第171話 新しい商会

 ロジェ父さんとバズたちの話し合いが終わった。

 どうなったかというと、暫くは、ロジェ父さんがバズに支援をしながら、行商人をしてもらうという案が有力なようだ。

 それでも、根本的な解決にはならない。


「皆さんには迷惑をかけるっす」

「いや、悪いのはこちらだ。バズが謝ることじゃないよ」


 ロジェ父さんが言う。

 本当にロジェ父さんは人が好い。


「違うでしょ! 悪いのは、そのムラヤクとかいう貴族と、ヒマン商会って手下じゃない! バズもロジェ父さんも全然悪くないでしょ!」

「僕もラナ姉さんと同意見だよ」


 今日は珍しくラナ姉さんと意見が合う。

 今回の件は二人とも被害者だ。


「ねぇ、ロジェ父さん。どうせ支援するなら、バズに商会を作ってもらわない?」

「いやいや、セージ様。言うのは簡単っすけど、商会を作るには、莫大な資金と支援してくれる後ろ盾が必要で」

「お金については、僕が出す。とりあえず、金貨500枚! 毎月金貨100枚でどう? もちろん、儲かったら返してもらうけど」

「えぇぇぇえっ!? いやいや、セージ様。そんな大金、ぽんっと出せるんっすか!?」


 お金に関しては問題ない。

 イビルミノタウロスの角、巨大な戦斧、そして毛生え薬の売値が合計金貨130枚。うち半分はミントのものになったけれど、半分は金貨65枚。

 あと、王都にいる間に、炭酸水の利益、最初の1ヵ月分として、既に金貨900枚が僕のものになっている。

 これからも毎月金貨900枚が僕のものになるから、月々金貨100枚の融資は問題ない。


「あぁ、スローディッシュ男爵が苦笑してるだけってことは、セージ様、本当にそれだけ払えるんっすね?」

「もちろん。あと、後ろ盾の貴族だけど、メディス伯爵になってもらおうか」

「え!? 魔法学院の理事長っすかっ!? いやいや、無理っすよ。あそこはに――」

「大丈夫。事情を話したうえで僕からの頼みだったら、断らないと思うよ」


 またバズはロジェ父さんの方を見た。

 僕の言葉がそんなに信用できないのだろうか?

 って五歳の言葉を鵜呑みにする方がおかしいか。

 当然、ロジェ父さんは頷く。


「でも、セージ様。商会を立ち上げたとしても、うちがヒマン商会との取引できないってことは変わらないっすよ」

「ヒマン商会のことは諦めても、他の商会と取引すればいいじゃない」

「いや、でもヒマン商会の影響が――」

「その影響をはねのける武器をバズが持ったらいいんだよ」


 僕がそう言って、一本の瓶を取り出し、バズの目の前にある、水が半分残っているグラスに中身を注ぐ。

 バズはそれを見てすぐに中身の正体に気付いた。


「これ、もしかして炭酸水っすかっ!?」

「そう。バズにはこれを売ってもらう。幸い、北部の地域にまで炭酸水は届いていないからね。バカ売れ間違いないよ」

「いやいやいやいや、不味いっすよ! 炭酸水は王家が秘密裏に開発した幻の飲み物っすよっ!? どうやって入手したかは知らないっすけど、許可なく販売なんてしたら打ち首に――」

「大丈夫、許可は貰っているから。確かに王家の独占販売だけど、僕とエイラ母さんが作る炭酸水についてはその限りじゃないんだよ」


 これは独占販売をするときにメディス伯爵が許可を出している。


 ロジェ父さんが「いいのかい?」と尋ねたので僕は「仕方ないでしょ」と返す。

 これをバズに売ってもらったら、僕が炭酸水の開発者だって気付く人は気付くという意味が籠っているのだろう。

 僕は、黙っていてくれたら別に気付く人がいてもいいよと返した。

 どうせ、魔石に付与する術式を宮廷魔術師のグルーシア様に見せた時点で、僕が炭酸水の開発者だということはバレている可能性が高い。

 同時期に、前例のない炭酸水を生み出す術式と魔石付与の術式を考える人物が二人も現れるなんて思ったりしないだろう。

 こうなったらヤケだ。


 ここまでお膳立てすれば十分だと思うけれど、できれば、もう一押し願いたいところなのだが。

 と思っていたら、


「セージ様に女性のお客様がいらっしゃっています」


 アメリアがそう言った。

 僕に客といえば、ハントかカリン、もしくはタイタンくらいだろうか?

 今忙しいから、帰ってもらおうと思ったのだが、アメリアも今の事態はわかっているだろう。

 それでも追い返さなかったということは、緊急事態、もしくは――


「それが、乗ってきた馬車に見たことのない家の家紋がありまして、セージ様の友達のアニスと名乗っておられるのですが」

「アニスっ!?」

「セージ、知り合いなのかい?」

「ロドシュ侯爵家の人だよ!」


 アニスは本屋の責任者をしていて、ゼロの本の大ファンの人だ。

 そう言うと、ロジェ父さんは立ち上がり、玄関に走った。

 僕もその背中を負う。

 僕が追い付いたときには、既にロジェ父さんとアニスさんの挨拶が終わっていた。

 僕とアニスの関係は、既に伝わったらしい。

 ロジェ父さんが、「なんで貴族と知り合いになったことを黙っていたんだ?」って顔をしている。

 あぁ、そういえば言ってなかったか。


「アニスさん、どうしたんですか?」

「もちろん、ゼロ様の本を拝みにきたんですよ!」


 まさか、ゼロの本を読むためだけに、王都から一週間かけてスローディッシュ領まで来たっていうのか?

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