第260話 新たな召喚
偽盗賊たちが下品な笑みを浮かべて僕たちに言う。
「あぁ、おめえら! 俺たちは盗賊だ!」
「命が惜しければ荷物と金目のものを全部置いていきやがれ!」
「死にたいなら相手してやるがな……あぁ、この後、なんて言えばいいんだっけ?」
「命が惜しければ荷物と金目のものを全部置いていきやがれ!」
「バカ、それは俺の台詞だ! もう言ったぞ。ああ、無茶苦茶だ。俺たちが盗賊じゃないってバレちまう。全員殺そうぜ」
……どうやら、頭の出来具合は本物も偽物も大差ないらしい。
町にいるチンピラでも雇ってきたのだろうか?
それなら、あまり警戒しなくても楽に倒せるんじゃ――
「セージ、気を付けなさい。あいつら強いわよ。たぶん、元傭兵とかそんなところね。冒険者ランクだとCランクってところよ」
「それって、具体的にどのくらい強いの?」
「一対一ならなんとかなるけど二人相手はきついわね」
ラナ姉さんがきついって言うのはよっぽどだ。
それが今回は八人いる。
数の上でも圧倒的不利。
「荷物を置いて逃げる?」
「冗談。逃がしてくれる雰囲気じゃないでしょ?」
「だよね……演技に失敗したから殺すだなんて短絡的過ぎるよ。盗賊の命を差し出すから、僕たちだけ助けてくれないかな」
僕の提案に盗賊たちが怯えた表情で首を横に振る。
まぁ、そんな提案に乗ってもらえるわけがないんだけど。
こりゃ、新しいスキルを使うときがきたようだ。
「召喚っ!」
僕はそう言って魔法を発動させた。
新しく覚えた魔法――召喚魔法を。
「セージ、あんたいつの間にそんな魔法――」
「キルス様の加護かな? 昨日覚えたんだ。そして魔物と契約はもう済ませた」
コパンダが現れた時と同じように地面から姿が現れた。
「……女の子?」
テルが言う。
そう、現れたのは緑色の髪の女の子にしか見えない。
しかし、歴とした魔物だ。
「蔓を使って敵を食い止めてくれ!」
僕がそう言うと、彼女は服の中から二本の蔓を伸ばし、偽盗賊二人を縛り上げた。
「な、なんだこりゃ!」
「バケモンだっ!」
こんな可愛い女の子を化け物だなんて失礼するな。
化け物じゃなくて魔物な。
アルラウネのアウラだ。
異世界通販で召喚魔法を取得した僕は、修行空間でアウラと従魔の契約をすることにした。
実は、以前からアウラに、僕たちの世界に行きたいと言われていた。
六年半前はハイエルフとエルダードワーフはこちらの世界に出て仕事をしたことがあるのだが、その時アウラだけは居残りさせられたことを残念がっていたからね。
普通にこっそり連れ出して見ることは可能なのだが、どうせなら召喚魔法を取得して堂々とアウラを連れ出してみてはどうかとゼロから提案されていた。召喚魔法を覚えた後、アウラと契約することで修行空間からの召喚が可能になるらしい。
そして、昨日、ようやくそのための経験値が溜まったので覚えたわけだ。
それにしても、流石アウラだ。
偽盗賊たちの剣でもその蔓は簡単には切れない。
「今のうちに距離を取るぞ!」
既にアムが馬車を反転させていた。
僕たちはそれに乗り込む。
「アウラも乗って!」
僕の言葉にアウラが頷き、縛っていた盗賊たちを放り投げて馬車に乗り込む。
そして馬車が坂を上り始めた。
「セージ、アウラ役に立てた?」
アウラが尋ねると、「「喋ったっ!?」」とハントとテルが同時に反応を見せた。
喋る魔物は珍しいから無理もない。
「うん、凄く役に立ったよ、アウラ」
「えへへ」
「セージ、いつの間にそんな魔物と契約したのよ。名前までつけて」
「昨日の夜中ね。ロジェ父さんに立ち会ってもらったよ」
アウラが出てきたとき、アルラウネは危険で毒を持つ魔物だからとロジェ父さんも警戒していたが、従魔の契約を結ぶ許可を貰えた。
ロジェ父さんもアウラが人間の言葉を話したことにはとても驚いてたっけ。
「セージくん、あいつら追いかけて来てる!」
アムが言う。
やはり坂道では馬車の速度が出ない。
土操作の魔法で馬車全体を動かすには魔力の消費が激しい。
「アウラがもう一度蔓で止める?」
「いや、それより荷物を棄てよう」
そうすれば少しは馬車の速度も上がるはずだし、運がよければ盗賊たちも足を止めてくれるかもしれない。
僕がそう言った次の瞬間、荷物の木箱が爆発した。
いや、違う。
中から破裂したのだ。
そして、そこから一つの影が凄い速度で飛び出した。
僕には何かが飛び出したようにしか見えなかったが、ラナ姉さんが真っ先にその影の正体に気付いた。
「えっ!? ロジェ父さんっ!?」
後から僕も確認して理解する。
ロジェ父さんがずっと木箱の中に荷物に紛れて隠れていたのだと。
そういうことか。
僕たちは本当の意味で囮であり、本命はロジェ父さんだったってわけだ。
どうりで、さっきからウィルが余裕そうにしていると思ったよ。きっと、ここにいる中でウィルだけは最初からロジェ父さんが隠れていることを知っていたのだろう。
僕たち全員がかりでも倒せないと判断した偽盗賊たちは、次の瞬間には全員制圧されていたのだった。
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