第261話 久しぶりの鉱山町
僕たちは盗賊と偽盗賊を北の鉱山町に連行することになった。
本当はうちの領主町まで連行したいんだけど、人数が多すぎるので一度に移送しているときに他の敵に襲われるリスクを考え、一度鉱山町で捕縛し、小分けにして盗賊を連行、処罰することになったらしい。
ざっとロジェ父さんが尋問してみたところ、偽盗賊の正体はラナ姉さんの予想通り傭兵崩れの元冒険者だった。冒険者ギルドでも問題を起こしてパーティごと資格はく奪になった連中で、飲んだくれていたところを雇われたという。
前金としてかなりの額を貰って、成功報酬もかなりのもの。盗賊活動をして得た物資は全て貰っていいと言われたらしい。
雇い主はマーティア商会の番頭で、邪魔なバズ商会を潰すためだと言っていたそうだが、雇い主が馬鹿正直に名乗るはずがないだろうから、やっぱりヒマン商会の人間なのだろう。
そう簡単に尻尾は掴めないか。
鉱山町にアウラを連れて行くと説明が面倒だというロジェ父さんの言葉に従い、アウラには一度修行空間に戻ってもらった。
「私、ずっと周囲の気配に注意を払ってたのに、ロジェ父さんの気配は全然わからなかったわ」
ラナ姉さんが不思議そうに言うが、気配を消すくらいできるとのこと。
……隠密とか隠形とか気配遮断とかそういうスキルはあるけれど、ロジェ父さん、ノースキルでやってるんだよな。
スキルがなくてもスキルと同じことをやってのけるロジェ父さんは本当に恐ろしい。
いや、スキルがないからこそ、その分鍛錬して身に着けたのだろう。
「ていうか、隠れてるのなら僕たちにも教えてくれたらよかったのに。ハントなんて命を賭けて戦おうとしてたんだよ」
「それを言うな! 恥ずかしいじゃないかっ!」
「そうだね。セージだけでどこまでできるか見てみたかったんだよ。本当はもう少し様子を見ていたかったんだけど、さすがに馬車から捨てられるのは嫌だからね」
僕が馬車から荷物を棄てようとしたから箱の中から飛び出したってわけか。
知らなかったこととはいえ、あのまま馬車から捨ててしまったら気まずい雰囲気になっていただろうな。
いや、ロジェ父さんなら落とされたと気付いた瞬間、地面に落ちる前に落下しながら箱から飛び出すくらいできるか。
そもそも、箱ごと落ちてダメージを受けるとも思えない。
よかった、ロジェ父さんが万能で。
北の鉱山町の周辺には、立派な石壁が築かれ検問所が設置されている。
うちの領主町の城壁より立派な気がするが、魔石の違法な持ち出しを防ぐための検問所なので仕方がない。
「通行書がございましたらご提示お願い――これは一体? 魔石を扱っているので鉱山奴隷は必要ないぞ?」
通常通り業務をしようとする衛兵だったが、馬車に積まれた盗賊たちを見て怪訝そうな顔をして言う。
この国では奴隷制度はないので、鉱山奴隷というのも表向きは存在しないのだけれども、金貸しが借金を返せない債務者に金を貸してる債権者が鉱山に連れて行って無理やり働かせることがあり、その鉱山夫を蔑称として鉱山奴隷と呼ぶことがある。
特に貧しい村から纏めて鉱山に送って来る金貸しとかいるので、僕たちをその類だと思ったのだろう。
「私はロジェ・スローディッシュ子爵です」
ロジェ父さんが子爵家の家紋のついているブローチを見せると、衛兵は驚き敬礼をする。
「し、失礼しました」
「彼らはこの付近を荒らしていた盗賊です。人数が人数ですので、一度この町で預かっていただき、その後数回に分けて移送しようと思っています」
「なんと、盗賊退治に領主様が自ら――英雄の話は単なる噂話ではないのですね」
一人の衛兵が責任者を呼びに行き、残ったもう一人の衛兵が尊敬の眼差しでロジェ父さんを見る。
「ははは。盗賊の半分はこの子たちが捕まえたんですよ」
「この子たちがっ!? 一体彼らは?」
「私の娘と息子、そしてその仲間たちです」
「なんと! あなた様がこの鉱脈を発見したセージ・スローディッシュ様でしたか! いや、噂にたがわぬ素晴らしい御仁ですな」
そう言って衛兵は頭を下げた。
テルに向かって。
「私はセージ様の従者のテルです。セージ様はこちらです」
「え? このパッとしない子が? い、いえ、失礼しました」
本当に失礼な奴だ。
見た目パットしないのは自分でもわかっている。
横でハントが「間違えられてやんの」と言う。たぶんテルに向かって言ったんだろうけれど、刺さってる先は間違いなく僕だぞ。
まぁ、あとはロジェ父さんに細かい手続きをやってもらって、僕は久しぶりにきた鉱山町の見学でもしようかな?
と思っていたら、連絡を受けたらしく、なんか偉そうな人がこっちに向かって走ってきた。
あ、前に一度うちに来たことがある人だ。
確か、この町の責任者をしているコーザだ。
こういう偉い人との話は疲れるから、ロジェ父さんが話し始めたら、こっそりと逃げるとするか。
「お待たせしました! セージ・スローディッシュ様ぁぁぁぁっ! あなたの力を是非お貸しくださいませぇぇぇっ!」
……何故か、コーザは僕を名指ししてきやがった。
それを聞いたハントは、「なんかややこしいことになりそうだし、俺たち子供組は町の見学でもしていこうぜ」と本来僕の言いたかったことを言って去っていくのだった。
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