ろしいことだ。この力があれば、セージ様は天下を取ることも不可能ではないな」
「ああ。自分は何もしていないって言っておったが、部下を使ってことを成すのが天下人じゃろう」
「セージ様が天下を取る世、少し見てみたい気がするな」
俺の意見にグルトンとゲルンも頷く。
まぁ、セージ様はきっと嫌がるだろうな。
少し話してわかったが、あの人は天下を取るくらいなら美味しい料理を作っていた方がいいと思うお方だ。
俺たちも天下を取るよりうまい酒の方がありがたい。
「派手に動かせよ、グルトン。あの男爵とやらをここに戻らせるのはもちろんだが、リディア嬢ちゃんに意識を向けさせないための陽動でもあるんだからな」
「わかっておる! 人を傷つけずに派手に町を綺麗に作り替える! はは、こんな無理難題、燃えるわ! お前らもぼさっとしてんと手伝え」
グルトンはそう言って俺とゲルンに指示を出すと、調整を終えた魔道具人形を現場に向かわせた。
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