第204話 町作り会議

 家族会議が始まった。

 家族会議と言っているが、僕、ロジェ父さん、エイラ母さん、ラナ姉さんの四人だけではなく、アメリア、キルケ、ティオ、そしてバズと内政官として新たに雇ったクリトスも混ざっている。

 つまりは、村との話し合いの前に、こちらの方針を決めておこうという話だ。


「はいはいはい! 私は剣道場が欲しいわ!」

「稽古場は作るつもりだよ? それで問題ないかい?」

「本当にっ!? 私も使っていいの!?」


 ロジェ父さんが頷くと、ラナ姉さんが無言でガッツポーズをする。


「エイラは希望はあるかい?」

「そうね。私は本屋が欲しいわ」

「さすがに本を買い集める予算はないよ」

「わかってるわ。それに、本を管理するにはノウハウも足りないしね」


 エイラ母さんは本当に希望を言っただけで、それが叶うなんて微塵も思っていなかったらしい。

 バズと部屋の端で書記をしていたクリストが胸を撫でおろしていたように見えた。

 もしもロジェ父さんが「GO!」を出していたら、二人はどれだけ苦労しただろうか?


「セージは何か希望はあるかい?」

「僕は市場が欲しいな。あと、大豆畑と大豆の加工場。それと西への街道の整備を進めてエルフの森を抜けて海からいろんなものを輸入してほしいよ」


 僕が言うと、ロジェ父さんが難しい顔をした。

 もしかしたら、エイラ母さんが本屋を希望したときよりも困っているかもしれない。


「セージ。エルフの森との交易は、もう数百年行われていないんだ。そう簡単に森を越えて輸入はできないよ」

「あくまで希望だよ。海産物が手に入ったら、いろいろと料理の幅も増えるからね」


 昆布やカツオブシがあれば、出汁を使った料理ができる。

 豆腐作りには海水から作るにがりも必要だ。

 それに、寒天のための天草も欲しい。


 ……豆乳プリンを餌に、交渉、必要なものだけでも輸入できないかな?

 でも、森の中で生きているエルフたちが、どこまで海のものを仕入れることができるか。


「でも、市場はいいね。バズはどう思う?」

「賛成っすね。計画規模の街では、これまで通りの規模では成り立たないっすし、村民――次期町民たちにも貨幣に頼った売買に慣れてほしいっすからね。市場ができたらうちの商会からも露店を出すつもりっすよ。ところで、セージ様。大豆の加工ってなんっすか?」

「えっと、みんなは大豆ってどんな風に食べてるの?」

「どんな風にって、大豆は茹でて食べるものじゃないっすか? ていうか、家畜の餌にするのも普通で、貧しい食べ物っすよ?」

「そっか。でも、大豆は加工方法によってはいろいろと変わるんだよ」


 僕は大豆の加工方法の説明をした。

 既に試作品はタイタンと一緒に作っていることも説明。


「豆乳――牛乳の代用品っていうのは気になるっすね」

「私はもやしが気になります。肉と一緒に炒めると美味しい新たな野菜」


 バズとティオは早速食いついたな。


「タイタンに大豆を仕入れてもらったって聞いてたけど、そんなもの作ってたの?」

「食べてみる?」


 ラナ姉さんに尋ねた。

 ラナ姉さんが頷こうとしたけれどロジェ父さんが止める。


「ラナ、セージ。話し合いが終わってからね」

「「はーい」」


 二人で声を揃えて返事をした。

 ティオが慌てて口に手を当てる。彼女も食べたかったのだろう。


「アメリアとキルケは要望あるかい? 君達の意見も聞きたい」

「恐れながら、私は服飾店が欲しいです」

「あ、私も欲しいです! この村だと、雑貨屋で古着を買うか、バズさんに仕入れてもらうしかないですもんね。せっかくいいお給金を貰ってるのにオシャレに服を使えないなんて残念ですよ」


 アメリアとキルケがロジェ父さんに言う。

 この町で服を入手する方法はキルケの言う通り古着を買うかバズが仕入れた服を買う。もしくは布を買って自分で仕立てる――という方法もあるが、キルケは不器用だから難しいんだろうな。


「服屋っすか? まだ需要はないっすから専門店となると赤字になるから難しいっすね。商会店舗の一部を使って服の販売は可能っすよ」

「それだけでもありがたいです」

「え、私はドルンのような専門店があったほうが――むぐ」

「キルケもありがたいと言っています」


 アメリアがキルケの口を塞いで一礼をする。

 ナイス判断だ。


「ティオは何か要望があるかい?」

「…………カフェが欲しいですね」

「カフェ? タイタンの食堂じゃダメなのかい?」

「あんなむさくるしい男が店主の店がカフェなわけがありません!」


 確かに同意っ!

 でも、ティオ。自分の父親をむさくるしい男扱いってどうなの?

 その後も、様々な意見が出て、とりあえずこちらの町作りの要望はまとまった。


 それを元に村民との話し合いが始まる。

 普通なら難航すると思っていた話し合いだが、杞憂だったらしい。

 村民たちの話し合いは結構早くまとまった。

 ロジェ父さんの人徳もあるだろうが、ここでの功労者はエイラ母さんだった。

 元々貧しくやせ細っていて、開墾に向かない土地だった大地を、蕎麦やジャガイモを育てることくらいはできる大地に作り替えたのが、エイラ母さんの魔法だったのだ。

 つまり、畑を失ってもエイラ母さんの魔法があれば、来年の春には新しい畑が作付け可能な状態で用意してもらえるという打算が働いているらしい。

 こうして、本格的な町への改革はスタートした。


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