第一七三話 胸躍る英雄達との共闘

 私達は地面の下にいた黄巾賊の伏兵と対峙した。互いに得物を持っている状態だ。黄龍こうりゅうが味方を呼んでくるまでこの場で賊を抑えて持ちこたえれば問題はない。


 しかし、地面から出てきた数百人の黄巾賊は私達を見て驚き戸惑っていた。


「えっ、なんだあいつら」


「なんで俺たち外に呼び出されたんだ?」


 無理もない反応だ。彼は私達が追い詰めた賊が鳴らした銅鑼を合図に地面の下から出てきたのだが、地面から出てきたかと思えば目の前に私達がいる状況だからだ。


 また、私達が就寝したときに奇襲をかける手筈だったのかもしれないが今は休憩はしているものの官軍は誰一人就寝していない状態だ。


劉兄りゅうにい関兄かんにい! 一番槍は俺様だ!」


 張飛ちょうひは右手に持った矛を八の字を描くように振り回しながら黄巾賊へと突っ込んでいった。


「あいつら、官軍じゃねえか!」


「へっ、あれしきの人数で何ができる!」


 黄巾賊はようやく事態を呑み込めたようだが、こちらの人数を把握して嘲笑っていた。


 こちらには劉備、関羽、張飛、曹操そうそう夏侯惇かこうとん夏侯淵かこうえん、そして私こと田豫でんよの計七人がいた


 にしても……私の田豫という名前が霞むぐらい濃い面子だ。最近は三国志の大物と出会い過ぎて驚くという感情が薄れているが、改めて、英雄達と肩を並べていることを実感している。


「この猪野郎、ぬおっ!」


 張飛に向かって賊の一人が剣を持って近づこうとしたが、賊が攻撃を加える前にあまりにも速すぎる張飛の一突きで絶命していた。


「おらおらおらぁ!」


 さらに張飛が横一文字に振るう矛で三人の賊が致命傷を負い、吹っ飛んで後方にいる賊達に倒れこんでいた。


「なんという……猛者!」


 曹操は張飛の粗削りながらも圧倒的な力に感嘆しつつも言葉を続ける。


えん元譲げんじょう、こちらに回りこもうとしている敵を討つ! 一切、手の動きを緩めるなよ!」


「ほま、やりますかね!」


「さて、いくぜ」


 夏侯淵と夏侯惇は意気揚々と応じ、曹操に付いていく。


「こいつら三人で来やがったぞ」


 黄巾賊は数十人ほどこちらに迂回してきていた。私達を囲んで叩くつもりなのだろう。対して曹操達は先手必勝と言わんばかりに黄巾賊と正面衝突した。


「はっ!」


「ぐっ」


 曹操は袈裟斬りで賊の一人を討ち取る。さらに流れるように突きを繰り出して二人の賊を串刺しにした。夏侯惇と夏侯淵も怒濤の勢いで敵を駆逐していく。圧倒的な人数差ではあるが兵士としての熟練度が違う。


 なにより、曹操の「一切、手の動きを緩めるなよ!」という発言で夏侯惇と夏侯淵に発破をかけることで士気を高めて数十人の賊を圧倒している。


 三国志で一番の兵法家は誰か? という議論があれば曹操の名前が必ず挙げられる。もしかしたら、曹操は意図的に発破をかけのかもしれない。私もよく、部下の士気を高める言葉を言うことはあるがそれはあくまで大人数での戦いのときだ。三人を数十人の敵にぶつけるとき同じことが言えるのだろうか?


 知力以上に決断力が優れた人物といえるかもしれない。


「余らも行くぞ!」


「うむ」


「ええ!」


 劉備に私と関羽は応じた。後、一分もすれば援軍はくるだろう。それまでに英雄達と肩を並べてこの直刀を振るおう。


「はああああ!」


 私は劉備、関羽と共に張飛の後を追い、敵に向かって斬り込んだ。

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