第一二三話 兵数と戦術による圧倒……?
私は
私は歩兵と歩幅を合わせるために愛馬の手綱を引いて歩いていた。
「む!?」
横にいる田疇が声を上げた。ちなみに反対側には程全がいる。
「どうかしましたか?」
「見ろ、あれは黄巾賊ではないぞ」
「あっ、本当ですね」
田疇は遙か前方にいる黄巾賊を指差す。
彼の言う通り明らかに黄巾賊じゃなかった。黄巾賊は頭に黄色の頭巾を身に付けているが、前方の賊は頭巾を付けていなかった。
程全はニヤケ面を浮かべて、
「へへっ! 烏合の衆ってところか。楽勝だな!」
負けるフラグを立てやがった。
「今の台詞、物凄く雑魚っぽいですね」
「そのうち足元をすくわれる奴の発言だな」
私は呆れつつ言葉を返すと田疇も続いた。
「うっ……」
精神的に負傷した程全だったが、
「田豫だって目上の人にはゴマすり野郎になるだろ」
やり返してきた。
「当たり前だろ! ゴマすってなんぼだろ!」
「開き直りやがった!」
「ふっ」
私達のやり取りに田疇は鼻で笑っていた。
「そういや
「閻柔は昨日食べたものが当たってしまって戦える状態ではないです」
「運がないやつだ……」
田疇は眉を八の字にしていた。
しばらくして皆、無言になる。敵と激突する瞬間が近いからだ。私は馬に乗る。
「
「仰せのままに」
私は背後を振り返らずに後方にいる斉周に呼びかけた。
今回は
「程全! 田疇! 手筈通りに動いてください」
「もちろん!」
「分かった」
それから程全と田疇はそれぞれ兵の一団を率いて横に移動し、戦列を広げ――
「「「ぬおおおおおおおおおおおおおおおお」」」
私達は雄叫びを上げながら、正体不明の賊と正面衝突する。
「――『黄巾殺し』覚悟ォ!」
私は馬に乗っている賊と交戦していた。
というか顔を見られただけで異名を呼ばれるとは。
賊達の間には人相書きが出回っていて、その中に私の顔が載っているとかありえそうだ。
賊は右横から曲刀を振るってくる。単調な動きだ。
「っ!」
私は相手の攻撃を愛刀で受け止めて、鍔迫り合いをしたあと、
「ウワー! ツヨスギルヨー」
相手の一振りに耐えきれず、体をのけ反ってしまう演技をした。
多分、下手な演技だったと思うが、
「ふはっ! 噂ほどでないな!」
賊は吹き出しながら、勢いづいていた。こいつちょろいぞ。
その間に私は馬を左側に曲がらせて後退した。そして私に合わせて周囲にいる兵達も後ろに下がる。
「待ちやがれ!」
賊が追いかけてくるのでわざと追いつかせる。
私は振り向きながら、賊が振ってくる曲刀に応じる。
「ダメダ―。カテナイー」
私は再び後退する。
そろそろだ。敵は私がいる戦列を突破しかけている。
「今です!」
私が合図し、身を反転させると、他の兵達も後退をやめて身を翻す。
「おい! こいつらこんなにいたか!?」
「囲まれてるんだ! 俺達は誘われたんだ!」
賊達は慌てふためく。彼らの前後左右には私の兵達がいた。
これは逆包囲という戦術だ。
突破寸前の状況は攻撃側の戦力が突破部分に集中しすぎる場合があり、まさに今戦っている相手がそうだった。私の戦列にいた賊達は攻め過ぎたが故に、まんまと私の兵に囲まれてしまったというわけだ。
「なっ――」
私は先ほどまで交戦していた騎兵の首を一振りで
逆包囲は私がいる戦列だけではなく、程全と田疇がいる戦列も同じように行っているはずだ。
敵の倍の兵力と逆包囲の戦術で敵を圧倒している。
問題はないはずだ。だが、あまりにも順調に事が進んでるからこそ不安に駆られる。
前方にいる賊が槍を突き出してきたので槍の柄を掴んだ。
「ばかな!? ぐうぇ!」
私が柄を掴んでいると兵士達が賊を突き刺してくれた。
あっという間に包囲された賊は駆逐されたが、
「なんだ」
遠方から騒がしい声が聞こえた。程全のいる方だ。
いや、田疇がいる方も騒がしい……何が起きた?
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