第四一話 なんだかんだ熱が入る
私は
「おい
公孫越の連れがそんなことを言う。
「そう焦る必要はない。
「うーん、そうですねぇ」
私は急造されたであろう楕円状のレース場を見る。レース場は木の柵で作られており、一一匹の犬がそれぞれ人に抱えられていた。犬達は番号が書いてある布を着ているようだ。
正直、見たところでどれが足の速い犬かなんて分からないが。
「もうちょっと近くに寄って見てきます」
私は整列している人達の近くに寄る。彼らはこれから走る予定の犬を抱えていた。特に目立つのは人の腕の中で暴れてる犬だ。
「痛い痛い! 噛むな!」
暴れている犬を抱えている人物は必死に犬の動きを抑制していた。
この時代に転生してからの心配事の一つだが何かしらのウィルスにかかった時点で人生終了な気がする。ワクチンや抗生物質なんかあるわけがないので犬に噛まれたときに狂犬病にかかるのが怖い。
しばらく犬を見ていたがどれも一緒に見えてきた、足の長そうな子を選ぼうかな。
「ワンッ! ワンッ!」
細身の犬が吠えて、素早くキョロキョロと宙を見渡していた。
「こらこら、静かにしなさい」
決めた。あの犬にしよう。
私は細身の犬に賭けることにした。大した根拠は無いが、光るものを感じたのだ。
「なんだね? ここは子供の遊ぶ場所じゃないぞ」
「お金は持っています」
木製の机の上で金銭の勘定を行なっている賭場の開催人に話し掛けると嗜められてしまった。
「持っているお金なんか知れてるよ。さぁ、行った行った」
「お金を見てから言ってください」
私は懐から麻袋を出し、口を広げて中身を見せる。開催人は中身を見ると目を輝かせた。
「ほほう! これは良銭ではないですか! さぁいくらかけるんだい? 年齢なんて関係ないよ!」
さっきと言ってることが違う。
私が見せた銅銭は
貨幣不足のため、人々は銅銭を薄く切ったりして無理やり数を増やしている。それを悪銭と呼ぶ。対して私の持っている銅銭は寸法や重さが規定通りのため良銭と呼ばれていて価値が高い。
「では八番の犬に賭けます」
「はいよ!」
私は銅銭を一〇銭ほど出した。時代背景が違い過ぎて、二十一世紀の貨幣と変換できないが、感覚としては一万円ぐらいだ。
ここにはもう用がないから、公孫越の所に戻るか。
「――どの犬に賭けた?」
「八番の犬です」
公孫越の問いに答える。
「ほぅ、なるほど」
公孫越の連れの一人が呟き、続いて言う。
「細身でスラっとした身長だが、果たして筋力はあるかな、体力はどうかな? 体のアドバンテージを活かせるとは思えない。いやなに、これは俺個人の感想であってだな」
なんか語ってきた。ガチ勢は怖い。
「公孫殿はどの犬に賭けたのですか」
「四番だ」
「あの真っ白で毛並みが綺麗な犬ですね」
「というか、それがしの立場上あの犬にかけるしかない」
「それはどういう……?」
「おっと始まるみたいだな」
開催人がレース場を囲って見ている私達観客に呼びかけて注目を集めていた。
「――それでは合図と共に犬を出走させます!」
犬を抱えた人たちが屈んで競争犬を離す準備をする。
「それでは、始めい!」
競争犬は一斉に飛び出した!
私はなんだかんだ興が乗っていてわくわくしていた。たまにこういったことに参加するのは楽しいものだ。
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