第一二四話 謎の統率者と猛者
包囲した賊達を討ち取った後、戦線を押し上げ、敵を退却させて勝利したかと思ったが、
「戦列がばらばらだ……」
私は味方の足並みが揃っていないことに気付く。
確かに賊達は目の前からいなくなったが、私がいる部隊だけが戦線を上げていた。
「
「て、
私は友人の声に気付いて振り向くと程全は口端から血を流し、右瞼が腫れ上がって目を開けれない状態になったうえに一人の兵に肩を担がれていた。
「悪い……逆包囲自体には成功したが、賊をまとめてるやつが強くて並の兵じゃ太刀打ちできなくてな、俺が戦おうとすると今度は俺が相手に囲まれちまって手こずっている間に賊共に逃げられちまった」
「君が手こずる猛者が賊にいるということですか……いや猛者というより兵をまとめるのが上手いのかもしれません」
普通の賊じゃない。話を聞く限り並みの統率者じゃない。
「で、
今度は頭から血を流している兵が一人やってきた。
「どうしました!」
「田疇は逆包囲には成功したのですが信じられないぐらい強い男がいて誰も歯が立たず、田疇自身も負傷してしまっています」
「田疇は無事なんですか?」
「浅い傷なので命に別状はないのですが横腹を斬られており戦線復帰は不可能かと」
「そうですか……」
程全どころか田疇も負けたのか。しかも田疇の場合は一対一でやられたようだ。
天賦の才による武力の持ち主か、歴戦の猛者の可能性が出てきた。
「その男が賊達を連れて包囲を抜け出してしまったという状況です」
「俺と同じ感じような状態か……」
そう言って程全は歯軋りをする。悔しいのだろう。
「おいおい見ろよ田豫」
程全の視線の先を見る。賊が退却した方向だ。
「あれは……突撃してきますね」
敵は陣形を整えようとしていた。
考えやがった。こちらは包囲が失敗したうえに兵をまとめる程全と田疇が戦闘不能にされたせいで士気が下がっている。人数はこちらの方が多いが、また突撃されてしまえば本当に突破されるかもしれない。
それに正体不明の統率者と猛者がいる。
「ただの賊じゃないようです。頭も回るみたいですし」
ここで退いて劉備の下に行くのもありだが追いつかれれば犠牲が出る。ならば防御型の陣形になって――
「敵が全力疾走で来ます!」
――考える暇さえ与えられなかった。
敵がやってることは私が
この戦術を敵側にやられると厄介にもほどがある。
「皆聞いてください! 気力で負けたらお終いです。足並みが揃ってない以上、策を練っても付け焼刃です」
私は発破をかけることにした。
「全力で敵を迎え撃ちます! 『黄巾殺し』の田豫こと私が先頭に立ちます! 私は未だかつて賊と戦って負けことはありません! 私に付いてくれば大丈夫です!」
とりあえず実績を盾に皆を奮い立たせよう。
「「「‼」」」
少し沈んだ表情をした兵の顔に精気が戻った気がした。
私が兵をまとめて先頭に移動する。
「程全、
「分かった」
程全は神妙な顔で頷くと後方に下がった。
「ふぅ……」
私は息を吐いたあと、目一杯、空気をを吸い込み、
「行くぞおおおおおおおおおおおおお!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼‼」」」
全兵を戦いに駆り立てた。
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