第一五一話 久々の白兵戦をやってみた
黄巾賊は劣る兵力で相討ち覚悟で攻めてきた最中、後方でけたたましく鳴る太鼓の音を聞いた私は眉根を寄せる。
新手の黄巾賊かと思ったが後陣にいる盧植からの伝令が無い。
太鼓の音はかなり速いペースで何度も叩かれていた。兵法書である『
私は後方を確認する。今は『
「斜め後ろ……西北側から土埃が横に広がっている」
土埃が横に広がるということは歩兵が進軍しているとうことだ。
近くにいる兵も私と同じ方向を見ていた。
「一体なんなんでしょうか?」
「
「援軍!? すると、そろそろ来るって噂の
兵は破顔しながら詰め寄ってきたので私は静かに頷く。
一方、黄巾賊は刀傷や矢傷を負っても手を緩めることなく得物を振るっていたが太鼓の音を聞いてから、興奮状態が解けてきたのか逃げ出す者が増えだした。
しばらくして、土を踏む数多の靴音が聞こえると共に、陣の外にいる黄巾賊が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。賊が向かう先は当然、城内だ。
靴音が聞こえる方向(西北)を確認すると、視界に援軍であろう部隊が掲げる旗――『漢』と書かれた軍旗が見えた。
決まりだ。
「援軍が来ました! 好機です! このまま城内に入りましょう! このまま城に籠られても相手は飢餓状態となって降伏するか自滅するだけですが、北方にいる
私は矢継ぎ早に状況の説明をする。
「ここは下曲陽から僅か五〇里(二〇キロ)の距離です! 相手の援軍が来るとしたら一日かかります! 早期決着が求められます!」
私は喋り終わると同時に、後陣から太鼓がドンッ! ドンッ! と叩く音が聞こえた。
「『
「「「おおおおおおお!」」」
兵士達は私に雄叫びで応じると『方陣』(各陣が正方形の陣)へと移行し突撃を開始する。
私は愛馬の腹をトンッと足で軽く叩いて走らせ、背後を振り返る。
「おお……」
思わず感嘆してしまった。数万の援軍が一斉に疾走し、怒濤の勢いで土埃が舞い上がらせ、ドドドドドと靴音を立てて走ってきてるのが分かる。
こうして見ると黄巾賊側からしたら恐怖でしかないと思う。
彼らは妄信的に張角を信じており、死を恐れない勢いで攻めてきていたが新手の軍勢が全力疾走してきたので頭が冷えて、戦々恐々としたに違いない。
私は城内へと入り、石で舗装された街路を駆け抜け、前方にいる歩兵達の前を抜かす。私は町の中心地へと向かっていた。中心には敵の指揮官がいる宮殿があるはずだ。
すると視線の先には民家から飛び出した黄巾賊の直刀を上方へと弾く
「はぁ!」
彼は気合を吐くと共に両刃の剣を肩口に振り下ろした。黄巾賊は絶叫しながら倒れる。すると、再び民家から黄巾賊が四人飛び出した。辺りを見ると次々と建物から賊が飛び出して兵達を襲っていた。苦し紛れの奇襲ではあるが、犠牲は少ない方がいいので宮殿に向かうのをやめて私はここで戦うことにした。
「
「お、おれ!
漢民族の言葉を喋り慣れていない騎乗中の南匈奴族が私と並走する。
「
「わかっだぁ!」
私は愛馬の手綱を渡す。
南匈奴族は騎馬異民族なだけあって一人が二、三体の馬と走ることもできる。そうすれば一体の馬が疲れた際に乗り換えて機動力を上げれる。また、今の私のように南匈奴族を頼り、馬を預けることで騎兵から歩兵へと移行することも可能だ。
さて、久々に白兵戦をやろうか。
私は田疇の横を通りつつ、馬から飛び降りながら前転をした。すると目の前にいた黄巾賊が口を開こうとするが、
「うがっ!」
立ち上がると同時に愛刀を抜刀し、腹部を突き刺して絶命させた。
田疇は私に気付くと、駆け寄ってくれる。
「
「田疇、助太刀しますよ」
「田豫が隣にいるのは心強いな」
私は田疇と背中を合わせ、武器を体正面に構える。
「こいつらを取り囲め!」
近くにいる四人の黄巾賊は私達を囲むように立つが、
「こ、こいつ『黄巾殺し』だ!」
「……でもこの人数なら勝てるだろ、うがっ!?」
私の顔を見て賊達は後退ると、一人の賊の頭に矢が刺さり、地面に体を預けていた。
「田豫! ぼさっとしてると流れ矢で死んでしまうぞ!」
「分かっています!」
私達は飛び出して敵に斬りかかった。
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