第246話 誕生日パーティ

 その日の夕方から誕生日パーティが始まった。

 会場は家の中ではなく、中庭で行われることになった。大勢の人が集まるから、屋敷の中では狭いのだ。

 これでも僕は町の人気者だ。町がここまで発展したのは、ロジェ父さん、エイラ母さん、そしてバズの次くらいに貢献していると思う。そのため、僕の誕生日を祝いたいという人は大勢訪れる。

 この時ばかりは、僕も村の人に愛されていると――


「いやぁ、セージ様の誕生日はご馳走がいっぱい並ぶから」

「本当だよな。領主様やエイラ様の誕生日だと気兼ねして腹いっぱい食べれないが」

「セージ様の誕生日なら遠慮なくただ酒ただ飯を飲み食いできるからな」

「ところで、セージ様って何歳になるんだっけ?」

「興味ねぇな。それよりまずは酒だ!」


 愛されてるよね?

 なんか、僕が来たときには既に宴会状態なんだけど。


「おーい、セージ! 揚げ物料理はねぇのか?」


 そう言ったのは、友達の少年――ハントだ。


「揚げ物はいまティオが作ってるよ。ていうか、俺への祝いの言葉はないのか?」

「そうだった。誕生日おめでとう。お前も十二歳か。てことは、カリンも十二歳なんだな」

「カリンは元気でやってるの?」

「手紙だと王都で元気にやってるそうだぞ。今度、ルジエールさんの支援で個展を開いてみるんだってさ」


 友達のもう一人、ハントの妹で僕にとっては幼馴染のカリンは二年前から絵を学ぶために王都の美術教室に通っている。

 美術学校ではなく、あくまで教室レベルなのは、学校と呼べるほどの生徒の数がいないからだそうで、場所も魔術学院や騎士学校の近くの学生通りのアパートの一室で行われているらしい。

 芸術に理解のあるド・ルジエールさんや投資目的のバズ商会の支援もありいい生活を送れているようだ。

 王都まで馬車で一週間もかかる距離だから、年に一度くらいしか帰ってきていない。

 ただ、バズ商会の王都の支店経由で月に一度手紙が届くそうだ。

 僕のところにも三カ月に一回くらい届くが、個展を開くというのは初耳だな。


「そっちこそ、ラナさんはどうなんだ? カリンからの手紙にもあまり会えてないって書いてあったけど」

「騎士学校は全寮制だから自由に王都を出歩けないんだよ。でも、今度帰って来るって書いてあったよ。いつかはわからないけど」

「それだけ?」

「あのラナ姉さんが細かい近況を送って来るわけないでしょ」


 僕がそう言うとハントは納得するように頷いた。

 と思っていると、さらに二人合流する。


「ハント、来てたのか」

「相変わらず煩い奴だな」

「おう、アムにテル。友達ダチの誕生日なんだから来て当然だろ」


 祝いの言葉より揚げ物の場所を聞いてきた奴がよく言うよ。

 今来た二人は、僕の部下として働いているウィルの子供で、姉の方がアム、弟がテルだ。

 アムは見習い冒険者としてハントと一緒に時々ゴブリンを狩りにいったりしている。

 テルは騎士志望らしく、いまは訓練所で騎士たちの世話をしながら、時折稽古をつけてもらっている。


「やぁ、セージくん。誕生日おめでとう」

「セージ様、お誕生日おめでとうございます」


 ハントと違ってちゃんと祝いの言葉を掛けてくれた。

 アムはここ数年で一気に女性としての魅力が上がった気がするし、テルもカッコよくなった。

 二人とも町に新しくやってきた同年代の子供たちから注目の的になっているが、どちらも異性についてはあまり興味がないようで、そういう浮ついた話は僕の耳には届かない。


「これ、私からのお祝いの品です」

「これは私からだ」


 テルはワインの入っている瓶、アムからは毛糸で編まれた馬のぬいぐるみを貰った。

 ワインは贈り物の定番で、この世界だと十二歳くらいから飲酒は普通だから理解できるけれど、アムがぬいぐるみを持ってくるのは少し予想外だった。


「十二歳の青少年にぬいぐるみはいささか失礼だったかな?」

「ううん、そんなことないよ。ちょっと驚いたけどね。こんなの売ってるんだ?」

「いや、それは私が編んだんだ。本当は手袋や帽子を編もうかと思ったのだが、結局私が一番好きな物を編んでしまったよ」


 え? これをアムが自分で編んだの?

