第八二話 赤髪の兄妹
庁舎が集っている敷地と同じ広さで、役人達の憩いの場らしい。元々、池があった場所で造園したとのこと。
庭園に足を踏み入れる私は辺りを見渡しながら歩く。
今が一月でなければ、この場は緑で生い茂っていただろうに。また、雪が降っていれば美しい冬の情景が見えたはずだ。
「田豫見つけたよ」
夏舎の視線の先には紅色の髪を生やした男と女がおり、二人は池を眺めていた。
「私も気付きましたよ。あの二人は目立ちますからね」
男は立ち尽くし、女は池の間近でしゃがんでいた。
私達は背後から二人に近づくと、男がこちらの方を向く。
「夏舎に……
男は私を見て口元を綻ばせていた。彼の名は
呼銀は北方民族なので、当然、馬術、弓術に優れている。知力をかなぐり捨てて脳筋タイプになった私といえば分かりやすいだろうか。
「ようやく会えたぞ。まったく、手間かけさせちゃってよ」
呼銀は正面にいる私の肩を軽く叩く。
「まさか呼銀が来てくれてるとは思いませんでしたよ」
「俺達は一族の中でも居場所がねぇ連中だし、かといって漢民族の連中には歓迎されてるわけでもねぇ。なら、仲の良い連中と居場所を作るほうがいいと思っちゃったんだよ」
「呼銀の父親は前の前の
「だろうな」
ちなみに単于というのは北方民族国家の君主のことである。呼銀の父親は漢王朝の人間が気にくわないというだけで殺されてしまい、その人間によって別の単于が立てられた。さらに今の単于はその息子である。呼銀の父親を死に追いやった人間は処刑されたが今の単于にはお咎めはなく、呼銀は肩身が狭い思いをしていた。
しばらく、呼銀と話していると、
「あー!
池をしゃがんで見ていた女、いや、女の子は駆け出してきた。
「その格好なんですか……
「いつも通りだもん」
女の子は私に抱き着こうとしていたので肩を押さえて止めると頬を膨らませていた。彼女の格好を見て、思わず驚き、動きを止めてしまったのだ。
袖がない服を着ていた張飛も大概だったが、この子の服装は相変わらず寒そうだ。
彼女の名は
一二歳の少女ではあるが、彼女も北方民族故に馬術、弓術に優れているので、貴重な戦力である。
「とにかく、また会えてよかったです」
「うんうん!」
私は嬉しそうにしている雪と握手を交わす。
「聞いて
「馬鹿いえ、俺は途中から地上に下りて、敵を斬りまくってたんだぞ。俺の方が討ち取った数が多いって」
討ち取った賊の数でマウントを取り合う物騒な兄妹。
「そういえば、
「庁舎の敷地内にある宿舎にいるよ」
夏舎は私に応じてくれる。
「ではこのあと、劉殿のところへ行きましょうか。ところで呼銀、一つ聞いていいですか」
「一つとはいわず二つでも聞いちゃっていいぜ」
「君が連れて来た兵は全員で何人ですか?」
「二〇〇人だ。俺に付き従う人達全員連れてきた」
二〇〇……そういえば
「当たり前のことを聞きますが、全員、馬に乗れるんですか?」
「当然!」
自信満々の呼銀。
ということは騎兵は全員、南匈奴族の人達だったのか。
これが丸々、私の動かせる兵となるのはありがたい。
私が思案顔を浮かべていると夏舎が私の求めている答えを言う。
「ちなみに南匈奴族以外にも田豫に付き従う人は一〇〇人はいますよ」
「結構いますね」
「田豫が若くして私塾に通っていたのはこの辺りで有名ですから、私含む若い知識人達が集まっています。あとは君が度々、
だとしても一〇〇人は思ったよりは多い。
いや照れるな。そこまで若者に人望があったなんて。これからはインフルエンサー田豫と名乗って若者の代表となろうかな。
私はしたり顔をする。
「まあ付き従ってる知識人は名士の庶子で末っ子だったり、没落した豪族だったりしますからね。
夏舎の言葉で気が滅入った。
お金が尽きたから、皆、とりあえず勝ち馬に乗った感じか。
「大丈夫なんですかね、その一〇〇人……」
不安そうに私は呟いた。
「大丈夫だよ。その人達が頼りにならなくても、セツが最後まで田兄に付いて行くもん!」
力強い
感動した。
「
「なにそれ? 食べ物?」
役に立たないと思うが、一応、天使という存在を説明し、愛らしいという意味で天使と呼んだことを教えると
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