第89話 馬車二日目の旅路

すみません、第70話が抜けていたことを指摘されて慌てて修正しました。

69.5話、今更の追加になりました。

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 朝起きたとき、既にロジェ父さんは部屋にいなかった。

 木の窓を開けると、外は明るかったが、出歩いている人は少ない。

 朝の五時過ぎだろうか?

 僕にとっては早い時間だけど、朝から農作業をする人は朝食を食べている時間だ。

 窓から下を見下ろすと、ロジェ父さんが素振りをしていた。

 とても綺麗な型だ。

 ラナ姉さんも凄いけど、やっぱりロジェ父さんは格が違う。

 と思っていると、ロジェ父さんが僕を見て手を振った。

 降りてこいと言っているみたいだ。

 まだ眠い。

 とりあえず、修行空間に行って二度寝をした。


 起きたところで、ハイエルフのリーゼロッテに、神から与えられたゲームというものについて教えて欲しいと言われた。

 元々巫女である彼女にとって、神が興味を持っている物に興味があるらしい。

 アウラを誘って三人でゲーム部屋に行く。

 スーパーファミコムの超爆弾男というゲームで遊ぶことにした。

 マルチタップがあるので、四人まで同時にプレイできる。

 アウラとは一度対戦済みなので、リーゼロッテに説明しながら遊ぶ。


「キャァァァっ! アウラ先輩とセージ様二人で挟まないでください! 二人がかりなんて卑怯です!」

「甘いぞ、リーゼロッテ! まずは弱い相手から倒す! ゲームの鉄則だ!」

「そんな鉄則知りません! あ、ずるいです! アウラ先輩一人でアイテム集めて!」

「だって、アイテムあったほうが強くなるし。あ、金の炎だ!」

「こっちもアイテムを……え? なんですか? 骸骨を取ったら爆弾が置けなくなっちゃいました」


 盛り上がった。

 騒ぎを聞いて、リアーナとリディアも合流。

 五人で遊んだ。

 リアーナがリディアとリーゼロッテに二人がかりで攻められていた。


「なんで私ばっかり狙うの!」

「弱い人から倒すのはゲームの鉄則だそうよ!」

「決して日頃の恨みとかそういうものではないわ!」 


 喧嘩にならないように注意した。

 ゼロも誘ったけど、笑顔で断られた。

 ゲームは苦手だと言っていたが、遠慮してくれたようだ。

 さすがに遊んでばかりもいられないので、着替えて元の世界に戻り、ロジェ父さんのところに行く。

 ここまで僕の体感時間は三時間くらいだけど、ロジェ父さんからしたら二分も経過していない。


「じゃあ、一緒に素振りしようか」

「うん」


 素振りをした後、ロジェ父さんに打ち込む訓練もする。

 本気で当てるつもりで打ち込んだけれど、全部受け止められた。

 少し悔しい。


「隙あり!」

「ないよ」


 諦めたと見せかけて木剣を振るうも、ロジェ父さんにその木剣を弾き飛ばされた。

 ここが爆弾男の世界だったら、僕は真っ先に倒されているだろう。

 ゲームの世界じゃなくて良かったと思ったが……ゲームの世界ではないことを否定できない自分もいた。

 ゲームを元にした世界と、ゲームの中の世界……どう違うんだろ?


  ▽ ▼ ▽ ▼ ▽


 朝ごはんは正直美味しくなかった。

 昨日の夕食で期待していなかったので、予想外というわけではない。

 ただ、量が多い。

 子供の食べる量を理解していないのだろうか?

 五歳児なんて、お子様ランチで十分なのに。

 こっそり修行空間に持っていけば、代わりに食べてくれる人がいそうだけど、いまはロジェ父さんとキルケがいるからな。


「セージ、無理に全部食べなくてもいいよ」

「うん、もう無理」

「じゃあ、セージ様が残した分は私がメイドとして処理をしますね」

「キルケは食べない方がいいよ。馬車酔いしたら大変なことになるよ」


 太るよ――とは言わない。

 たとえメイドであっても、女性に対してその言葉は禁句だ。


「え? でもセージ様の魔法で治してくれるんですよね?」

「僕の魔力は無限じゃないから。我慢できるところは我慢しないと」


 修行空間に戻れば回復できるから、無限に等しいんだけど、だからといって頼りにされすぎるのも困る。

 僕が馬車に同乗しないときもあるんだ。

 その時に備えて乗り物酔いを克服するための修行は大事だろう。


「そうだね、いつもセージの魔法に頼りっぱなしなのもキルケのためにはならないね。どうしても我慢できないって言うまでは、魔法を使わないようにしようか」

「え……でも……」

「セージも、お尻に回復魔法を使うのは我慢できるよね」


 ……無詠唱で使っていたんだけど、気付いていたんだ。


 ロジェ父さんの素敵な提案のお陰で、僕の魔法を使う回数は大幅に減った。

 キルケの乙女の尊厳は守るために何度かリラクゼーションを使うことになったが、同じ回数しかヒールを使わなかった僕のお尻は致命傷だ。


「ドンズ、この辺りで馬車を停めてくれ」


 ロジェ父さんが突然言った。

 僕のお尻を気遣って……じゃないよね?

 馬の休憩にしては少し早い気がする。


「旦那、馬の休憩をするのなら、この先に馬が水を飲める池があるのでそこで――」

「いや、休憩じゃないよ。でも、これ以上近付いたら危険だからね」


 危険?


「ロジェ父さん、盗賊?」

「ううん、魔物だよ。そうだ、一緒に退治しようか」

「え? 危険なんだよね?」

「馬が怯えるから危ないってだけで、そこまで強い魔物じゃないよ。ゴブリンよりは強いけれど、怪我をするほどじゃない」


 ゴブリンより強いのか。

 ロジェ父さんと一緒ならそこまで危険じゃないと思うけれど、できることならロジェ父さんが魔物退治にいったとき、こっそり回復魔法でお尻を治療したい。


「父さん、僕は――」

「美味しい魔物だから、退治して夕食の素材にしよう。次の町の宿では持ち込んだ食材を使って自分で調理をしてもいいそうだしね」

「美味しい食材っ!?」


 なんだろう?

 ロジェ父さんがここまで言うってことはオーク肉かな?

 さすがにリザードマンってことはないよね。トカゲ肉の味はよくわからないけれど、食べたいとは思えない。

 いや、もしかしたら植物系の魔物で、美味しい木の実を落とすって可能性もなくはない。

 うん、一緒に行こう。

 ロジェ父さんを信じていないわけじゃないけれど、倒した直後の処理で肉の味は大きく変わる。


「キルケとドンズさんは馬車で待っててね」


 僕は手を振って、ロジェ父さんについていった。

 馬車道を歩くと、大きな池が見えた。

 さっき、ドンズさんが言っていた水を飲むことができる池だろう。

 そして、その横にそいつはいた。


「ロジェ父さん、あれって――」

「ビッグトードだよ。大きいけど、離れた場所から攻撃をしたらそれほど危険はないから安心して」

「うん……やっぱりそうだよね」


 道理で見たことがあると思った。

 修行空間の倉庫に食べ切れない量の肉を保存しているから、見間違えるはずないよ。


「あの肉は鳥肉みたいで美味しいんだ。楽しみにしててね」

「わーたのしみだなー」


 果たして、僕は笑顔で返事できただろうか?

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