第一七四話 太平道との決戦、下曲陽の戦い

 黄巾賊の伏兵を直刀で斬り続けていると、


田殿でんどの!」


 前方にて大刀で賊を一刀両断している関羽かんうが話しかけてきた。


「なんですか! って、うわっ!」


 関羽に気を取られた私は背後から振るわれた槍をしゃがんで避ける。そのあと私は槍を振るってきた賊を足払いで転ばせたあと、直刀を斬り上げて相手の首を斬った。


「これを受け取れ!」


 関羽は右手に持った大刀の柄で近づいてきた数人の賊を吹っ飛ばし、左手でとあるものを投げてくる。

 

 私は攻撃を加えようとしている賊に向かって直刀を投げつけて、首を直刀で貫かせる。次いで私は跳躍して関羽が投げてきたものを両手で受け取った。


「これは......! 関殿かんどの! ありがとうございます!」


 関羽は賊から奪ったであろう弓と矢筒を投げ渡してくれた。私の愛用している弓矢は野営地に置いてきている。まさか戦闘になるとは思わず軽装備で来てしまったのだ。


劉殿りゅうどの! 張飛ちょうひ! 後方へと下がるので援護を頼みます!」


「承知した!」


 劉備が返事をしてくれたあと、急いで駆けつけてくる。彼に張飛も続く。


 そして、左右から迫ってくる賊を劉備と張飛に対処してもらってる間、矢筒を背負い、敵に突き刺した直刀を回収し鞘に納めた。


 さらに私が後方へと下がらせてもらう間も二人に賊から守ってもらった。


「はっ!」


 私は気合を入れて、後方に跳んで混戦の中を抜けた。当然、賊も追ってくるが私は跳びながら弓を構え矢を弦につがえており、


「っ!」


 声にならない声を出しながら矢を放ち、相手の額を射抜いた。その後、賊達から距離を取るために四回後方へと跳ぶ。


「ふぅ……」


 私は深呼吸したあと、標的以外の視覚情報を省き、弓矢に触れている指先の神経に集中する。


「視覚認知能力向上、射撃状態」


 いつものように視覚認知能力を向上させつつ、射撃に特化した状態になる。

 

 矢筒に入ってる矢は二三本か……効率よく一人一本で討ち取りたいところだ。


 私は弓を横に構えて二本の矢を弦に番え、


「はっ!」


 黄巾賊に向けて矢を放った。二本の矢によって二人の賊は倒れる。さらに次々と矢を矢継ぎ早に放ち続ける。


「なんだあいつ!」


「に、二本同時に矢を放ってるぞ......! 人間離れしてやがる!」


 黄巾賊は私の弓矢の腕前を恐れ、近づこうとはしなかったが、


「お前ら情けないな! 大して離れてない距離だ! こんなもん盾持って詰めればいいんだよ!」


 他の賊より一際、恰幅が大きい賊が突っ込んできた。彼は木製の盾を顔面の前に構えていた。私は放った矢を彼の肩に突き刺したが、


「ぐああああっ!」


 雄叫びを上げながらも突っ込んできた。


 おいおい……痛覚ない人かよ。


 私は怪訝な顔をしながら左手に弓を持ったまま、右手で直刀を抜刀する。


「それを待ってたぜ!」


 賊は盾を捨て、加速して迫ってきた。中々、走るのが速いやつだ。すぐに距離を詰められてしまった。


「片手で俺の剣を止められるわけがねえ!」


 賊は両手に持った剣を振り下ろそうとしていた。


 ――――制限解除三倍。


 私は右腕全体の筋力の出力を三倍にし、相手の得物に対して真っ向から直刀をぶつける。


「ぐっ、あ、あああっ!」


 賊は力負けして、自身の剣が体にめりこんで仰向けに倒れた。


「おいおい、鮑達ほうたつがやられた……」


「あいつが片手で力負けしちまったぞ……」


 鮑達……誰? 三国志の伝記にはないな。村一番の力自慢といったぐらいか。


「あれが黄巾殺しか…………兵法だけじゃねえ……弓と剣の腕前も異常だ」


 黄巾賊は私を恐れ慄いていた。


 また、


「おらおら!」


「に、逃げろ!」


 張飛と対峙している黄巾賊は背を見せて逃げており、


「だ、駄目だ、俺達の動きが読まれちまう!」


 曹操そうそうらと対峙していた黄巾賊は後方へと後退していった。


えん、敵を深追いするなよ。囲まれたら助けるのが大変なんでな」


「ほいよ」


 一方、曹操は夏侯淵かこうえんを窘めていた。


 そして、斜面の下から数多くの靴音が聞こえる。野営しようとしていた仲間達だ。


 予想より、援軍がくるのが遅かったが、


「に、逃げろ!」


 すでに黄巾賊の伏兵は慌ただしく逃げていたので問題はない。


 明日、張角軍と戦う予定だったが、予想外にも伏兵がおり、戦闘を開始してしまった。もう黄巾賊との決戦が始まってると言っても過言ではないのかもしれない。これから先は将軍である皇甫嵩こうほすう盧植ろしょくの指示に従おう。

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