第一三二話 本当にこの時代のオカルトは強い
私と
私達も新たな卓を
卓の上には、もち米とうるち米を混ぜたご飯、牛の背肉焼き等の料理が置かれていた。
私は食事を摂りながら、真向かいにいる簡雍に目を向ける。彼は横にいる左豊と話していた。
「『黄巾殺し』よ、ちょっといいか」
私は私で横にいる人に話しかけられてしまった。
「なんでしょうか?」
「矢を五本同時に射たり、一里(四〇〇メートル)離れた相手に短剣を当てることができるという噂を聞いたが真か?」
「えっ」
話に尾ひれが付きすぎ。
もうそれ生物の域越えてるだろ。一騎当千の猛者どころの話じゃない、やり投げの世界最高記録でも一〇〇メートルはいかないぞ。典型的な現場を知らない人間の意見だ。にしても飛躍しすぎではあるが。
「いや、それはさすがにできませんよ。まあ似たようなことはできますが」
とりあえず見くびられないように抽象的な話をした。
「おお、さすが!」
「ははは……」
乾いた笑い声が出てしまった。
「この乱が終われば何か大きな褒賞が貰えるかもしれませんな。もし
「そのときは是非、よろしくお願いします」
少し鼻に付く態度だったが、まあ洛陽の内勤者からすれば前線で戦っている者はどれだけ功績を重ねても、野蛮人にしか見えないのかもしれない。
そう思いつつ、私は再び簡雍に目を向ける。
「俺も田豫もね、
「そうだろうそうだろう!」
「っ! ごっほごっほ!」
簡雍が左豊に言った出鱈目で食べていた牛肉を喉に詰まらせそうになった。
私は胸を叩き、なんとか肉を呑み込む。
なるほど一緒に盧植に対して不満を持っている体をとることで距離を縮めようという魂胆か。
気が引けるな。さすがの私でも無理くり恩師の悪いところを言うのは苦手だ。簡雍は盧植と特に接点がないので気兼ねなく、ああいう手段を取れるのだろう。
簡雍か左豊がこちらに話を振ってくることを想定しながら食事を終えた。
――結果、食事中は簡雍が上手く私と左豊を絡ませなかったので盧植の話をすることがなかった。
さすが簡雍だ。私の精神面をフォローしてくれていた。
酒盛りが終わったあと、とりあえず一泊するための金銭を亭長に払い。
左豊が泊っている部屋に入った。もちろん簡雍も一緒だ。
「おお待っておった。さあ早く胡椒を渡してくれ」
「これをどうぞ」
入ってくるなり胡椒を求めてきた相手に対して私は麻袋を渡す。
「すっかり話に盛り上がってしまって忘れてしまったからな」
左豊は麻袋を大事そうに懐に入れた。
次に簡雍が話しを切り出す。
「ところで聞いた話なんですけど、
「ああ、そうだ。全く思いだしたくもない」
左豊は顔を
ここからは簡雍と一芝居打つことになる。
「それはまずいですね」
「いやぁ~まずいね」
簡雍と顔を合わせると相手はキョトンとした顔を見せる。
私は口を開く。
「実はですね。盧中郎将は人を呪う力があるらしいのです」
「の、呪い? あいつは
戸惑いを隠せない左豊。
「分かりませんが、盧中郎将の機嫌を損ねたものは皆、嘔吐や下痢に見舞われ」
「酷いときは死んだ人もいる」
私の言葉に簡雍は続いた。
「し、死んだ人!?」
左豊は顔を青ざめさせていた。
「わ、私は大丈夫なんだろうか⁉」
「「うーむ」」
再び簡雍と顔を見合わせる。
そこで私はわざとらしく拳でもう一方の手のひらを叩く。
「左豊殿は知っていると思いますが私達は
「おおう、知っておる」
「その義勇兵の中には代々占い師の家系だったものがいるのです。その人の当てる未来は百発百中で明日の天気や人の誕生日を必ず当ててしまうのです。そしてその人は起こる不幸さえも当てることができます」
「そりゃ凄いな……是非、私の身に降りかかる不幸を占って欲しい!」
「分かりました。では明日お連れしてきます」
そう言って私は頭を慇懃に下げて退室する。なお、簡雍は相手が朝廷の役人にも関わらず手のひらを軽く振って退室した。これは簡雍だから許されるのだろう。
「上手くいったな!」
「ですが本番はこれからですとりあえず悪い結果だけを伝えても左豊は盧植を讒言する可能性があります。そこで呪いが本当にあることを証明しなければなりません」
「これから準備するのか?」
「ええ」
「なら付き合うわ!」
私と簡雍はさらに左豊をビビらせるための準備を行った。
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