第一三三話 恐怖の占い?

 簡雍かんようと共に左豊さほうをビビらせる準備を終えた私達は夜が明けたあと、盧植ろしょくの陣へと戻り、再び夜のとばりが落ちるのを待った。


 今回は簡雍だけではなく夏舎かしゃも連れて朝廷の役人達がいる亭へと移動し始めた。


「……僕、怪しい人になっていると思うんだけど。これ考えたの田豫?」


 夏舎は困り果てた顔で自分の体を見ていた。


 彼は今、黒い外套、黒い頭巾を身に纏っていた。


「私じゃないですよ」


 横にいる簡雍を指差した。


「でも相手はお前さんに注目すること間違いなしだ。それに夏舎はまだ一五歳だろ、舐められないようにヤバい奴になりきれって」


「うわっ」


 簡雍は発破をかけるように夏舎の背中を叩いた。


「とりあえず私が言った通りの台詞を言ってくださいよ」


「分かったよ。台本ちゃんと叩き込んであるから任せてよ」


 夏舎は人差し指で自身のこめかみ辺りをトントンと突く。


 それから私達は昨日行った、てい(宿舎)へと向かい、すぐに左豊が泊っている部屋に入った。


 とりあえず挨拶だ。


「昨日ぶりです」


「おお! 待っていたぞ、そちらが占い師か……随分と若いな」


 左豊は夏舎の格好に面食らっていた。


「ぼ……私は夏舎と申す」


 夏舎は僕と言いかけつつ、拱手こうしゅで挨拶する。


「早速だが私の未来を占ってほしいです」


 左豊は見たことないぐらい丁寧な態度をとっていた。


「ふむ……いいでしょう」


 夏舎は存在しない顎鬚を片手で撫でていた。


 威厳を出したいようだ。


「ちなみに夏舎殿の占い方法とはなんでしょうか?」


「ほ、星占いであらゆることが分かります……」


 夏舎は尻すぼみに喋っていた。


 彼、真面目だからあんまり嘘付くのが得意じゃないと思う。


 その後、私達は星を見るために宿舎の外へと出た。当然、この時代には地上に人工的な光が無く、大気が汚染されていないので星々は燦々さんさんとしており、幻想的な美しさを醸し出していた。


「ふぁ~」


 簡雍が欠伸する前で夏舎は顔を見上げて星占いを始める。


 彼、星占いできないけど。


「むむむ」


 夏舎がなんか言い出した。何がむむむだ。


「ど、どうだろうか!」


 左豊は夏舎の顔を覗き込む。


「左豊様の心持ち次第といったところでしょうか」


「私の?」


「ええ、洛陽に着くまでに中郎将に対して邪なことをしようとする心を持っていれば災いが自分自身とその周囲に降りかかるでしょう」


「そ、そうか……」


 納得いかない面持ちの左豊。


「具体的にはどんな災いだ?」


「そうですね……身体的に痛い目に合う可能性があるかと。あの星がそう言ってます」


「ほう」


 夏舎は星に向かって指を差す。

 

 こいつ適当なこと言い出したぞ。夏舎もノリにノッてきたみたいだ。


「以上で占いを終わります」


 夏舎は頭を下げた。


「ふむ、そうかそうか。邪な心を持っていなければいんだな」


 左豊はそう言いながら亭へと戻っていた。


「こんなもんでいい?」


「上出来ですよ」


 一気に疲れた顔を見せる夏舎。


「では明日の出立時に左豊らに対して芝居を打ちましょうか」


 私の言葉に簡雍と夏舎が頷き、再び、亭へと泊まった。


 ――翌日。


 亭の前には役人用の馬車――軺車しょうしゃが二台泊まっていた。


 軺車というのは一体の馬が屋根が付いている二人分の座席を引いており、見栄えがいいものとなっている。


「少し先まで送ってもいいでしょうか?」


「ん? 別にいいが」


 私は馬車に乗った左豊の了承を得て、少し先まで付いて行く。


「「「……………」」」


 しばらく簡雍、夏舎と共に歩いていると。


「お、おいもう着いてこなくていいぞ!」


「そうだ。別に付いてきたからと言って得することは無いぞ」


「どうせ媚びを売りたいのだろうがお前たちが洛陽で働き始めたら考えてあげようではないか」


 左豊以外の三人の役人が喋り出す。


「すみません。つい名残惜しくて」


「そうか……?」


 私の言葉にさすがの左豊は不思議そうな顔をする。


 まあ昨日今日会った中でこんなに懐かれるとは思ってなかったのだろう。懐いてはいないが。


 よし、今から盧植を助けるために行動するぞ。

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