第225話 三つのスキル

 ダメだ。


 僕が逆の立場だったら、絶対に五歳の子供を災害現場に派遣したりなんてしない。理屈では、それで多くの命が救えるとわかっていてもだ。


 でも、面倒なことが嫌いな僕でもできることがある――いや、僕にしかできないことがあるのに、黙っているなんてできない。


 説得する材料がないなら、作るしかない。


 必要なのは「安全の確保」と「救助手段」、そして「天命」だ。


 災害現場には危険が多い。


 足下が悪いのは最悪なんとかなるとしても、いつ次の土砂災害があるかもわからないし、何かが落ちてくるかもしれない。


 暴動が発生して、命を狙われるかもしれない。


 それらから身を護る術が必要だ。


 問題はそれだけではない。


 僕の魔力保有量の多さも問題である。


 いくら修行空間に行けば魔力が回復すると言っても、それはロジェ父さんもエイラ母さんも知らないことだ。


 今の僕の魔力なら、巨大な土砂を退けたら直ぐに魔力が尽きてしまう。


 そうなったら足手まといにしかならない。


 だが、ステータス偽造で魔力の数値を上げると、なんで急に魔力が上がったのかが? レベルを上げても、なんでレベルを上げたのか説明できない。


 つまり、ステータス以外で魔力保有量を増やせる、もしくは類似する手段が必要だ。


 最後に「天命」。


 僕が行かなければならない、僕しかできない。


 それは神様が決めたことなんだと思わせるような何か。


 それがあったら、ロジェ父さんもエイラ母さんもラナ姉さんも納得せざるをえないだろう。


 だから、僕は決めた。


 そして言った。




「天使様も僕に災害現場に行くようにって言ってるみたい」




 そう言って、僕はステータスカードをロジェ父さんに見せた。


 それを見て、ロジェ父さんは目を見開く。




「セージ、いつから?」


「少なくともさっきまでは覚えてなかったよ。この三つのスキルは――」




 僕はさっき瞬間、「危険予知」「魔力回復」「回避」の三つのスキルを取得した。


 そう、まるで天使キルス様の加護が僕を導いているかのように。


 当然、僕の加護にそんな力は存在しない。


 異世界通販本によるものだ。




   ▼ ▽ ▼ ▽ ▼




 先ほど、僕は修行空間に行った。


 ゼロに出迎えられた直後、僕は彼に尋ねたのだ。




「ゼロ。危険を回避するスキルってある?」


「ございます。危険予知スキル、回避スキルです。危険予知は自信に危険が迫っているときにそれに気づくスキル、回避スキルは攻撃や落下物を避けることができるスキルです」


「魔力の回復力を高めるスキルは?」


「魔力回復スキルがございます。通常の三倍、魔力回復領が高くなります」


「覚えようと思ったら、レベルいくつになったらいい?」


「危険予知、もしくは魔力回復のみでしたらレベル10になれば修得可能です。全て修得しようと思えば、レベル11になる必要がございます」




 レベル10になるには普通にすればあと二週間。レベル11にしようと思ったら、そこからさらに一カ月はダンジョンに潜らないといけない。


 だが、いまはそんなことをしている時間がない。


 いや、この世界だと時間は流れないので時間はあるのだが、これまでの話の流れ、この世界に来た瞬間の僕の姿勢などを覚えておかないと、元の世界に戻ったときに僅かに齟齬が出る可能性が出てくる。


 一日や二日ならなんとかなるが、二週間や一カ月以上も時間を置きたくなかった。




 だから、僕は禁じ手を行った。


 縛りプレイの縛りを解くようなその禁じ手を。




   ▼ ▽ ▼ ▽ ▼




「セージ様、本当にいいんだな?」




 ゼロにフォースを呼んでもらい、僕はそのフォースとともに三十九階層にやってきていた。


 相変わらず深い霧に覆われていて、そして大きな湖が広がっている。


 巨大な水竜――ウォータードラゴンが瀕死の状態で横たわっていた。


 それを見据える僕の手に握られているのは紫色の刀身を持つ魔剣――ドラゴン殺しの魔剣だ。


 これを使えばドラゴン族に対して防御力を無視してダメージを与えることができる。


 この瀕死状態のウォータードラゴンに振り下ろせば、仕留めることができる。


 そうしたら莫大な経験値が入ってくる。




「懐かしいね。昔、フォースに誘拐されてここにこうやって連れてこられたっけ」


「ああ、そうだな。あの時は悪かったって思ってるよ。セージ様の考えを知らずに無理やり連れてきて」




 フォースは少しばつの悪そうな表情をして後頭部を掻きながら言った。


 別に責めているわけじゃないんだけどね。




「でも、セージ様の考えがわかってるからこそ、もう一度聞くぞ。これからするのは、セージ様が嫌ってるパワーレベリングだ。本当にいいのか?」


「確かに、これがゲームの世界だったら、緊急事態じゃなかったら、僕はこんな手段を使わないよ。正直、今回の災害がどこにあるかもわからない町や村が被害にあっているだけだったら、僕は動かなかったかもしれない。でも――」




 いや、これ以上は僕の推測の域を出ない。


 いまは、助けられる人を助けたいという理由で突き進む。




「なるほど。セージ様にも考えがあるってことだな? だったら止めない」


「うん。ありがとう、フォース」


「ああ、礼はいいから――」


「わかってる。ちゃんとフォースのことは倒すよ」




 勇者の場所がわからないから、勇者を探すためのスキルも覚えないとね。


 僕はそう微笑み、死にゆく水竜に無慈悲に剣を振り下ろした。


 そして、僕は忌み嫌っていた成長チートにより、レベル11へとなり、スキルを三つ手に入れたのだ。


 ロジェ父さんたちへの交渉材料は揃った。

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