第一二六話 全てを上回る相手 田豫対徐晃
青頭巾の男が目前に迫りながら大斧を振るおうとする刹那の間。
頭の回転速度が上がる。
後ろに跳んだところで相手はすぐに距離を詰めてくるだろう。
一瞬で首を
ならば、
「――やられる前にやる!」
弓矢と矢筒を捨てながら愛刀を抜刀し、相手との距離を詰める。
相手は一瞬、両眉を吊り上げたが、それだけだった。
筋力の出力はすでに三倍に跳ね上げてる状態での一振りと相手の斧がかち合う!
「ぐぅ‼」
私は刀越しに伝わってくる衝撃に耐えきれず、呻きあげながら、後ろに数歩下がって倒れそうになる。
「次はない」
青頭巾の男は左から右へと斧を振ってくる。倒れそうになった体を無理やり右に捻って刀をぶつけるが、
「ちぃ‼」
舌打ちをしてしまった。
斧の衝撃に耐えきれず、後方に吹っ飛ばされて地面を転がりながら立ち上がった。
「仕留めきれなかったか」
青頭巾の男は淡々と呟きながら斧を担いだ。
強いと言う言葉だけで表現できる相手じゃない! 五年の
間違いないあの青頭巾も一緒だ。
「一騎当千の領域に到達せし者……!」
そのとき、先程、矢を太ももに食らっていた口髭の男が立ち上がる。
苦し気な表情で口を開く。
「
「この者は恐らく『黄巾殺し』。身に纏っている黒い袍、矢を的確に二本放てる技量、そして恰幅からは想像ができないほど腕力が強い少年、噂に聞く特徴と一致します」
「それは確かか⁉」
「ええ」
青頭巾の男の名は徐晃! やはりか。
一騎当千の猛者だと分かった瞬間からなんとなく分かっていた。
彼の
後に
冷静沈着な名将であり、軍を率いたときは遠方まで偵察したり常に敗れたときのことを考えたりする用意周到さを持ち合わせながら攻めるときは徹底的に攻める特徴をもつ男だ。今まさに彼は徹底的に攻めてきている。私を討てば勝利する未来が見えているんだ。
徐晃と一緒にいるあの口髭の男の名前はきっと――
「
「仕方ねぇ……くそ、まさかお前が『黄巾殺し』のガキだったとはな」
――やはり、楊奉か! 彼は足を引きずりながら後退する。
楊奉も歴史に名を残した人物で勇猛な男ではあるが頭が弱いらしい。だが彼が率いる軍を曹操は手強いと評価していた。このことから統率力に優れた男だということが分かる。
これで掴めたぞあの軍の正体が黄色い頭巾こそ被ってはいないが
徐晃は大斧を両手で持って前に構えた。
「いくぞ」
まるで死刑宣告を受けたような感覚に陥る。
「くそ……!」
同じく得物を両手で持つ。筋力の出力を三倍にしてもこのザマだ。
勝てない今まで通りの戦い方では!
徐晃は前傾姿勢で突っ込んでくる。
「はっ! とおっ!」
彼は斧の刃を地面スレスレの場所に当てながら、振り上げてくる。
「………っ!」
声にならない声を出しながら斧を苦し紛れに横に受け流す。
二合目――切り返してくる斧に対して全体重を載せた刀を叩きつけて、攻撃を逸らす。
しかし三合目――
「ぐあっ!」
――再び振り上げてくる斧を受け止めるのが精一杯で斧が振られた方向に転がっちまう。
三回ほど転げ回ったあとに立ち上がってみせた。
「はぁ……はぁ……」
「……なんだその構えは?」
思案顔の徐晃。
こちらは息を切らしながら両腕をだらんとぶら下げて体を弛緩させていた。今、筋力の出力を三倍から通常の状態に戻そうとしていたのでこのような体勢をとっているわけだ。
ここで私が討たれれば確実に背後にいる兵は総崩れする。まともに打ち合えば勝てないかもしれないが負けるわけにはいかない。
ここは筋繊維がズタズタになるのを覚悟で前に踏み込むしかない!
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