第20話 レベルアップの代償
「セージ、一人でスライム狩り行ってないわよね?」
夕食時のこと。
姉さんが突然、僕にそう言った。
答えは、最近は一人でスライム狩りなんてしていない。いつもアウラと一緒だから――だ。
そんなこと言えるわけがない。
「行ってないよ」
「レベル上がってるでしょ? 朝と雰囲気が違うのよ」
「気のせいじゃないかな?」
僕は視線を逸らして言う。
実はレベルが上がっていた。納豆事件で二千匹のスライムを倒した後、アウラの機嫌を損ねないために同じ方法は使えなかったので、コツコツスライムを倒した結果、レベル4に上がっていた。
余剰ポイントが2520ポイント増えていたので、レベル4に上がるために必要な経験値は2800ポイントだったようだ。
そのことは家族には教えていないのだが、姉さんは気付いてしまったようだ。
「僕も不思議に思ってたけど、セージはずっと部屋にいたからね」
父さんが擁護してくれた。
だけど、それはそれで怖い。
確かに僕は修行空間に行っているときは部屋にいた。
けれど、父さんが部屋の様子を見に来ていない。
うちの家は玄関を内側から施錠しているようなことはないし、なんなら窓から出ることだってできる。
なのに、ずっと部屋にいたって言い切るってことは、父さんが適当に言っているのでなければ、自室で執務をしながら、僕や姉さんの気配を確認していたってことになる。
スキルも持ってないのに。
「そう、ごめんね、変なこと言って」
「ううん、別にいいよ」
「そういえば、ラナも今日、レベルが上がったよね? もうレベル5かい?」
「うん! そうなのっ! ステータスもだいぶ増えたんだから!」
ラナ姉さんが立ち上がり、自慢げにステータスカードを見せる。
僕からはカードの裏面しか見えない。
「あら? おかしいわね。ラナは今日一日、文字の書き取りの課題を与えたはずだけど」
「……あ」
父さんの誘導があったとはいえ、姉さんは完璧に墓穴を掘ったな。
「勝手に部屋を抜け出したわね? それと、ロジェも気付いて黙ってたでしょ」
「ラナもだいぶ文字を覚えたみたいだし、息抜きも大切かなって思ってね」
「うん、文字は全部書けるようになったよ!」
活路を見出した姉さんが、自分の勉強の成果をアピールする。
「文字の型なんて、変な動きをすればね」
エイラ母さんが頭を抱えて言う。
成長は認めているが、成果は認めていないらしい。
結局、明後日父さんと行くはずだった森への魔物狩りは中止で、その日は一日勉強という罰を言い渡され、姉さんは死刑宣告を受けたような表情になっていた。
「姉さん、ステータスカードを見せて」
「……いいわよ、はい」
どうやら刑は速やかに執行されたらしく、もはや死者の怨念のような声で、僕にステータスカードを見せてくれた。
ステータスカード――教会から発行されるこの紙は、神から与えられると言われている。
見た目はただの紙だ。
しかし、それは決して破れることはないし、燃えることもないし、一番不思議なのは、落としてしまっても気付いたら手元に戻って来る。そして、持ち主が死ぬと消えてしまう。
子供向けのおとぎ話に、悪い将軍が、決して破れないステータスカードを庶民から巻き上げて、決して破れない鎧を作る話があった。しかし、針が通らないため縫い合わせることもできず、糊でくっつけようにも強度が足りずに剥がれ落ちてしまい、それでもなんとか完成させた鎧だったが、衝撃を逃がすことができずに殴られたら普通に痛い上、戦いの最中にカードが元の持ち主のところに戻ってしまい、将軍は裸で逃げ出した――というお話だ。
これは、神様から与えられたものを独り占めしてはいけない、という教訓になっている。
僕は険しい顔で姉さんのカードのある部分を見た。
【レベル5】
ステータスカードには、スキルの表記はないが、レベルの表記がある。
いま、僕はステータスカードを持っていないから、このようにレベルが上がっているのは気のせいだろって誤魔化すことはできるけど、ステータスカードが発行されたとき、僕が伝えているレベルと実際のレベルに大きな差があれば、どこで経験値を稼いでいるのかって絶対に聞かれる。
僕が王都に行くのは半年後――いや、もう五カ月後になっている。
その時までに、なんとかして誤魔化す方法を考えないといけない。
「……なんでそんな難しそうな顔で私のカードを見てるのよ」
「姉さんのステータスは高くていいなって思ってね。きっと、僕が姉さんと同じレベルになっても、姉さんほど強くはなれないんだろうなって思ってね」
「よくわかってるじゃない! そうなの! 私ってステータスの伸びがとってもいいんだって。前にステータスの平均値を教えてもらったけど、同じレベルの子の力や技術の平均値はね――」
どうやら蘇生魔法を使ってしまったようで、生き返った姉さんが自慢げに自分のステータスについて熱く語り出した。
エイラ母さんが、「話は食事が終わってからにしなさい」と怒り出すのに、時間はかからなかった。
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