第236話 モリヤク男爵の結末※別視点
何がどうなっておる!
三日前に領主町に謎のゴーレムの一団に襲われたと思ったら、そのゴーレムたちは勝手に儂の領主町を改造しているではないか。
それだけならまだしも、 儂に歯向かった罰として屋敷の中に監禁し、拷問の道具にしておった罪人どもを解放しよった。
アイアンゴーレムは非常に硬く、普通の剣では太刀打ちできない。
魔術師共も役に立たん。
せめて、雷の魔法が使える人間がいたらいいのだが、雷魔法の使い手は非常に珍しく、領内には一人もいない。
「ええい、なんとかならんのかっ! いくら剣で倒せないといっても、取り押さえるなり堀に落とすなりやりようがあるだろうがっ!」
「申し上げます。ゴーレム共は人並みの知恵があるらしく、連携を組み、罠にかけようとするも逆に罠に掛けられ、ゴーレム共が作った牢屋に閉じ込められる始末。兵の七割は既に無効化されて――」
「殺されたか」
「ゴーレムお手製の料理と酒を与えられて寛いでいるそうです」
「なんだとっ!」
「その噂が広まり、近隣の村々からも人々が押し寄せ、ゴーレム共に自ら捕まりにいっています」
「どういうわけだ! そもそも、その食料はいったいどこからきておる?」
「わかりません。大量の小麦粉とビッグトードの肉を持ったゴーレムが現れて、調理をしているようです」
ビッグトードの肉だとっ!?
この辺りにビッグトードの棲む池はないはずだ。
一体何なのだ!
しかも、あのゴーレム、儂以外の人間が領主町に入ってもなにもしないのに、儂が入ろうとすると捕縛して町の外へと投げ飛ばしてくる。
儂はこの領地の主だというのに。
結果、儂は町の外から中の様子を見ることしかできないではないか。
町の中では小さなガキがゴーレムに向かって手を振っておる。
侵略者に対して友好的な態度を示すなど、モリヤク男爵領の領民としての自覚がない証拠だ。
どこの子供かは知らんが、顔は覚えた。
敵の内通者として全てが終わった後で処刑してやる。
「領主様! 報告です!」
「今度はどうした!」
「援軍です! 王国軍二千! 軍を率いているのは宮廷魔術師グルーシア様です!」
「おぉっ!」
まさか、ここに来て宮廷魔術師が軍を率いてくるとはなんたる朗報!
講和派の人間ではあるが、奴は雷魔法を操る。
あの忌々しいゴーレム共を根絶やしにしてくれるであろう。
「さらに、タージマルト戦役の英雄、ロジェ・スローディッシュ男爵も随伴なさっているとのことです!」
「ロジェ・スローディッシュだと⁉」
あの忌々しい若造がしゃしゃり出てきよったか。
あいつさえいなければ、儂も強硬手段に打って出ずとも、時間をかけてエルフ共をなぶり殺しにできたというのに。
だが、まぁよい。
奴を利用して、現状を打破することができれば、兵を再編成し、エルフ共を根絶やしにすればよいだけのことだ。
「ぶふっ、王国軍を迎え入れる準備をするのだ!」
儂は部下共に命令を出した。
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
儂は国の精鋭軍二千人と、それを率いるグルーシアを出迎えた。
脇には忌々しい若造のスローディッシュ男爵も一緒にいる。
だが、ここで怒りを顔に出すわけにはいかず、儂は笑顔で彼らを応対する。
「これはこれは、グルーシア殿。遠路遥々よくぞいらっしゃいました。早速で申し訳ないのですが、我が町を巣食うゴーレム共に裁きのいかずちを――」
「報告! 急ぎ報告がっ!」
「ええい、静かにせんか! いまはグルーシア殿の――ん? なんだそれは?」
伝令が持っていたのは、ゴーレムの首だった。
「町の中にいた全てのゴーレムが突然倒れました。原因は不明です」
「なんだと?」
ここに来てゴーレムの自壊?
わけがわからない。
「申し訳ありません、グルーシア殿。せっかく来ていただいたのに無駄足になってしまったようで」
「いえいえ、私の仕事は残っていますから」
そう言うと、突然グルーシア殿の周りにいた王国軍の兵たちが儂を取り囲み、槍を向けてきた。
「これはどういう意味ですか、グルーシア殿?」
「モリヤク男爵。内乱罪の疑いがあるため、あなたを王都に連行します」
「なんの証拠があって――」
儂がそう言おうとした直後、儂の目の前に見覚えのある男が捕縛された状態で倒れた。
こいつは、儂が雇い、土砂を操って砦を攻撃させた術士ではないか。
儂の屋敷の中にいたはずなのに、何故ここに。
「彼が全て自白しました。あなたに命じられ、エルフに見せかけて砦に攻撃をしたことを」
「違うっ! それは儂を陥れようとする罠だ! そうだ、全てエルフの仕業に決まっておる。現に儂の街はエルフの作ったゴーレム共に」
「被害は?」
「見ればわかるだろう!」
「ええ、ここに来る途中に部下から報告を貰いましたよ。なんでも、ゴーレムたちは町の清掃活動、壊れた家屋の補修、食べるもののない者への食事の配給から、家畜の世話。さらには泣いている迷子の子供を見つけて、一緒にお母さんを探してあげたとか。壊れてしまったのが勿体ない優しいゴーレムたちのようですね。それで、被害と呼べるものといえば、そういえばあなたの屋敷に忍び込んで、勝手にこのような書類を持ち出したそうですね」
儂はその書類を見て血の気が引くのを感じた。
何故なら、それは儂が税の徴収額を誤魔化し、国に納めるべき金を着服している証拠なのだから。
「モリヤク男爵。貴族法廷で全てを話してください。それがあなたにできる、貴族として最後の務めです」
ロジェ・スローディッシュが儂を蔑むような目をして言う。
貴様が言うか。
貴様が、貴様さえいなければ――
「貴様さえいなければぁぁぁぁっ!」
儂はロジェ・スローディッシュに飛びかかったが、奴は卑怯にもその攻撃をかわした。
そして、儂は勢い余ってうつぶせに倒れ、そこを兵共に取り押さえられる。
「反撃してもよかったのですよ? 正当防衛だと私が証言しましたのに」
「ここに来るまでは殴ってやろうかと思いましたけどね。ゴーレムの話を聞いて思ったんです。どこの誰がこんなことを思いついたのかはわかりませんが、きっとこの計画を考えた人は誰かが傷つくところなんて見たくないだろうと」
「ふふっ、同感です。私もこんな男を相手にするよりかは、ゴーレムの残骸を解析したいですよ」
倒れる儂をよそに、グルーシアとロジェ・スローディッシュが楽しそうに話をする。
くそっ、なんでこうなった。
くそぉぉぉぉぉぉぉぉおっ!
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