 彼女が馬のことを愛しているのは知っていたが、編み物も得意だったのか。

 意外な才能だな。

 マフラーとかセーターとか、手編みのものって前世では一度でいいから異性からプレゼントされてみたいって思ってたけど、まさか生まれ変わってプレゼントされて、しかもぬいぐるみになるとは。


「ありがとう、アム。大事に部屋に飾らせてもらうよ」

「そう言ってもらえると嬉しいな」

「テルのワインもね。うん、ワイン煮込みに使ったら肉が美味しそうだ」

「……できれば飲んでいただきたいのですが」


 でも僕、お酒はあんまり好きじゃないんだよね。

 二十歳くらいになったら美味しく感じられるのだろうか?

 しばらくは寝かせておいて、その時に飲むとしよう。

 ゼロに預けておけば、ワインの管理もしっかりしてくれるだろう。間違っても、修行空間にたまにやってくる酒飲みのおっさんたちに見つからないようにしないとな。


「あれ? ハントは?」


 さっきまでいたはずのハントの姿が消えていた。

 揚げ物でも探しに行ったのか? と思ったら、走って戻ってきた。

 なにしてたんだ?


「セージ! これ、俺が摘んできた山菜だ! 誕生日プレゼント!」

「お前、誕生日プレゼント用意してなかったからあわててその辺の野草摘んで来たのか」


 わらびだ。

 食べられる。

 天ぷらにしたら美味しい。おひたしもいい。


「一応、誕生日プレゼントは必要ないって言ってたからいいよ。あそこにいる大人たちなんて僕が来る前から酒を飲んで騒いでるんだし」

「そうなのか!?」

「そもそも、誕生日に何かをプレゼントするのって、あんまりメジャーじゃないそうだしな」


 することといったら、いつもより少し豪華な食事を食べるくらいらしい。

 ちなみに、ロジェ父さんからは僕の身体に合うサイズの剣、エイラ母さんからは王都から取り寄せた魔法に関する本をプレゼントしてもらった。

 どっちも子供が貰って嬉しいものではない。


「なんだ、俺だけプレゼント忘れたと思ったよ」

「まぁ、貰っておくよ。この季節のわらび美味しいし」

「え? それって美味しいのか?」

「知らないで持ってきたのかっ!? 言っておくけど、わらびは灰汁抜きしないと毒だから食べたらダメだぞ」


 とりあえず、わらびは誰かが間違って食べないように、料理を運んできたアメリアに食糧庫に運んでもらった。

 そして、アメリアが運んできたからあげ串をさっそく手に取るハントたち。


「うめぇ。セージの作った料理の中でも、このからあげって料理が一番美味しいよな!」

「食べながらしゃべるな。まぁ、からあげは確かに美味だがな」


 テルがそう言って、から揚げ串を食べる。

 美味しいよね、からあげ。

 最初にラナ姉さんに作ってあげたとき、一週間連続からあげを希望された。

 毎日からあげを作るのは大変だったな。


「なぁ、セージくん」

「アムもからあげ串食べる?」

「いただくが、あの馬車は君の招待客のものかい?」

「え?」


 振り返ると、馬車が近付いてくるのが見える。

 その馬車には見覚えがあった。

 メディス伯爵家の紋章が入っている。

 中に入っているのは――


「天使かな、悪魔かな……」


 僕の心配をよそに馬車は近付いてきて停止した。

 そして、そこから降りてきたのは、


「ただいま。いま帰ったわよ」

「セージ様! お誕生日おめでとうございます!」


 二人の女性――ラナ姉さん悪魔ミント天使を伴ってやってきた。

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