第21話 天使の在り処
「それなら、ステータス偽造を取得すればいいでしょうね」
「ステータス偽造――あぁ、異世界系の小説だと定番だったっけか? あんまり詳しくないんだけど」
高校に通っていたとき、そういう小説が大好きな友達に何冊か読まされた。
でも、その友達が僕に勧めてくれた本は、ご都合主義のオンパレード、最初から最強、成長チートマシマシの簡単に言えば僕の嫌いな設定を福袋にいれて激安販売している小説ばかりで、正直好きじゃなかった。
……僕の今の状況――成長チートはないけれど、万能執事天使がなんでも言うことを聞いてくれて、美少女モンスター娘が僕に対して好意を寄せてくれている状況も、小説にしてみたら、「何、贅沢な環境を堪能してるんだよ!」って言われるんだろうな。
実際のところ、修行空間で同じ作業の繰り返しは、チャップリンの作業員並みに精神に支障をきたす苦行である。
それに、アウラがかわいいことは認めるが、姉さんの暴走に付き合わされる受難を考えると、プラスマイナスゼロどころか、マイナスの方が大きい。
話を戻すが、ステータス偽造については理解している。
小説の中だと、鑑定スキルというものを持っている人がいて、その人に自分のステータスを見られたときに異常だと気付かれないために、嘘のステータスを作る。
それで、鑑定スキルを持っている奴が、
「なんだ、あの雑魚――少し痛い目を見せてやる」
とかバカなことを考えて、主人公に戦いを挑んだ結果、
「なんだ、こいつ!? ステータスと全然違うじゃないか!?」
とかいってボコボコにされる。
この話を見て、僕は常々疑問に思っていた。
なんで、主人公は平凡なステータスに偽造したのか?
悪目立ちを避けたいという気持ちは僕もわかるが、ただでさえこういう物語の主人公は外見が弱そうに見えるんだから、ステータスを偽造するにしても、せめて他の人より頭一つ分くらい抜き出たステータスに偽造しておけば、他人からいちゃもんをつけられたりしないのに。
まぁ、物語だから、読者もそういう展開を期待しているんだろうけれど、現実の話だと、見た目が弱そうにもかかわらず実はボクシングのアマチュアチャンピオンの少年が、わざわざ弱そうな変装をして不良たちを睨みつけ、襲って来るのを待つ誘いだよね?
そして、喧嘩を吹っ掛けられたからって、なんで喧嘩を買うの?
いやいや、わかるよ?
ラノベを読んでいる人の大半は、基本は不良が嫌いで、そんな奴をボコボコにするの気持ちいいよね?
でも、それって正当防衛じゃなく、過剰防衛ですらなく、ただの傷害罪だから。
喧嘩両成敗とはいうけれど、圧倒的強者が痛めつけるのはもはや喧嘩ですらないから。
ただ、そういう認識を持っているからこそ、僕はステータス偽造に興味を持った。
圧倒的なステータスを見せつければ厄介な仕事を押し付けられる危険はあるが、他人より強いステータスを見せることで、振りかかる災害から身を護ることもできる。
それになにより、ゼロが言うように修行空間のことを秘密にするには必要だろう。
異世界通販本で確認する。
「必要経験値は……」
写真記憶の八倍くらい高い。
結構ヤバイ。
「なんでこんなに高いんだっ!?」
「ステータスの管理は第三天使サードの力によって管理されています。天使の力に干渉するのですから、そのスキルは非常に貴重で、その分ポイントも高くなっています」
「天使サード――聖典にそんな名前の天使はいなかったような……経験値とレベルを管理しているのは、エクシエル様という名前の天使だったはずだ」
エクシエルは世界を害する魔物を倒した者に経験値を授ける天使だ。いつかゼロにどういう天使なのか聞こうと思っていた。
「エクシエルは正確には天使ではありません」
「へ?」
「姿を見せなさい、エクシエル」
ゼロがそう言うと、僕の背後に、小さな光の球が現れて、動き回った。
「これがエクシエル――言うなれば、サードに生み出された魔法の一種です。エクシエルはこの世に生を受けた全ての人に取り付きます。そして、魔物を倒したとき、その魔物の中にある経験値を拾ってきます。そして、その経験値が増えることで、エクシエルの加護が強まり、ステータスが増えます。これがレベルアップの仕組みになります」
ゼロがそう説明すると、エクシエルが消えた。
まさか、ステータスの増加って天使サードの加護――言うなれば、天使から授けられる補助魔法みたいなものだったのか。
なるほど、ゲームのような設定を、無理やり辻褄合わせした結果がこれというわけか。
「それで、その天使サードってのは、やっぱり天界にいるのか?」
「いえ? このダンジョン、三十階層にいますよ?」
「……え?」
「ですから、天使サードはこのダンジョンの三十階層にいます。十階層にはファーストが、二十階層にはセカンドがいます。皆、セージ様にお会いできるその日を首を長くして待っていますよ? 全員、セージ様に忠誠を誓っていますのでご安心ください」
「え……えぇぇぇえっ!?」
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